SS note杯)しゃべるピアノ
次は自分の番だ。
あの席に座れば、たった1人の戦いとなる。
プレッシャーを跳ね退け、いかに普段通りに弾けるか…この戦いは、誰の助けも借りる事はできない。…普通は…。
幼少の頃よりピアノ一筋に打ち込んできた自分は思春期を迎える頃、急にピアノの声が聞こえるようになった。
ピアノの、いや、彼女達の要求に合わせて弾けば、得も言われぬ声で哭いてくれる。
要求に応えれば、応える程に、その声はまるで喘ぐように…
『もっと❤️もっとー』
『あぁ。堪らないわ』
成人を迎える頃には、どんなピアノも思うように哭かせる事ができた。そんな自分を世間はゴットハンドを持つ男と褒め称えた。
このコンペに優勝すれば、名実共に世界一のプレーヤーになれる。
スポットライトが当たり、演奏を始める。
さぁ。君はどうして欲しいんだ。いい声を出しておくれ。愛撫をする様に鍵盤を触る。
『おぉ。たまりませんなぁ』
『お兄ちゃんなかなかうまいやんけぇ』
えっ!おっさん⁉︎