LOVERS VOICE 街ぐるみで若手漁師を育てる機運
リスペクトを表現することが、漁師の地位向上につながる。
漁師カレンダーLOVERS VOICE vol.3 勝倉漁業 勝倉宏明社長
漁師に光をあてるカレンダー
「漁師が脚光をあびるカレンダーを作りたい」という話を聞いたのは、まだ計画段階の頃です。すぐに、それは面白いんじゃないか、と感じました。
うちは遠洋マグロ延縄漁船「勝栄丸」を所有していて、大西洋やインド洋、南太平洋でマグロ漁を行っています。だから「漁師さん」、つまりうちの漁船の乗組員は身近な存在です。
長期にわたって海の上で働く乗組員たちは、我々にとっても重要な存在ですから、そこに光をあててくれるカレンダーを作る、というのは素直に嬉しかったです。
気仙沼には、地元の船のほか、多くの他県の漁船が入港して水揚げをしています。そういった、気仙沼を水揚げ基地としている他府県の漁船の経理部みたいな、代行業も私たちの業務のひとつです。
たとえば入港金の手配をして、個々の船員の入港中の飲食や、航海中に必要とする酒や菓子、嗜好品などの個人仕込みに使う乗組員のお小遣いを準備し、現金を船にまとめて渡します。いわば給料の前借りみたいな感じです。漁から帰ってきた直後は、魚市場からの水揚金の精算がまだなので、入港中に発生した経費をうちに請求してもらい、水揚げ代金入金後にかかった経費を差し引いて各漁船の会社に送金します。
そのほか飛行機や新幹線のチケットの手配とか、送迎とか、病院お付き添いとか、船に積む荷物の宅配便とか。船の修理、メンテナンスも手配して、地元の業者につなげることもします。
漁師カレンダーの撮影の時には、私たちも気仙沼つばき会の人と一緒に漁船に声をかけて、協力をお願いするお手伝いをしています。最初の頃は了解してくれる漁師さんを探すのが 大変でした。
海の男はみんなシャイだからね、「俺いいがら」って、最初は断る人が多いんですよ。俺、撮ってくれっていう人はまずいない。でも漁師カレンダーは、そういう漁師たちをその気にさせて撮影を実現しているんです。
漁師カレンダーが注目されることは漁師のポジションがひとつ上がる、認められている感じがあります。世の中から受け止められていることが、彼らの地位向上につながっていきます。
気仙沼には今、全国から若い乗組員が集まってきています。全国的にみて、気仙沼が一番進んでいるんじゃないんでしょうか。漁師カレンダーを企画してくれた気仙沼つばき会は、そういう「街ぐるみで若手漁師を育てる機運」を醸成してくれたと思いますよ。
陸の人と海の人をつなぐ
気仙沼に暮らしていても海の仕事の人々と接点がない人たちもたくさんいます。そんな中で、漁師カレンダーや、漁に出る船を市民や観光客が見送る「出船送り」は、陸の人と海の人をつなぎ、漁師をリスペクトする活動だと感じています。
出船送りは、もともとは家族や関係者、取引先などが船を見送る伝統行事でした。
かつて、気仙沼の「出船送り」は盛大なものでしたが、一時、とても静かなものになりました。今では気仙沼つばき会が、市民や観光客を巻き込んで、みんなで見送る出船送りとして盛り上げて、新しい伝統を作り上げてくれたと思います。福来旗(フライキ)を振って応援してくれる姿に、乗組員も「よし頑張ろう」と思いますよ。
そして、たくさんの人の声援を受けて胸を張って船出する漁師たちの姿が映像で発信されれば、「いつか、こういう世界に入りたい」と若者の共感を呼んで、より多くの若者が気仙沼を目指してくれることに、つながるんじゃないかと思います。
出船送りに集まってくれる人は、若い人が多くなってきました。見送る家族の数より多いし、そこから結婚につながる人もいます。
気仙沼は港町ですからね、昔から漁師を大切に、応援したい気持ちはあっても、みんな内に秘めたままだったんです。そんな気持ちを外に出してくれたのが漁師カレンダーであり、出船送りだと思うんです。
漁師と働く我々こそがやらなければならないことに取り組んでいただいて、本当にありがたいと思っています。
カレンダーを通して見えてくるもの
これまでの漁師カレンダーでは、竹沢うるまさんのものが気に入っています。もともと好きな写真家さんです。竹沢さんが撮る写真は、色が違います。まるで絵画のようだなって。なかでも船底とアンカーチェーンの写真が好きで、実は自分でも同じような角度で何度も撮っているんですけど、なかなか同じようにならないんですよ(笑)
朝の寒さが表現されている写真も好きです。夜明けの海の色味や、海から立ちのぼる気嵐(けあらし)、体の芯まで冷え込んだ朝の空気が写真に表れている、と感じます。
実は、飾るための漁師カレンダーと、飾らないまま保存版のものとを第一作目からすべて持っているんです(笑) すべてのカレンダーの未開封を持っているというのはかなりレアじゃないかな。これもひとつの歴史。貴重なコレクションですよね。
毎年、「今年のカメラマン誰だろう」って、楽しみにしてきたんです。
これまでは仕事の時の乗組員の顔しか知らなかったので、漁師カレンダーを通してなにげない普段の顔を見られたのはいいな、って思います。たとえば、船の中などなかなか見られない場所も、写真をとおして見ることができたり。
普段、遠洋の漁船と関わっているから、それ以外の漁師さんの様子を見る機会がなかなかないんですよね。だから、漁師カレンダーに養殖、定置網、突きん棒漁の漁師なんかも登場されているのを見ることも新鮮です。
カレンダーを通して、気仙沼のことを知らない人も、気仙沼にこういう風景があるって伝わるんじゃないかな。