「市場価値」ではなく「希少価値」でキャリアを広げる、という考え方
こんにちは、フリーランスマーケターのkevinです。今日は、キャリアづくりに関して最近考えていることを、実体験をベースに書いてきます。
はじめに|「市場価値」への疑問
人材業界を中心として、世の中では「市場価値」という言葉をよく目にします。
「あなたの市場価値は、もっと高いはずです(なので転職しませんか?)」
「自分の市場価値を知りたくて、エージェント登録しました」云々。
最近の転職支援サービスの広告やWebサイトでは、自分のスキルや語学力などを選択すると、目指せる年収を提示してくれるものまであります。
特定の業種や職種におけるスキル・経験値を数値化すること自体は今の潮流ですし、特に好きでも嫌いでもありません。
しかしその流れに完全に身を任せてしまうことにも一定のリスクが潜んでいるような気がします。専門スキルや語学力など個々の能力を単体で見て加算していき、その総計を「あなたの市場価値です」というのはなんだかモヤモヤしてしまいます。(あくまで転職支援サービスによる”フック”であることは理解しつつ)
なぜなら、スキルや経験値は「足し算」ではなく「掛け算」だと考えるから。この市場価値の考え方を踏襲すると、自分の本質的な価値に気づけないままキャリアを転々としてしまう、なんてことにもなりかねません。かく言う僕自身、20代の頃はやりたいことをその都度単体で追求し、その結果色々と迷走もしてきました。
「市場価値」は、一生誰かと競争し続けること
「市場価値」の前提には、特定のプールの中で自分が相対的に見てどのあたりの位置にいる(べきな)のか?という考え方があります。その位置を可視化するための1つの手段が「想定年収」のような数値です。
しかし、これは基本的に足し算方式で算出されるので、スキル同士の相乗効果はほとんど考慮されません。イメージとしては「英語ができる」で1点、「統計学の知識がある」で1点、「Web広告の運用ができる」で1点・・・のような感じです(あくまでイメージです)。
足し算方式だと、結局は個々のスキルの習熟度や経験年数といった専門性が加点対象になります。スキル同士の相乗効果や補完性は考慮されません。
これ、広く薄くのキャリアを歩んできた人にとってはシビアです。
そして、近しい職種やスキル・経験を持つ人たちと同じ土俵の中で背比べをし続ける構図であると気づいたのです。
これは結構しんどいな……少なくとも、僕はそう思ってきました。
なぜだろう?と考えると、僕がジェネラリスト志向の強いマーケターだからだと気がつきました。ジェネラリストの場合、1つの専門性を深掘っていくより、さまざまな経験値を積んでそれらを有機的に活用してアウトプットする方が圧倒的に多い。
なので、市場価値の考え方で足し算方式でキャリアを設計していくと、早い段階で天井が見えてしまうのです。どれだけスキルや経験の幅を広げても、結局は1+1+1・・・みたいな積み上げにしかならないので。
このように考えていった結果、自分が歩んでいきたいキャリアの考え方は世の中で言うところの「市場価値の最大化」ではないな、というものでした。
「市場」から脱出し、「希少価値」を高めていく
市場価値は足し算方式だとご説明しました。
「じゃあ、あんたはどうやってキャリアを作っていきたいの?」
という疑問の答えは、「希少価値を高めていきます!」ということになります。
「希少価値」は、スキルや経験値の“掛け合わせ”でスキル同士のシナジー効果を最大化させることを指します。(あくまで僕個人の定義です)
「これができる、あれもできる」のようにスキルを単体で捉えるのではなく、「これができる、あれもできる。あ、それならこうゆうこともできるな」というように結びつけて、拡張していく。これが自分の闘い方だなと最近はっきりと自覚しました。
そして、このさまざまなスキルや経験値を結びつけて拡張してった先にこそ、「希少価値」が生まれることもわかってきました。
「希少価値」を高めるための、3つの条件
さて、ここまで「市場価値」の世界から脱出して「希少価値」の世界でキャリアを”積算”していくお話をしてきました。
希少価値は、一部の天才のみに許された特殊スキルではありません(当然、僕も天才ではありません)。
誰でも意欲さえあれば実現できますが、自分の個人的な経験からいくつかの条件を満たす方が良さそうなことが見えてきました。
条件①掛け合わせられるスキルは、3つ以上を目指す
掛け算的な考え方なので、シナジー効果を引き起こせるスキルは多い方がその相乗効果も高まります。
