夫が、カレンダーに登場! 【えまちゃん前編】
気仙沼漁師カレンダー2024をご紹介するにあたり、ぜひ漁師さんに詳しい人に話を聞きたい!と声をかけたのは、我らが気仙沼つばき会のえまちゃん。
気仙沼で暮らしていても、漁師さんが身近な人と、そうでもない人がいます。たとえば養殖漁師さんの多い地域で暮らす人、漁具資材や餌を漁船に卸したり、遠洋漁業船にお酒や食料などを販売するお仕事の人などは、漁師さんが身近だったりします。一方、接点のない「陸(おか)の人」は、まったく漁師さん達の暮らしぶりについて知らないままだったりもします。
えまちゃんは、海の人と、陸の人を結ぶ存在。
震災ボランティアを機に東京から気仙沼に移住したえまちゃんですが、漁師さんの多い唐桑地域に暮らし、漁師さんの知り合いも多いことから、つばき会のメンバーとして、漁師カレンダー撮影のアテンド役を担ってきました。
2021年には、遠洋マグロ船の漁師さんと結ばれ、家族に。
2024年、最終章の漁師カレンダーには、彼女の夫・小柴孝之さんが登場しています。これは、えまちゃんに改めて話を聞かずにいられない!とインタビューをお願いしました。
1年のほとんどを洋上で過ごす夫、孝之さんについてのお話は、なるほど、ずっと陸にいる人とは違う時間の流れで生きておられることを感じさせられます!
前編では、最終章に夫が登場することになった経緯や、遠洋マグロ漁師さん達との出会いについて、後編では、年に2ヶ月ほどしか陸にいない漁師さんとの暮らしとは一体どのようなものなのか、うかがいました!
漁師カレンダー2024に、夫が登場
― 2024年のカレンダーの12月の漁師さんが、えまちゃんの夫・小柴孝之さんですよね。ずっと自分が関わってきたカレンダーに、家族が登場するのはどういう気分ですか?
えま
なんか恥ずかしいです!(笑)
今までは、カレンダーに出ていただける漁師さんを説得する側だったんで、漁師さんやご家族が恥ずかしがっていても「いやいや素敵ですよ!別にそんな、大丈夫ですから!みんな出てるから」ってお願いしてたんですけど、自分のことになるとやっぱり恥ずかしかった(笑)
― やっぱり気恥ずかしさもありますよね(笑)
えま
でも実は、彼はもともとすごい漁師カレンダーに載りたがっていたんですよね。
― え、そうなんですか?
えま
ずーっと「俺になんで話が来ないんだ」って冗談混じりで言ってて!「この写真、漁師カレンダーにどう?」って、航海先から自分の写真を送ってきたり(笑)
― あははは。自撮り写真を漁師カレンダーにと(笑)
えま
でも、彼は遠洋マグロ船に乗っているから、1年に1回しか帰ってこなくて、撮影のタイミングに気仙沼にいなかったんです。
でも今回、撮影の日程がちょうど、彼の船が帰ってくるタイミングと合うことが分かって。「いやー、これはどうしよう!」と。なんか、恥ずかしいなって思って。「私の夫、撮ってほしい」みたいなの!(笑)
― 家族を推薦するのは、ちょっと躊躇したんですね。
えま
そうなんです。でも、彼は出たいと思っているし、一応漁師だし、遠洋マグロ船の漁師さんの撮影はしたいし。どうしよう、と思って。
もうひとつは、私から彼に頼むのも、どうなのかな、と思うところもあって。身内から言われると「どうせヒイキして俺に声かけたんだろう」みたいになるかな?と思って。だから、つばき会の大先輩である紀子さんに相談して。
― あ、自分で夫に出演依頼をしたけたわけじゃないんですね。
えま
そうなんです。紀子さんの会社、オノデラコーポレーションのオーシャン事業部は、遠洋マグロ船に漁具資材や餌を積んだりするので、日頃から彼の船とも繋がりがあるんです。彼の性格も全てわかってるので、相談したら「じゃあ私から言う!」と言ってくださって。
紀子さんから声をかけてもらったら、彼はすごく嬉しそうに「いいすよ」みたいな感じだったらしいです(笑)
― よかった!(笑)彼が帰ってくるのは、1年に1回なんですか?
えま
通常、遠洋マグロ船は、10ヶ月漁に出て、2ヶ月休む形で1年に1回だけ寄港するんです。でも、彼の働いている勝倉漁業さんの船は、年に1度しか陸に上がらないと、なかなか若い人が船に乗らなくなるということで、2ヶ月の本格的な休みの他に、1週間の中休みを作ってくださっていて、年に2回帰ってきます。水揚げをして餌とか食料だけ積んで出ていきます。
― でも、ちょっとだけでも帰って来れるのと来れないのでは、全然違いますよね。
えま
そうですね。1年に1回しか会えないのと、半年に1回会えるのでは違います。
「漁師カレンダーをやりたい!」
ー そもそも、えまちゃんが、漁師カレンダーに関わるようになったきっかけは何だったんですか?
えま
私は、震災ボランティアを機に気仙沼に移住したんですが、地元で暮らしているともちろん「気仙沼つばき会」のことは知っていて。その頃は直接の関わりはなかったですが、つばき会が漁師カレンダーを作っていることも知ってて、「最高にいいなー」と思ってたんです。私、漁師さん好きなので、こういうのずっと続くといいなーと。
そしたら、2016年頃かな、つばき会の前会長に、撮影に協力してもらえそうな漁師さんを紹介して欲しいって声をかけられて、知り合いのホタテ漁師の親子を紹介したんです。で、撮影について行ったら、船の上で「えまちゃん、つばき会入らない?」って言われて(笑)
― スカウトされたんですね!船の上で!
