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梁をのこして、再構築。

無垢材家具ブランドWOOD YOU LIKE COMPANY(WYLC)とKESIKIによる「長く愛される会社・ブランド」をつくる過程を追う連載シリーズ「Re:」。

第二回は、WYLCのコーポレート・アイデンティティを一緒につくっていった、デザインディレクターの丸山新さん(&Form)とWYLC代表・KESIKI 代表/CDO石川俊祐の対談形式でお届けします。

長年使われてきた企業・ブランドのシンボルを変えることは、決して簡単なことではありません。しかし、そのストーリーやディティールを大切にすることで、社員へその思いが伝播し、それがお客さんにも伝わっていきます。

丸山さんとの制作プロセスを振り返り、実際に起きた変化を考察しながら、愛されるブランド、企業のアイデンティティづくりのポイントを探ります。

<プロフィール>
丸山 新  | Arata Maruyama
デザインディレクター。ベネトンのFabrica研究生を経て、2002年渡英。セントラル・セント・マーチンズ美術大学コミュニケーションデザイン科にて学士号を取得後、イギリスにてハンズ・ディエター・ラハイトに師事しPhaidon Pressのプロジェクトなどに参加。2006年、スイスのキアッソ市立美術館のアートディレクターに就任。南スイス州立大学SUPSIのデザイン・コラボレーターを経て2012年に帰国し、デザインスタジオ&Formを設立。グローバルデザインプラットフォームForm主宰。

日本家屋のリノベーションのように

石川:新さんにCIをつくっていただいてから、徐々にお店のフラッグや商品、カタログにも反映してきました。そうすると、最近やっぱりお店の客層も変わってきましたね。

丸山:僕も今日久しぶりにお店を見て、だいぶ空気が変わったなあと思いました。でも、全く新しくなったというよりは、今までの良さも引き継ぎながら、新しいロゴも溶け込んでいるような感じで安心しました。

石川:今まで素通りしていたような客層の人が、ロゴやショーウィンドウを見て「お、かっこいい」って入ってくるんです。それが実際に売上にも繋がっている。“ブランディング”とか“カルチャーデザイン”って、表層的であんまり意味がないなんて思われている節もあるけれど、ちゃんとやればちゃんと機能するんですよね。

丸山:そう、なかなか理解してもらえないこともあります。ずっとデザインの在り方や必要性を言い続けるしかないなと思っています。

石川:お客さんへの見え方はもちろんですが、実はもっと大事なのが社員やスタッフのモチベーション。まず彼らが会社やブランドに対して「好きだ」と思えるようになるのが一番大切です。WYLCの場合、40年も歴史があるので積み上げてきたものへのこだわりや誇りはあったのですが、もっと新しいチャレンジがしたいとか、このままではいけないんじゃないかと思っている社員も多かった。

丸山:とりあえずこのお話をいただいた時に、創業者のお話を聞かせてもらったのですが、長年育ててきた会社に対する深い想いがあり、デザインを新しく作るということではなく、これまでの想いをきちんと受け止めなければと思いました。

石川:でも、これまで使っていたロゴに対しては、絶対に変えないでほしいというわけではなく、必要に応じてアップデートしてほしいと。ただ、そもそもCIとしての機能や美しさのことを深く考えてつくられたものではなかったので、リファインするのも難しい。とはいえ全く違うものをつくるというのも違う。

丸山:今までやったことのないチャレンジでした。この想いと歴史をどう紡いだらいいんだろうと、ぼんやり既存のロゴマークを見つめて。当然そこにはデザインを構成しているグリッドがあるわけで。そこで気づきました。そうか「リノベーション」だ、と。たとえば、日本家屋の柱や風情を残したままリノベーションしているのと同じように、ロゴもグリッドを柱や梁として、「再構築」することで、会社の内側そして、支えてくれた既存のお客さまのこれまでの想いを紡ぐことができると思ったんです。

石川:家の暮らしをつくる家具ブランドとしても、事業承継の考え方としても、「梁をのこして再構築する」というコンセプトは、すごく馴染みがいい。このストーリーがあったから、家具職人たちを含めて社員も理解しやすかったんじゃないかと思います。

ディテールをケアする美意識

丸山:「再構築」というテーマが決まった後は、浮かび上がらせたグリッドを使用したロゴマークの細かい微調整をかけていきました。印刷物やデジタルメディアで使用しても視認性が確保できるようなグリッド内の余白の取り方や線の細さなど。

石川:色も微調整しながら考えてもらいましたね。

丸山:赤や青のようにイメージを固定化しないようにするためにグレーを選び、そのグレーの中から、WYLCにおけるグレーとは何かを考えながら選びました。これからまた時代の流れでブランドが変化しても受け止められる懐があるもの。そして、人の暮らしをつくるブランドとして、それぞれお客さまの生活の色に染まっていく方がいいだろうなと。

石川:どういう選択肢があるか、線幅などのパターンを出し切っていただいて、かなり細かくスタディしていきましたね。

丸山:アイデアが決まった後は、数値的に細かく処理して選択肢を出し切った上で、最善のものを提案して、ディスカッションして決めています。今って、こういうディテールまで求めてないっていう人も多いかもしれませんが、僕は大きな方向性としてのアイデアと、最後アウトプットに落とし込むディテールと、どちらも大事だと思っています。