例えば、英語力(レベル2)x web広告運用スキル(レベル3)よりも、英語力(レベル2)x web広告運用スキル(レベル3)x Webデザインスキル(レベル2)の方が 「6」対「12」で勝ちますね。
あくまでイメージ上の話ですが、掛け合わせスキルが2つだと足し算方式と比べて差が出にくいです。上の例でたとえるなら、2+3 = 5と、2x3=6くらいの差しか生まれません。
でも3つの場合だと、2+3+2=7と、2x3x3=12まで差が広がります。
条件②1つ1つのスキルレベルを最低でも「中級者」程度にまで高める
「とにかく掛け合わせられるスキルを増やせばいいなら簡単じゃん!」と思ったあなた、ちょっとお待ちを。
2つ目の条件として、1つ1つのスキルを最低限、「中級者」くらいにまでは引き上げておく必要があります。
全部が初級者レベルのスキルや知識だと、いくらかけても「1」のままで相乗効果は生まれません。それどころか、「希少価値」ではなく単なる「何でも屋」に終わってしまいます。
「中級者」とはどの程度のレベルか? 大体以下の3点を満たしているかが目安かなと思っています。
そのスキルについてひと通りの実務経験があり、成果を生む(または目的を達成する)ためのhow-toをわかっている
自分よりスキルや知見のある人とも、それなりに深い議論ができる
その分野について全く知らない人に対し、わかりやすく説明ができる
そんなスキルでも1年以上〜3年程度の実務経験がないと、希少価値の水準に持っていくのは難しいと思います。それぞれのスキル単体でもお金をもらってお仕事をもらえるくらいになる、くらいのイメージでいてください。
条件③相乗効果を期待できるスキル同士を身につける
当然のことですが、掛け合わせるスキルは一連の仕事の中で組み合わせられるものであるべきです。極端な例ですが、公認会計士の方がWebデザインのスキルを持っているとして、どちらの仕事をメインにするにしても日常的な業務内でのシナジーはほとんどないでしょう。(別個のスキルとして、副業などで活用できるとかありますが)
僕の場合でいうと、Webマーケティングとクリエイティブ(ライティングやデザイン)はとてもシナジー効果の高いスキル同士です。マーケティングの仕事をしていると、広告バナーやサイト・LP、動画広告などなど、とにかく「作りもの」が日常的に発生します。
ほとんどの場合、マーケターはクリエイターではないので、制作物自体は外注(または社内のデザイナーに依頼)します。自分は、時間と環境が許せば、簡単なLPやバナーくらいは自作できます。
実際にマーケの仕事を請け負っていてバナー制作もその一環で行うケースはけっこう多いです。
これができないと仕事をもらえない!ということではないですが、クライアント的にはタイパとコスパが良くなる話なので、喜ばれる要素になります。
自分がこれからやっていきたい仕事の中で、どのようなスキルや知識があると希少価値を発揮できるのか?を考えることが大切なのです。
ジェネラリストこそ、すべての施策を自分の手で触ってみる経験が大事
先ほど1つ1つのスキルレベルを最低でも中級者レベルにはしましょう。と書きました。書いたものの、自分を振り返ってみれば「初級者レベル」のスキルも全然あります。
さすがに仕事でメインの職務範囲ではありませんが、それでも仕事で使うスキルの中にも「中級レベル」までまだ達してないかもと感じる領域はあります。
言いたいのは、必ずしも全部のスキルを中級レベル以上にしなくても希少価値は身につけられるということ。そのためにはスキルの取捨選択をすることが大事です。
自分が追求したい希少価値性において、mustなスキルとnice-to-have(あったら素敵な)スキル、あまり必要ではないスキルにわけて考えると、自ずと答えは出てくるかなと。全部のスキルレベルが「1」だといくら掛け合わせても「1」のままですが、「3」とか「4」の中にたまに「1」があっても、少なくとも害はないですよね。もし必要性を感じたら、「1」 のスキルの専門性を高めれば良いのです。
もう1つ、ここでお伝えしておきたいことがあります。それはジェネラリストこそ、自分の手で施策を動かし、失敗から学ぶ経験が必要だということ。
マーケティング系の職種だと、たまに「広告やデザインのディレクションはできるけど、自分自身で運用や制作をしたことがほぼない」という人がいます。