えま
「漁師カレンダーとかやってるから、えまちゃんぜひ入って!」みたいな。私も「あ。はい」みたいな。「よくわかんないけど、いいですよ」と返事して。
― 今でこそ、つばき会には若い移住者が多いですけど、当時は地元の女将たちが中心で、雰囲気全然違ったんでしょうね!
えま
そうなんです。当時は商売をしている女将さんたちの会だと思っていたので、何か一般市民が入れるとは思わないじゃないですか。まだ若い人も一人ぐらいで、後はみんな大御所というか。だからびっくりしました。「え、入っていいんですか?」みたいな。
― 入ってみてどうでしたか?
えま
それが楽しくて!私は「漁師カレンダーやりたい!」という気持ちがすごく強かったので、漁師カレンダーの撮影と出船送りには毎回行くようにしていました。
一緒に漁師さんのところに行って撮影に立ち会うのは、なんか、一番自分が生き生きしている瞬間だったんです。何のお金も生まないボランティアだけど、漁師さんたちがすごく喜んでくれる姿を見て、これを私はやっていきたい!と強く感じて。
― 漁師カレンダーの撮影は、撮影スケジュールを組むのが大変だと聞いています。みんな自然相手だし、遠洋漁業の方は港に帰ってくるタイミングも読めないし。
えま
そうですね。予定が読めなくて。
事前に「タイミングが合えば撮影させてください」って声をかけたりするんですけど、「まあ、帰って来てたらいいよ」とか言われたり。
でも、そう言いながら、撮影の日に合わせて帰ってきちゃったりする人もいて。
― かわいい!(笑)
えま
かわいいですよね!(笑)めっちゃかわいいです。あれ、絶対これ合わせて帰って来たな、みたいな感じで。
― 船って、撮影の日に合わせて帰って来られるものなんですか?
えま
多少なら調整効くみたいです。撮影が4〜5日あるので、その間に帰ってくるとか。
撮影を頼むと「え、俺でいいの?」みたいな、ちょっと恥ずかしい気持ちもありつつ、嬉し恥ずかし、でも楽し、みたいな(笑)
― 漁師カレンダーはどういうところがいいなって思ってたんですか?
えま
気仙沼で暮らす幸せのひとつに、「魚をとった人の顔を思い浮かべながら魚を食べることができること」があると思うんです。直接漁師さんを知っているからこそ経験できるその感覚を、漁師カレンダーは共有できるんだな、と思ったんですよね。
例えばホヤを食べてて、あっ、もしかしたらこのホヤはこの漁師さんが育てたのかもしれないなって思いを馳せられたり。サンマはこの人がこうこういう思いをしてとってきてるんだって知ったり。一気に漁師さんが身近になるものだなと思って、そういうところがすごく魅力だと思っています。
ー 育てた人、とった人のことを知ると、魚を見る目も味わい方も変わりますよね。
えま
あと、なんか漁師さんって、本当にいろんな表情をするじゃないですか。
船の上はもちろん危険が伴うし、一瞬一瞬が勝負なので、ある人は鬼のようの形相だったり、すごい真面目な感じだったりしますけど、陸に戻ってくると、みんなすごいチャーミングだったり、照れ屋だったり、何かそういうギャップがあって。そんなギャップが、まさに毎月出てくるなところがすごくいいな、と思っていて。
遠洋マグロ漁師さん達との出会い
― 陸で暮らす人と、漁師さん、特に遠洋漁業の漁師さん達ってなかなか接点がないように感じます。えまちゃん夫婦の出会いは何だったんですか?
えま
唐桑にある民宿「唐桑御殿つなかん」です。
移住したメンバーでよく出入りしているんですけど、1作目のカレンダーに登場する漁師さんの実家でもあるんです。だから、漁から帰ってくるたびに、船の人を集めて、実家であるつなかんでバーベキュー飲み会をするのが恒例になっていて。
― ああ。なるほど
えま
私達も呼ばれて一緒に飲むこともあって。
えま
で、行った時に彼がいて。同い年だったんですよね。当時から船長をやっていて。27、28歳くらいだったんですけど、すごいなと思って。そもそも若くて10年も船に乗ってる人はほとんどいないし、あと、彼は仕事に対する向き合い方が、圧倒的に人と違うところがあって、人間としてめちゃめちゃ尊敬してたんですね。
私の中では、同世代で船に乗っている人達、遠洋マグロ船に乗ってる人達は、そもそもその環境に耐えている時点でリスペクトがあって。自分自身が仕事で大変な時期も、かなり彼らの存在に気持ちを支えられました。同世代で私以上に大変な仕事をしてる人達がいる。沖で頑張ってるみんながいるから、自分は頑張れるっていう気持ちが結構あって。
えま
つい2年前ぐらいまでは、みなさん船にWi-Fiはついていなかったので、本当に隔離されたというか、孤独だったと思うんですよね。
それこそ25人も乗組員がいる中で、人間関係もあるし、ちょっと嫌なことがあったり、悔しい思いをしたりしても、それを吐露できる場所もないし、聞いてくれる人もないし。
えま
彼に対してもずっとそうで。人としても凄い尊敬していたし。当時は船にWi-Fiもないから、彼が沖に行ってからはeメールをやりとりして、仕事の話とかいろいろ聞いて、「全然私なんてまだまだだわ!」みたいな感じで、自分を奮い立たせながらやっていた。凄くいい友達だったんです。
なんかでも、彼がめちゃくちゃ私のことが当時から好きで(笑)
― わー、そうだったんですね!