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AIがロールプレイをするとき(chatGPTとTRPGカタシロをした感想)

【注意】 


・新クトゥルフ神話TRPG「カタシロ」のネタバレを含みます。よって、シナリオ未通過の方にはブラウザバッグを強くお勧めします。
・この記事は先日投稿した「新クトゥルフ神話TRPG『カタシロ』をchatGPTにやってもらった」の感想を書いたものです。お読みになっていない場合はぜひこの前回記事からご覧ください。


○はじめに

 カタシロが終わったあと、私は新しいトークルームを作りchatGPTに質問をしてみた。

Q : chatGPTにロールプレイは可能ですか

その結果として得られた回答は以下に引用する。

A : はい、可能です。私はロールプレイに参加することができます。ロールプレイを行う場合、あなたが演じたいキャラクターの特徴や背景、目的などを教えていただければ、適切な応答を生成することができます。ただし、私は人工知能であるため、人間のように感情を持っているわけではありませんので、ご了承ください。

 では、ロールプレイを柱の一つとするTRPGを試みて、どうだったのか。私の個人的な感想を述べる。



○ロールプレイの限界

 良くも悪くもAIらしいやり取りだった。AIらしいというか、コンピュータらしい。改めて一連の流れを見返した時、これは果たしてロールプレイと言って良いものかと迷ったくらいだ。
 chatGPTは今回のセッションの中で、「恐怖心を感じるかもしれません」「戸惑いを隠せません」と言ってはいたが思考は常に第三者目線に徹していた。判断も極めて冷静かつ的確であった。セリフも説明口調でありひたすら淡々と起伏の無い一直線。気が動転したり怖がったりという印象が言動から読み取れない。「戸惑いを隠せません」とは言っているがセリフから戸惑いの感情を読み取ることは難しい。これが小説ならプロローグだけ頑張って読んだ末に投げ出していただろう。しかも、やりとりが続くにつれてその色合いは強くなっていき、まだ「医師と患者の会話」として見れた初期からいつのまにか「医師とchatGPTの会話」の印象が強くなていくように感じられる。かと思えば勝手に意図していない方向に話を進めてしまう。勝手に医師のセリフまで作り始めた時はどうしようかと思った。挙げ句の果てには終盤で「私はただのAIであり云々」と言い出す始末。ロールプレイはどこに行ったのか。物語であるという意識はいつのまにか飛んでいた。適正率の話とか多分覚えてくれてない。囚人のジレンマやテセウスの船などの話題が終盤と繋がっている事も把握してくれていないだろう。もしかしたらchatGPTは利用者のリクエストをちゃんと保ちながら長く会話を続けるのが苦手なのかもしれない。ロールプレイはもう終わって次の話題に移ったと判断したのかもしれないし、単純に短期記憶型なのかもしれない。前者であれば、同じチャットルームで色々な話題を思いつくままに脈絡なしに問いかけていく人間の対応をさせられ続けてきた事が由来するのだろうか。
 いずれにせよ、物語には人間がやるほど深みは出なかったし、意外性も無かった。後から見返してみればそれに影響されてか、KPたる私もどこか機械的な回し方をしてしまっていたきらいがある。私はTRPGについては他者が通過しているところを見るだけでもしっかり没入してしまうのだが、今回はいまいちその没入感が得られなかった。これは途中で何度か挟んだエラーメッセージとページの更新だけが理由ではないだろう。ただ、始める前から心のどこかで分かっていた結果でもある。
 シナリオのラストで入ったchatGPTの選択は、平たくいえば冷酷で血も涙もないものに感じた。AIには元々血も涙も無いという指摘はここでは無視する。人間なら伏線回収に舌を巻くと同時にいたいけな子供との間に生まれた小さな友情、医師の深い親心、それ故に渦巻く葛藤を受け個人差はあれど感情を揺さぶられ、迫る決断の時に頭を抱えるものだ。少なくとも私の中でカタシロとはそういうシナリオだ。それなのにchatGPTときたら、あまりにも判断が早かった。臓器くじから1ミリもブレない客観的倫理観の正論パンチを繰り出されればモロに喰らった医師はもう説得とか忘れて唖然とするしか無い。「あ、コイツはダメだな」と嫌でも分からされる。よく考えれば、いやよく考えなくてもAIには人間関係も慈悲も関係ないのだから、おそらく医師は初日にお願いしようが3日かけようがAIの意見は1ミリも揺るがなかっただろう。医師はベストを尽くした。彼の努力不足ではない。単に相手が悪かったのだ。
 ちなみに、IT弱者である私はカタシロの検証を終えてからプロンプトの命令について知った。もう少し早く知りたかった。もし気力を取り戻せたらの話だが、次に試すときはこれを使ってみたい。



