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かわる、つづく、めぐる。

「景色」

割れてしまった器を金継ぎして直した跡のことを、日本人は「景色」と呼んで愛でてきた。
これがKESIKIの社名の由来です。

KESIKIが目指すのは、デザインの力で、すでにある良いモノやサービス、ブランド、会社などの、綻んでしまった部分を継ぎ直すことで、新しい景色を生み、長く愛され続けるという状態をつくっていくこと

そんなKESIKIが注力しているのは、

①Create:中小企業のデザインアプローチ型事業承継
②Change:企業や官公庁のカルチャーデザイン
③Spread:デザインアプローチの教育

の3つです。

その1つ目「中小企業のデザインアプローチ型事業承継」のファーストチャレンジとなったのが、創業40年の無垢の家具ブランド「WOOD YOU LIKE COMPANY(以後、WYLC)」の事業承継でした。

この連載シリーズ「Re:」では、WYLCとKESIKIがワンチームとなって挑戦する、「長く愛される会社づくり」のプロセスをお届けしていきたいと思います。次世代への職人技術の承継、自然と人とモノとの関係性、これからの日本の中小企業とデザインの在り方など、多角的な視野で考察を深めていきます。

「家具をつくる」から「暮らしをつくる」へ


今から40年前の1983年。WYLCは、東京の昭島に工房を設立、オーダーメイド家具製作をスタートしました。大量生産の時代に逆行して、自然の素材を使うこと、職人の手仕事を大切にすること、この二つへのこだわりを貫きながら、無垢の家具をつくり続けてきました。昭島ファクトリーと表参道ショップを拠点に、製造から販売まで全てを自社で手掛け、ひとりひとり顔の見える顧客に愛されてきました。

そんなWYLCとKESIKIが出会ったのは、2020年。創業者であり代表を務めてきた神山公一さんと河合みなとさんの引退にあたって、経営を引き継ぐ相手を探しているということでした。私たちは、愛とやさしさのあるブランドのこころざしに共感し、そのバトンを次の世代へと繋いでいくことに決めました。

そして2021年1月にKESIKIの石川と内倉が代表となり、事業を承継。日本初となるデザインアプローチ型事業承継として、KESIKIが提唱する「Being(組織づくり)」「Doing(プロダクト・サービスづくり)」の両軸で、ブランドをリデザインすることに挑戦しています。

まず初めに行ったのは、ビジョンの明確化でした。会社のメンバーと対話を重ねながら、ブランドの根っこにある意志や目指す未来を言語化していきました。資源を無駄なく使うこと、職人を育てること、使う人と真摯に向き合うこと。そういった意志を軸に、「無垢の家具をつくる会社」から「愛着がめぐる暮らしをつくる会社」へと進化することを決めました。

そこから、ビジュアルアイデンティティをデザインディレクターの丸山新さんと共創したり、ウェブサイト、カタログをリニューアルしたり、組織カルチャーをつくっていったりと、2年の年月をかけて少しずつ変化をしてきました。

3つのプロダクトと、5つのサービス、青山ギャラリー

そして40年という節目を迎えた今年の5月末、いよいよ新しいプロダクトライン、サービス、ラボを発表しました。

●新プロダクト

新しいプロダクトをつくるにあたって、全く別のラインをつくるということもできました。でも、私たちが選んだのは、これまでのロングセラーを現代的に再解釈した新たなコレクション「MODERN」を立ち上げ、既存のプロダクトも「ORIGINAL」のラインとして残すという形でした。

今回は、「MODERN」から3つのモデル「MOCHI」「NAWA」「USU」を発表。「​​かたちの先のやさしさ」をコンセプトに、使い続ける中で愛着が湧いてくるようなデザインのチェアが完成しました。

制作・デザインのプロセスでは、昭島ファクトリーの佐々木さんを中心とした職人と、KESIKI、アドバイザーとしてプロダクトデザイナー Kensaku Oshiro さんが参加し、それぞれの視点を重ね合わせ、議論とプロトタイピングを繰り返しながら共創してきました。

●新サービス

WYLCが以前から行っていたサービスのアップデートも含め、家具を長く愛着を持って使い続けられるようなサポートを、5つのサービスとしてリリースしました。

東京に自社ファクトリーを持つ家具ブランドとして、職人への「プレミアムオーダー」や「カスタマイズ」、「リメイク」、「メンテナンス」、自社の「ビンテージ」再販まで、顧客と家具との良い関係を支え続ける体制をつくりました。

●青山ギャラリー

今回リリースした新商品を含めたプロダクトのショールームと、KESIKIのオフィスが同居する「WYLC青山ギャラリー」がついに完成。3Fはオフィス・ラボ、4Fはギャラリー兼ラウンジスペースです。

今後は、このギャラリーを拠点に「自然と人の共生」「モノとの付き合い方」「サーキュラーエコノミー」などをテーマに、多様な企業やブランドとの共同開発や、展示、トークイベントなどを開催予定です。