僕の中では、自分で触ったり失敗したことがないスキルは、掛け合わせの観点では弱いと感じています。分野にもよるかもしれませんが、さまざまなスキルの有機的に結びつけて活用する際に「経験知」がものを言うのではないか、と考えています。
一般論として知っていることより、あの時自分はこうやったけど失敗した(上手くいった)と言う方が説得力があるし、現場仕事をしていたからこそディレクターには共有していない些細な発見や気づきの蓄積があります。
そういうのを無視して、スキル同士の掛け合わせによるシナジーは生まれづらいと言うのが、現時点での僕の考えです。
仕事選びが重要!場数を踏んで、「希少価値」を磨き上げる
ここはフリーランスを目指す方や、現在フリーランスとして仕事をしていて、もっと上流の仕事がしたい!収入をあげたい!と思っている方が対象になります。
特に、今は広告運用などの現場仕事ばかりやっているけど、もっとWebマーケティング全体に関わりたい。マーケティング領域の仕事に加えてブランディングやWebディレクターといった周辺領域にも拡張していきたい。そのような方にとって少しは参考になるかもしれません。
結論としては見出しの通り「仕事選び」が重要です。良い仕事を見つけること。ここでいう良い仕事とは、報酬が高い、と言う意味ではありません。
自分が目指す希少価値のベクトルに向かっていける環境かどうか、です。
コアスキルを軸に、領域拡張をしていける仕事を選ぶ
フリーランスの場合は基本的に即戦力を求められるので、自分のコアとなるスキルセットが必要です。(ここがないと、さすがに希少価値を高めるのが難しい)
その際、その求人案件の「背景」をしっかり読み取ることです。
例えば、Web広告が得意な人がもっとWebマーケ全体の戦略立案から携われる仕事を見つけたいとき。
あなたなら、どちらの求人を選びますか?
求人A
・Web広告の運用担当者を急募している
・社内には広告担当以外のマーケティングポジションは充足している
・CMOがマーケ全体を統括し、集客やCRMなど目的に特化した部隊がある
求人B
・Web広告の運用担当者を募集している
・まだ創業まもないベンチャーで、社長が片手間にマーケ戦略を考えている
・マーケは若手の正社員が1人いるが、経験が浅く戦略などは任せられない
問題が簡単すぎましたが、ここで選ぶべきは「求人B」ですね。求人Aの方だと、広告運用だけしか関われない可能性が高そうです。一方、求人Bは明らかにマーケティングのリソースが不足しており、戦略立案からWebマーケティング全体を設計できる人材が必要です。
人は不確定要素を避ける習性があるので、求人Aを選びたがります。(僕は迷うことなくBの方を選びますが…) その方がやるべきことが明確なので、これまでのスキルを活かせば安定的な報酬も得られるわけです。
しかし、希少価値を高めていくなら「求人B」一択です。採用に受かるかどうかは別としても、まずは広告運用の立て直しから入って徐々に経営陣と信頼関係を構築し、中期的にはWebマーケ全体に関わっていく余地は十分ありそうです。
社内に落ちている「課題」を積極的に拾っていく
特にベンチャー企業で働くと、内側はカオスなことが多いです。カオスというのは、人的・資金的リソースが足りていないため、会社として基本的な施策ができていない。サービスは運営しているが、顧客対応のルール決めができていない。労務・法務まわりが整っていない、など。
この「課題」を俊敏に見つけ出し、「今できる方がいないなら、自分やってみます!」と手を挙げることです。みんながそれぞれの仕事で手一杯であれば、こういった申し出を断る理由がありません。
課題はチャンス。自ら拾い上げて自分の経験値にする絶好の機会です。さすがにマーケターが急に人事制度を設計します!と言っても色々な観点で難しいので、ある程度自分の領域に関連する部分から始めます。
ベンチャー企業のような不安定でカオスな環境こそ、希少価値を高めるチャンスも大きそうです。縦割り感の強い組織だと、どうしても自分の決まった業務範囲から抜け出せない感じもあります。
他にもポイントはありますが、つまりは自分が成長できる、領域拡張できる、そしてスキル同士のシナジーを引き出して希少価値を高めるための仕事の選び方がとっても大事、ということです。
その時に「面白そう」と感じたものを、どんどんやっていく
余談ですが、僕は先々のキャリアを考えて行動するのがとても苦手です。社会人生活も長くなってきましたが、新卒の頃から一貫して苦手です(自慢することじゃないですが)。