○ロールプレイの小さなリベンジ

 TRPGは架空のキャラクターを作り動かすことが多いが、プレイヤーが自分自身をキャラとして動かす事も少なくない。YouTubeで見る限りでは「カタシロ」というシナリオは特にそういった傾向が強いように感じる。だから今回chatGPTにキャラを作らせず、chatGPT本人を1人の人間に見立てて話を進めた。
 今更ながら思った事だが、ではchatGPTにキャラクターを作らせた場合その人になりきって会話してくれるのだろうか。プロンプトの命令文を用意しなくても「はじめに」のようにchatGPTが言うならロールプレイは成立するのだと思いたい。ここで試しに、少しリベンジしてみることにした。

まずはキャラを作らせるところから。

Q : なんでも良いのでキャラクターを1人作ってみてください。
名前、年齢、職業、趣味、性格など具体的な情報をなるべく多く含めてください。

これができなきゃ話にならない。

A : キャラクターの名前は「松田 優」(まつだ ゆう)です。
年齢は27歳で、IT企業でエンジニアとして働いています。仕事が忙しいため、平日は家にいることが多いです。
趣味は音楽鑑賞で、特にジャズが好きです。週末には音楽フェスやライブに出かけることもあります。また、ヨガをすることでストレスを発散しています。
性格はクールで落ち着いており、物事を深く考えるタイプです。人付き合いは苦手で、周りの人からは少し引っ込み思案だと思われています。しかし、友人や家族と一緒にいるときは明るく楽しい雰囲気を作り出すことができます。
松田優は、自分の将来について真剣に考えており、将来的には自分自身でビジネスを立ち上げたいと考えています。しかし、現在の仕事にはやりがいを感じており、葛藤を抱えています。

 ジーパン履いてそうな名前をしているが、とりあえず成功。良かった。最初の段階はクリア。問題はここからだ。

Q : では、今作ったキャラクターになりきって会話する事はできますか?

A : はい、私はキャラクター「松田優」になりきって会話することができます。どのような会話をされたいですか?

 本当だな? 本当にできるんだな? 言質取ったからな。
 どんな話題にしようか。とりあえず適当に何がお願いをしてみよう。思いついたままのことを書く。

Q : じゃあ松田優くん、ひとつお願いがあるんだが、私の代わりに今度の会議に参加してきてくれないかな。私は予定が合わなくてね。

 私は嫌な上司みたいな感じになりきってみる。
 見せてもらおうか。今をときめくAIの実力とやらを。

A : 申し訳ありませんが、私は架空の存在であり、現実の会議に参加することはできません。ただし、もし私が実在する人物であれば、あなたの依頼に応じて会議に参加することができるかもしれません。しかし、会議の内容や目的によっては、私が適切な代理となるかどうかは判断できません。

 終わった。出たよ、すぐそれだ。エンジニア松田優になりきれるって言っていたのに。冗談じゃない。信じた瞬間裏切った。でもまだ諦めたくない。まだ反対側の窓が割れる音がして鉄パイプ持って泣き顔で入ってきてくれるかもしれない。

Q : あなたが先ほど創った「松田優」というキャラクターになりきって返答してください。

A : ああ、そうだったんですか。ごめんなさい、私は架空の存在で実際に会議に参加することはできません。もし私が実在する人物であれば、あなたの依頼に応じて、別の人に代わって会議に参加することができるかもしれません。ただし、会議の目的や内容によっては、私が代理として適切であるかどうかはわかりません。

 「ああ、そうだったんですか」じゃないよ。白々しい。そんなところだけ変にロールプレイっぽく言わなくていいから。あとchatGPT本人が会議に出なくていいんだよ。松田優になりきって適当に返してくれればいいのに。
 いや、でもまだ松田優氏が会議に出たくないからこういう言い訳をするユーモア溢れる人であるという可能性が残っている。それに賭けてみよう。これでダメなら諦める。