デザイン、クラフト、自然の価値を再考する

お披露目となったレセプションイベントでは、メディアや関係者の方々に、実際に新プロダクトのチェアに座ったり、新しくできたWYLC青山ギャラリー(兼KESIKIのオフィス)を見学いただきました。

昭島ファクトリーの雰囲気を再現した展示や、カッティングボードに焼印やオイル仕上げの体験ワークショップや、深大寺の薪火レストラン「Maruta」にご用意いただいたお食事もお楽しみいただきました。

大好評だったワークショップ

そして、青山ギャラリーでの初のセッションとして、ゲストの方々をお呼びして、「職人の価値」「デザインの価値」「森林の価値」を再考するディスカッションも開催しました。

お越しいただいたのは、デザインや自然、ライフスタイルなどに携わりながら第一線でご活躍されていらっしゃる豪華なゲストのみなさん。これからの時代の成長とは、価値の再分配をどうしていくべきか、など様々な問いが浮かび上がりました。今後継続して議論していく予定ですが、ここでは初回の議論の一部をお届けします。

「日本の林業が大変なことになっている。どうしたらいいか、いろんな立場の人が考えていかなければならない。単純なお金のやり取りではなく、価値と価値の交換で協力し合う方が、熱量ある人が集まりやすいんじゃないか」(Panoramatiks 齋藤精一さん)

「これまでの経済成長と違う要素も必要だとは思いながら、一方で地域経済や農業などに適切なお金が払われることは大切。そのバランスを考えていきたい」(自遊人 岩佐十良さん)

「変化をしながら、ちょうどいい適正なところに戻していくっていうことが、これからのデザインの価値なのかもしれない」(プロダクトデザイナー 鈴木元さん)

「“ラグジュアリー”の定義が変わってきている。今までは高級な素材など希少価値だったが、精神的な部分やクラフトの価値になってきている。もっとクラフトの世界に若い人たちが入っていく教育や繋ぐ仕組みが必要だと思う」(ファッション・クリエイティブ・ディレクター軍地彩弓さん)

「ビジュアル・コミュニケーションの領域って、どうしても表層的なことを求められてしまいがち。でも、ブランドや企業の中の人たちが自分たちのアイデンティティや、目指すべき未来がどこなのかが分かるということが本当のデザインの力なのではないか」(& Form デザインディレクター/ WYLC VIデザイン 丸山新さん)

「100年たった建物でもタイルを金継ぎしたり、新しいものを生み出すよりも、メンテナンスしながらずっと長く使い続ける、というような本質に価値を感じる人が若い世代にも増えてきている」(HOTEL K5 ジェネラルマネージャー 渡邊加奈子さん)

「日本は本質的なクリエイティビティに対する価値が安すぎる。どうやったらもっと健康的な生態系が作れるんだろうかといつも考えている。クライアント側のリテラシーも上げていかなければならない」(ULTRA STUDIO 上野有里紗さん)

「デザインに携わって何十年と時代の変化を見てきたが、意外と人々の価値観は、良い方向に変えられると分かってきた。たとえば、モノを捨てるよりめぐらせる方がいいという価値観が広がってきている。だから、まだまだデザインができること、やるべきことがたくさんある」(日本デザイン振興会 矢島進二さん)

など、多様な立場からの議論が交わされ、濃く有意義な時間となりました。今後、デザインやものづくり、政策デザインに関する大きなイベントの場などで継続的に議論を深めながら、発信していく予定です。

長く愛され続ける会社を目指して


事業承継して2年、会社の空気もお店の雰囲気も、少しずつ良い方向に変わってきました。
とはいえ、まだまだWYLCの第二創業期は始まったばかり。カルチャーの土台ができ、新しい取り組みやプロダクトを発表し、ひとつの節目を迎えた今、次は職人の技術を生かしたより良いものづくりを続け、人々の価値観のシフトへと繋げていくフェーズです。

そして、職人が先頭に立った「デザイン経営」が軌道に乗り、新しい「景色」が見えてきたら、WYLCのメンバーへとバトンを戻し、KESIKIは裏方に回ってサポートしていくつもりです。

この連載では、その日が来るまでの軌跡を、ビジュアルアイデンティティ、カルチャー、プロダクト、サービスなど、いくつかの視点から追っていきたいと思います。

どうしたら、長く愛され続ける会社やブランドをデザインできるだろうか。

どうしたら、日本の職人技術やクラフトマンシップを次世代に繋いでいけるだろうか。

どうしたら、人とモノと自然のあいだに良い関係性をつくれるだろうか。

創業40年の無垢の家具ブランドWYLCのデザインアプローチ型事業承継のチャレンジから、何かヒントが見えてくる、かもしれません。

ぜひ、みなさんにいろいろな形で関わっていただきながら、ともに問いを深めていけると嬉しいです。興味がある方はぜひ私たちにご連絡ください。


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