石川:そう。デザインのことを詳しく知らない人だって、感覚的にこっちのほうがいいなとか、パッと見てなんか違和感があるなとか、分かるんです。たとえば、口紅の色ってものすごい色数あって、ちょっと赤すぎて自分の肌に馴染まないとかって、みなさんちょっとした差で選んでいる。そういうことだと思います。

丸山:ケアされているかどうかですよね。ほどよいサービスとか、ほどよい体験とかって、人がケアしている。もちろんそれは、ケアされていないものより時間はかかる。

石川:雑音を削っていくような作業なのかな。必要なものだけに目がいくように、削っていく引き算の作業。目的があって、辿り着きたい未来があって、それを実現するために戦略があって、魂が細部に宿っている。世の中でみんなに愛されているものって、全部そうなんだと思います。でもちゃんと一貫性を重視する人が多くないんですよね。

丸山:本当は、トータルでデザインを考える必要がありますよね。ロゴだけ変えてもお客さまにとっては、そのブランドのタッチポイントすべてが体験になってしまうから。素敵なレストランでもトイレがあまり綺麗じゃないとか、立派なホテルなのに受付のペンがなんでこれなんだろう?とか、そういうことになりかねない。

石川:それってお金をかければできるということでもない。自分らしいこだわりとか、美意識をもって選んでいるかどうかなんじゃないかな。

丸山:気にするか、しないかですよね。欧米をそのまま賛美するわけじゃないんだけれど、日本経済が強くて、日本ブランドがグローバルブランドだった昔と比べ、いまグローバルブランドになれないのは、企業が持っていた美意識が違うように思う。技術や機能は素晴らしいのに、なんかデザインが微妙とか。

石川:聞いた話なんですが、ある分野で世界一の技術力がある日本企業が、海外で展示会に何年もブースを出してるのに、全く反応がないと。なんで興味を持たないかって海外の人達に聞いてみたら、単純に「ダサいから」って言われたんだそうで(笑)。人間ってシンプルで、直感的にいいなって思うものを選んでるんです。

丸山:日本には育まれてきた誇れる文化があります。神社仏閣に行って綺麗だなとか、いい旅館に行って設えやサービスが美しいなとかって思うことは体験として日本人には誰にでもあることだと思います。でもなぜかそれが会社やビジネスの美意識とは結びつかない。

石川:自分がこだわりを持って選んでいるときはみんなそうしてるはずなのに、そこから外れたときにちゃんと考えられなくなるんですよね。

アイデンティティから行動が変わる

丸山:現場の人を含めて誰もが美意識を持つって、相当難しい話ですよね。でも、僕ができることで言うと、やっぱり「アイデンティティ」をデザインするということなんですよね。CIやVIでそのブランドらしさを一番魅力的に体現することができていれば、そこから社員や様々なものに、その美意識が少しずつ浸透していくのだと思います。

石川:WYLCでいうと、このロゴを通して、自分でこの会社変えていけるんだっていう意識を持ってもらえたらいいなって思います。一人ひとりが「デザイナー化」していくということなのかもしれない。

丸山:このあいだWYLCの家具職人のみなさんとお話していたら、「会社の想いをちゃんと受け取って、かっこよくロゴをデザインしてくれて嬉しかった」ってすごく自分ごととして喜んでくれていて。

石川:そう、自発的にスタッフTシャツ作ってしまうくらい(笑)。もちろん当初は、なんで変えるのかとか、お客さんが戸惑うんじゃないかとか、不安の声もありました。

丸山:彼らにとってロゴが変わるって、すごく大きなことですからね。長年連れ添っているファミリーのような存在だから。それが、新しいロゴのことも「ファミリーに子どもが生まれました」くらいの熱量で喜ばれていて、僕も本当に嬉しかったですね。

石川:今では、職人が自分で違和感を見つけて新しい道具を持ち込んで改善するとか、お店のスタッフが新しくワークショップを始めてみたりとか。「再構築」というコンセプトが、社員の行動のガイドにもなっている。

こういうふうにしたらお客さんが喜んでくれるんじゃないかと、デザイン的な価値創出が起きてきている。まさに、梁の中で、自分たちが家を作っていくっていう姿勢になってきていると思います。

丸山:アイデンティティデザインを変えるにあたって一番いいことって、自分たちがどこに進んでるのかを考えたり、社内で議論が起こったり、みんなのアイデアが出てきたりすること。

この先、また時代が変わっていけば、このロゴのグリッドだって、変わっていっても良いと思う。日本家屋なら、梁を残してその空間を例えば一度旅館にしたとしても、その後また違う用途に変えていくこともできますよね。固定的なものではなく、デザインする対象やその時代に呼応できるものでありたい。自分がデザインするときは、いつもそういうことを思っています。

石川:今回、新さんと一緒に仕事をして、改めて、変わらない大切なもののために、変わり続けるということの大切さを感じました。これからは、このアイデンティティを胸に、WYLCのメンバーひとりひとりがブランド全体の体験をつくっていくフェーズです。これからの変化にも、期待してもらえたら嬉しいです。


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