問いから始める新規事業
こんにちは。KESIKIの石川俊祐です。
ぼくはこれまで、インフラ企業から金融、医療機器、コンシューマーグッズやサービス業まで、幅広く新規事業づくりに関わってきました。
イギリスのデザインファームPDDへて、IDEOの日本法人立ち上げ、BCG Digital Venturesに勤めたのち、KESIKIを立ち上げたのは2019年。
そこからはチームが創造的に働くためのオンラインワークスペース「NeWork」やサステナブルを自分ごと化するライフスタイルブランド「O0u」をはじめ、まだ発表できていないことも含め、さまざまなタイプの新規事業づくりを伴走しています。
数多くの新規事業づくりのプロジェクトに関わる中で一つわかったこと。
それは、うまくいく新規事業の担当者は必ず、いい問いを持っていること。
そして、そのプロジェクトの意義を自分の言葉で語れること。
なぜ、そのプロジェクトをやることになったのか。
そのプロジェクトを通じて何を目指すのか。
上司の言葉でも、話題のビジネス書から借りてきた言葉でもなく、自分自身の言葉で熱く語るんです。
なあんだ。そんなの当たり前じゃないか。
そう思う人もいるかもしれません。
でも実はそんなこともないんです。
プロジェクトの中身や実現方法は雄弁に語るけど、「なぜやるのか」を語らない人、語れない人は結構います。
「上司にこう言われたので」と直接的に話す人はそれほど多くありませんが、自分の想いには触れず、「今、世の中的にこれがきてるから」とか「私たちの会社はこれを目指しているので」という話し方をする人も少なくありません。
どうすればアイデアを発想するためのちょうどいい「問い」をつくれるのか。誰かから頼まれた新規事業づくりではなく、あなたの意志や想いがこもった新規事業づくりになるのか。
今日はそんなお話です。
モヤモヤを吐き出して
新規事業と言えば、一人の担当者の情熱から始まるーー。
そう思われがちですが、実は上司から「何か新しい事業を考えてくれ」「このテーマで一つ、よそにはない事業を生み出してくれ」という無茶振りから始まる。そんなケースも少なくありません。
「NTT Comとしても、リモートワークを支えるオンラインサービスをつくることができないか」
社長賞を受賞し、2022年度のグッドデザイン賞も取ったNTTコミュニケーションズのオンラインワークスペース「NeWork」も、最初は会社の上層部からのそんな一言から始まりました。
プロジェクトのスタートは2020年5月。コロナウィルスが猛威をふるい始めたころです。
ZoomやMicrosoft Teamsなど、グローバルなサービスがすでに市場にはある中、後発である自分たちは何をすればいいのか。しかも、会社からは2カ月でサービス化せよ、というなかなか困難なお題が。
今回のプロジェクトに向けて、複数の部署からメンバーが集められました。開発環境はフルリモート。しかも、プロジェクトメンバーたちはそんな短期間でサービス開発を経験したことがありません。
このプロジェクトで、楽しみなこと、不安なことは何か?
このプロジェクトで、一番避けたい結末は何なのか?
このプロジェクトを通じて、何を達成できたら自分がハッピーになれるのか?
NeWorkのプロジェクトのスタート時にも、まずはこんな質問に対し思っていることを付箋に書き出すことから始めました。自分たちのワクワクやモヤモヤを思いつく限り吐き出す「HOPES & FEARS」というワークです。
一緒に働くメンバーたちはどんな思いでいるのか。
そもそも、自分はこのプロジェクトで何を成し遂げたいのか。
KESIKIでは、社内のプロジェクトでも必ず「HOPES & FEARS」を実施します。
こうしたワークを通じてまずは、仲間の想いを確認し、自分の想いを見つめ直す。
プロジェクトはそこから始まります。
アンラーンして
自分のワクワクやモヤモヤを吐き出したら、いよいよアイデアを考えます。
新規事業のアイデアを練り上げるとき、その足枷になるのが「常識」です。
会社やチーム、そして自分の中に、知らず知らずのうちに染みついてしまった常識を取り払うこと。アンラーンすること。
IDEO時代、ぼくが携わった明治製菓の「ザ・チョコレート」のプロジェクトで最も意識したポイントは、そこにあります。
彼らがぼくらに持ってきた最初の問いはこちら。
どうすれば、高級感のあるデザインパッケージをつくることができるだろうか?
自分たちはチョコレートのお菓子をつくっている会社。チョコレートの単価を上げるため、高級感のある素敵なパッケージデザインにリニューアルしてもらえないか。
それに対してぼくらは、「どうして、高級感のあるパッケージにしたいのでしょう」と問いを投げかけました。ところが、明瞭な答えは出てきません。
なので、「もし、パッケージを変えたいだけなら、ぼくらに頼むより、腕の良いグラフィックデザイナーに頼む方が良いですよ」と伝えました。
きっと、明治のメンバーもただパッケージを変えるだけで本当に良いのかと思っていたのでしょう。数日後、新しい問いを持って訪れてくれました。
どうすれば、チョコレートの消費量を増やすことができるだろうか?
この問いをIDEO内で共有すると、創設者であるデビット・ケリーは「『じゃあ、アーモンドチョコレートをつくって増量しましょう!』と伝えるのはどうだろう」と、意地悪な笑顔を浮かべながら、一休さんのトンチ話のような返しをぼくに伝えてきました。
もちろん、そんなことをして短期的に少し売り上げが上がったとしても、長くは続きません。
本当に成し遂げたいことはなんなのか。
ぼくらは普段彼らが当たり前だと思っている「チョコをつくる理由」や「チョコレート」、「カカオ」、「お菓子」などにまつわる常識を揺さぶるため、問いを投げ続けました
すると、だんだんと自分たちが「カカオ」や「チョコレート」に対して持っている熱い思いが浮かび上がってきました。
そして生まれた問いがこちら。
どうすれば、子どもだけでなく大人もチョコレートの時間を愉しむことができる、新しいチョコレートカルチャーを牽引することができるだろうか?
