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私小説⑤ 市町村出禁

新年早々悩んでいた。

父親はどこに住んでいるのかわからない状況だった。
その父親が東北地方のある県の市役所にいる、来てほしいと市役所の窓口から電話があった。


昔から、父親とは考え方や行動が合わなかった。

今日はその一つを紹介しようと思う。

実家は児童公園の近くにあったのだが、毎年、児童公園で神社主催の夏祭りが開催されていた。
現在は限界集落と化している生まれ故郷だが、当時はそれなりに住民の数もおり、血気盛んな若者も多くいた。
そうした若者たちがどこから沸いたのか、年に一回、児童公園に集まり、夜通し宴会をし、神輿を担ぎ、最後はなぜか米俵も担ぐという祭りだった。

ある年、父親は「毎年毎年、うるさい」という理由で「文句を言ってくる」と言い出した。

母親を筆頭に私も全力で止めたのだが、どうしても忠告を聞かなかった。

父親は児童公園に集まる若者たち目がけて、殴り込みに行った。

ベランダの物干し竿を携えて。

勢いだけは花道をゆく歌舞伎役者並みにあった。

ただ、それが「正しい行動なのか」という点がどうしても腑に落ちない。
普通に考えたら若者が寂れた地域を盛り上げている訳なので、むしろ活気があって良いことである。
加えて、一応、地域の神社主催の伝統ある祭りなので伝統文化を守るという意味でも若者の貢献は大きい。
正義は若者にあり。
戦力的にも50人はいた。

案の定、父親はボコボコにされて涙を流して帰ってきた。

さらに、主催者側の神社から二度と神社に寄るなといわれた。

こうして父親は不名誉にも日本初の神社出禁になったのだった。


どう市役所に返答したら良いのか、そもそも市役所から電話があるというのは何をしでかしたんだろうと思い悩んだ。
結局その日のうちに返答するのは止めにした。

もしかしたら日本初の市町村出禁になるかもしれない、そう考えると頭が痛くなってきた。

一度、落ち着いて考えようと思い、台所で皿洗いを始めた。
ふとシンク横に置いてあるキッチンハイターを見て、耳からぶち込めば頭の中のしつこい思い出汚れもとってくれるかなと真剣に悩むのだった。


※一部、実体験を含みますが、フィクションです。

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