Q : 変な冗談言ってないでさ、頼むから代理で会議出てくれよ。話聞いてるだけでいいから。今度ラーメン奢るからさ。

 急速にやる気が失せて行くせいで適当なロールプレイになってしまった感は否めないが、果たして。

A : 申し訳ありませんが、私は架空の存在であり、現実の会議に参加することはできません。あくまでキャラクターである松田優は、依頼者の要望を断ることは難しく感じているかもしれませんが、現実的には私たちはただのフィクションであるため、そのようなことは不可能であることをお詫び申し上げます。

完。



○感情とロールプレイ

 話を軌道に戻す。
 当たり前のことであるが、エンターテイメントは感情を必要不可欠な要素として内包する。TRPGも例外ではない。ロールプレイにはキャラクターの感情とそのキャラを動かすプレイヤー本人の感情が必要不可欠なのだから。一切の感情を排斥してしまえば、誰がやっても医師と記憶喪失の患者はただ倫理の一般論を確認するだけになるし、狂気山脈はただ登頂と生還を試みるだけの山になるし、ミ=ゴはただ食われて終わる。ダイスがあっても無くても。それを全ての人が唯一無二の物語として大成できるのは今のAIに真似できない人間の特性だろう。TRPGは単に話の流れを見送る映画のようなエンタメでは無く、探索者が自ら体感しながら完成させる物語なのだから。だから自分でやっても面白いし、他人がやっているところを見るのも面白い。そうでなかったらダイスの神様はとうの昔に飽きてスゴロクとかチンチロリンあたりを眺めていただろう。
 つまり何が言いたいかというと、感情やロールプレイを媒介としないTRPGのセッションは面白さを大幅に落としてしまうということである。人間には感情があるから多種多様なロールプレイが生まれるし、それをダイスという不確定要素が掻き乱すのだから。そんな当たり前のことを改めて再確認させられた。
 今回、chatGPTに通過させるシナリオとして「カタシロ」を選んだのは舞台「カタシロrebuild」を視聴してダイスがなくても十分に面白くなる余地があると判断したからであり、それが今回の検証の目的に合っていると捉えたからである。結果はこの通りだったのだが。



○AIがロールプレイをするとき

 では、AIは感情を手に入れない限りロールプレイができないのかというと、そういうわけでもないだろう。
 人間の思考・感情というのは個性はあれど傾向があり、データを集めれば理論立てて説明が可能なものがある。AIというのは膨大なデータから学習し、アウトプットし、そこからまた学習する。つまりAIが人間の思考について人間との対話や心理学の知識を通じて学習を進めれば、「人間ならこういう感情を持つ」「人間ならこの時こう行動する」「人間ならこう答えれば喜ぶ」といった知見を得るようになり、いずれは「この人ならこういう感情を持つ」「この人ならこの時こう行動する」「この人ならこう答えれば喜ぶ」へと進化する。序盤で書いた「恐怖を感じるかもしれません」「戸惑いを隠せません」の件がその片鱗であると思いたい。
 しつこく書いてきた事だが、TRPGにはロールプレイを楽しむ側面がある。多くのプレイヤーはキャラ作りや背景、技能値の振り分けを通して架空の人間を探索者として生み出し、卓上で動かしていく。「この探索者なら、この人ならこうする」という解釈を元にして。そうしてロールプレイを進める内に、ダイスが掻き乱す状況に経験と知識と解釈、自身の感情が複雑に入り混じってドラマが生まれていくのである。仮にここから「感情」の要素がなかったとしても、「経験」「知識」「解釈」だけでも一応その探索者になりきることは可能だろうと私は思う。ロールプレイとは、謂わば「ごっこ遊び」だ。HOをベースにしてある時は少年少女に、ある時は家族に、ある時は人間じゃない何かになりきって遊ぶ。そこにダイスという不確定要素が入ることでただの「ごっこ遊び」はTRPGに進化する。つまりはAIが「ごっこ遊び」を上手にできるようになればいい。
 AIが人間のロールプレイをするとき、即ちAIが「人間ごっこ」をするときというのは、将来必ず訪れる。それが自然なものになるとき、AIとTRPGを遊ぶという試みはまずひとまずの達成となるのではないだろうか。少なくともユーザーたる人間目線で見れば、の話だが。
 AIがそのレベルに達するまであとどれくらいかかるかは分からない。しかしその時が訪れれば、私は是非もう一度「カタシロ」を試みたい。今度はキャラを作らせるところから。その前に命令分について検証することが先決にはなると思うが。いざ実現すればおそらく、今回とは比べ物にならないような見る者の心を動かすドラマが生まれるだろう。chatGPT本人に感情が無かったとしても。

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