役割や立場によって生まれた常識を揺さぶることで、自分たちらしい新規事業につながる問いへ生まれ変わったのです。
ここから僕たちは明治製菓とともに、「新しいチョコレートカルチャー」をつくるためのリサーチを開始。リサーチでも、「常識」を取り払うことは忘れません。
一年365日、毎日チョコを食べ続けている人にインタビューをする。
甘いものとお酒をペアリングして提供するイノベーティブなレストランで食事をする。
サンフランシスコを1週間訪問し、当時流行り始めていたビーントゥーバーのチョコレートショップやサードウェイブのコーヒーショップを訪ねる……。
自分たちに染みついた常識から離れ、自分たちの目で足で、体験する。それが、「視野」を強制的に広げ、自分たちの「視点」を見つけ、高い「視座」を持つことにつながります。
KESIKIでデザインリサーチを行うインサイトチームには、染みついた常識を取っ払い、さまざまな角度から新たな視点を探すために、ユニークなキャリアを持ったこんなメンバーが集まっています。
文化人類学者で多摩美術大学の教授を務める中村寛さん、元環境省の職員で行動科学の修士号を持つ加藤優里さん、リクルートOBでデンマークで映像人類学を学んだ牛丸維人さん。
KESIKIでは今、3人が中心となり、これまでの常識を揺さぶり、新たな視点をKESIKIメンバーとともに見つけるための様々なリサーチプログラムを開発し、日々アップデートしています。
問いを括り直す
リサーチを経て視座を上げ、視野を広げて新たな視点を獲得したら、いよいよアイデアを考えましょう。重要になるのが「問い」の力です。
デザイン思考がビジネスの中に浸透し、「問い」の重要性もいろんなところで語られるようになりました。ただし、「問い」といっても、その言葉の使い方は人によってさまざま。
大切なのは、アイデアを発想しやすくなるためのジャンプ台となるよう、大きすぎず、小さすぎない、抽象的すぎず、具体的すぎない問いを立てること。
明治製菓のケースで言えば、1つ目の問いである「どうすれば、高級感のあるデザインパッケージをつくることができるだろうか?」は、具体的すぎます。
陳列棚で他の商品より高級感を出すためにパッケージにどんな素材を使うか。POPで高級感を演出するためにはどうしたらいいか……。
この問いから生まれるアイデアは、プロモーション的な手段に限定されてしまいます。
それに対して、3つ目の問いである「どうすれば、子どもだけでなく大人もチョコレートの時間を愉しむことができる、新しいチョコレートカルチャーを牽引することができるだろうか?」は、これまでの明治製菓からは出てこなかったアイデアを、たくさん生み出しました。
バーのウィスキーとペアリングする。
ファーストクラスのワインとコラボレーションをする。
チョコレートカルチャーを体験するための場やコミュニティーをつくる……。
パッケージデザインという枠を超え、体験の場やライフスタイルへの浸透をメンバーたちが考え始め、打ち手が大きく変わったのです。
何より、問いを立て、アイデアを練っていく過程で、メンバーの熱量が日に日に上がり、プロジェクトが自分ごと化されたことが一番の収穫でした。
誰かの問いから、私の問い、私たちの問いへ
NTTコミュニケーションズのNeWorkのケースでも、問いをアップデートしています。幹部から出されていた最初の問いは、「既存の映像会議サービスに変わるものをつくれないか」というものでした。
この問いだと、ZoomやTeamsに対してどう差別化するかという発想にいきがちです。ユーザーや社会にとってどんな悩みや課題を解決するのか。自分たちらしい問いに括り直す必要がありました。
そこから立てた問いが、「どうしたらオフィスに集まらなくても雑談を生み出すことで創造的な対話を生み出すことができるだろうか?」
NeWorkの開発ストーリーはこちらにも綴っていますので、詳細は割愛しますが、エクスパートのインタビューなどリサーチを経てたどり着いたのは、こんな問いです。
どうすればリモートワークするビジネスパーソンに対して、
コミュニケーションのハードルを下げることによって
リアル以上にワクワク働ける環境を提供することができるだろうか?
ただし、どんなにすぐれた問いが立てられたとしても、それが会社の幹部やコンサルファームなどの専門家から与えられたものだとしたら……。
冒頭で記した通り、ぼくの経験的にその事業はうまく行かない可能性が高い。なぜなら、その事業には想いがこもらないから。想いがこもらなければ、結局、主体的にその事業を進めていく力が生まれにくいのです。
どうすれば、誰かの問いを自分の問いにできるのか。
その問いをチームメンバーで共有して、みんなでアイデアを練り、事業立ち上げに繋げられるのか。
KESIKIでは、「問いから始める新規事業」と題したミニワークショップを開催します。問いを立て、チームを巻き込み、素早く事業を立ち上げるためのメソッドの一部を公開し、参加者と一緒に「問い」をブラッシュアップします。
・事業立ち上げを命じられたけど、新しいアイデアがなかなか思い浮かばない
・チームメンバーや幹部など、まわりをうまく巻き込めない
・正直、自社の事業に意義を見出せない
こんなことにお悩みの方、ぜひご応募ください。イベント後に個別のフォローアップも予定しています。
みなさんにお会いできることを楽しみにしています!
問いから始める新規事業
「売れる」と「やりたい」を両立させるアイデアのつくり方