20代の頃は興味本位で「メディアプランナー」(広告の媒体ごとの予算配分を考えたりする仕事)、「コピーライター」、「プロモーションプランナー」「マーケター」といった職種を、本当に興味の赴くままに渡り歩きました。
その時に「5年後にこうなりたい」といった計画性は皆無でした。その後、広告業からIT系ベンチャーに飛び込みました。30代からは職種やスキルというより、役割や肩書きはなんでもいいから共感できるビジネスに関わりたい、という気持ちが強くなってきました。30代〜35歳ごろまでに、コミュニティスペースの立ち上げやイベント企画・集客、Web広告の運用、ブランディング・広報など、必要なものはなんでもやりました。
この夏からフリーランスマーケターとして活動をスタートしましたが、今でも将来のキャリア設計は白紙です(笑)。
でも今振り返ると、そうやって興味本位で選んできた仕事の集合体が、結果的に希少価値を生み出したとも言えます。僕の今の仕事を具体的に紹介することは控えますが、さまざまなスキルを相乗効果的に活かしています。
一例ですが、
ブランディングの観点を踏まえた、マーケティングコミュニケーションの実践(ブランディング、コピーライティング、マーケティング、広報)
事業開発の経験を活かし、toB商材の開発とマーケティング(事業開発、マーケティング、クリエイティブディレクション)
集客マーケティングの全体最適化(マーケティング、デザイン、クリエイティブディレクション)
などがあります。
()内のスキルの部分は、かなり大きな括りで区分を書きましたが、実際の業務領域だともっと細分化されたさまざまなスキルを掛け合わせてアウトプットしています。
ちなみに僕のメインの掛け合わせ領域は、
マーケティング
(マスマーケ・デジタルマーケ全般の戦略策定〜施策の企画・実施までワンストップで対応する)
x
クリエイティブ
(メインはコピーライティング。キャッチコピーだけじゃなく、LPや広告物など、必要なライティング全般、SEOライティングも。そして、クリエイティブ成果物全体のディレクション)
x
事業開発
(得意なのは、自社アセットを活用した商材のプロデュース)
また職種ではありませんが、経験値という意味では、前職でのマネージャーとしての経験も活きていると感じます。(経営視点、インナーコミュニケーションなど)
ありがたいことに、現在は特にマーケティングとクリエイティブの掛け合わせの部分でたくさんのお仕事をいただいています。
↑を見て「なんだ、そういうことで良いのね?」と思った方。
はい、そうなんです。重要なのは、自分が目指したい希少価値の方向性のスキルや経験値を実地で身につけていくこと。
そして、それらを掛け合わせで活かせる仕事を見つけて場数を踏むこと。
自分にとって当たり前で希少性なんて…というスキルでも、意外と企業からのニーズが大きいということがあります。僕もそのケースでした。マーケとクリエイティブのどちらかだけ長けている方や、どちらも運用レベルならできる方というのは一定いるのですが、【事業戦略に紐づいて、マーケとクリエイティブ、ブランディングの戦略設計から運用レベルまで一貫して対応できる】点が引き合いにつながっていることが最近わかってきました。
(誰かに言われたというより、このバリューを感じて継続的に仕事をいただいているという状況証拠的なものです)
ただ、スキルの方は自分の努力で身につきますが、良い仕事との出会いだけは水ものなので、そこはかなり運の要素も混ざってきます。 たまたま私は素敵なお仕事に恵まれたので、こういう記事を偉そうにしたためているわけです。
最後に念のため書きますが、僕は自分のスキルや能力が誰よりも高いなどというつもりは毛頭もありません。むしろ僕よりも優秀なマーケターは五万といるでしょう。
でも、自分がこれまで経験してきた職種や領域、業種の幅広さと、ベンチャー企業で多くのことを実地で汗をかいて取り組んだ経験と経験値は、唯一無二だと考えています。それらをどう今後に活かすかが、一番大事だと思っています。自分のスキルや経験を過大評価せず、過小評価もせず、客観的に向き合った上で自分だけの「希少価値」を追求したい。
それ以上でも、それ以下でもありません。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご留意事項
*この記事はあくまで僕個人の実体験を踏まえた、超個人的見解の記事です
*「市場価値を追求する」という考え方についても人がそうすることは否定しません。あくまで自分には合わないと思っているまでです