遠洋マグロ漁師さんとの結婚 【えまちゃん後編】
震災ボランティアを機に東京から気仙沼に移住した、えまちゃん。
漁師さんの多い唐桑地域に暮らし、多くの漁師さんの知り合いを持つ彼女は、気仙沼に暮らしていても漁師さんとなかなか接点のない陸(おか)の人と、海の人をつなぐ存在。
最終章である、漁師カレンダー2024には彼女の夫が登場するということで、インタビューをさせてもらいました!夫がカレンダーに登場することへの思いと、出会いについて聴かせてくれた前編に続き、後編では、寄港のたびに目まぐるしいスピードで進んだお二人の馴れ初めを。
1年のほとんどを洋上で過ごす人との暮らし。とても興味深いお話でした。
遠洋マグロ船の人たちへのリスペクト
えま
遠洋漁業の漁師さんって、1年間海の上ですごく大変な仕事だと思うんですよ。
私は、「出船送り」をとても大切にしているんですが、それは以前、漁師さんから出船送りについて、思いを聞かせてもらったことがあるんです。
「みんなが旗を振って見送ってくれた光景を1年間頭に焼き付けて、俺は頑張ってるんだ」って。その時に、本当に出船送りってすごく大事だなって感じて。
漁師さんにとっては陸を離れたあの日の風景をずっと頭に焼き付けて1年間洋上で仕事をしてるんだって思ったら、何かすごく出船送りも毎回毎回全力になるし。
みんな、知らない人が見送りに来てくれても嬉しいんですよね。みんなが応援してくれてるって気持ちになるから、旗の数が多ければ多いだけみんな嬉しいし。
― 頑張ってこようって。
えま
そうなんです。だからみんな出船送りにきてもらえたらって思います。
なんか思うんですけど、出船送りの時、乗組員とか紹介してほしいですよね(笑)機関長のなんとかさんです!とか。
― 「頑張って来ます!」みたいな(笑)
えま
船頭さんだけじゃなくて、いろんな人を紹介して一言もらって。そうするとみんな親近感湧きますよね!今度提案してみようかな(笑)
― そうすると、船を見送るんじゃなくて、働く人たちを送る感じになりますね。漁師さん達と気持ちが通い合うきっかけみたいな。遠洋漁業の船は、漁師さんと知り合いたくても、知り合うきっかけがない感じがありますしね。
えま
でも、船の人たちもシャイだから。1年間、本当に25人の男たちの中でいるので、初めましての人と何を話をしていいか分かんないらしくて。
― ああ、なるほど。そうなんですね!
えま
あと、本当にシャイな子とかは、「女の人と何話していいか分かんない」みたいな子も結構いて。若い子とか。だから、なんか、船の人たちからこっちに近づいてもらうのはなかなか難しいんだろうなって(笑)
― 向こうから距離を詰めてもらうのは、難しいと(笑)
えま
そうそう(笑)
ー そう考えると、えまちゃん夫婦は、お互い馴染みの場所で、知っている人たちに囲まれた場のバーベキューで出会えたこと、とても良かったですね!
交際期間2ヶ月、そして結婚・出産
えま
行った時に彼がいて。同い年だったんですよね。当時から船長をやっていて。凄くいい友達だったんです。
なんかでも、彼がめちゃくちゃ私のことが当時から好きで(笑)
― わー、そうだったんですね!
えま
そのバーベキューでひとめぼれをしてたらしいんですけど(笑)「次に航海から帰ってきたら付き合いたい」みたいな感じになって。
でも、やっぱり遠洋マグロ船の人と付き合うって、1年に陸にいる期間が2ヶ月しかないから、それじゃあ相手のこと分かんないんですよね。
2ヶ月の間に何回か会っても、1年行って帰ってきたら、あれ、こんな人だっけ?みたいな(笑)
だから、普通に付き合っても、限られた2ヶ月ではお互いを理解できないと思って。これはやっぱ一緒に暮らさないと駄目だ!と思って、航海から帰ってきた日から付き合おう、となって、で、その日から一緒に暮らし始めたんです。
― え!えまちゃんから一緒に暮らそうって言ったんですか?
えま
そうです、そうです。
― 付き合うなら一緒に暮らそうと?
えま
そうです。
― 面白い(笑)
えま
付き合うなら暮らそう。じゃないと、分かんないから。彼は私と結婚したいという気持ちが最初からあったから、結婚するなら特に一緒に暮らさないと分からない、と。
で、やっぱり一緒に暮らすといいところも悪いところも分かるじゃないですか。
2ヶ月間、市内のアパートで暮らしてみたら、結構お互いの生活感というか、衛生観念というか、そういうのが合ったんですね。きれい好きかどうかとか、そういうの結構大事じゃないですか。生活の感覚も食の好みも合っていたんです。
性格は、私と正反対だということも分かりました。彼は、陸にいる時は人とあんまり会いたくない。もう家にずっといたい感じで。
― 1年間船の上で、ずっと人に囲まれてるから。
えま
そうそう。帰って来て人と会っても、次またこの人と会うかが分からないから、どこまで深くなっていいか分からないらしいんですよね。どこまで仲良くなっていいのか。次また帰ってきた時にこの人はいるかどうかも分からないし、どういう状況になっているか分かんないから。何かそういう感覚があるらしくて。
―そうなんですね!遠洋漁業の漁師さんって1年のほとんどが洋上で、陸で過ごす時間が短いから、そういった感覚があるんですね。
えま
人と関わるのは嫌いじゃなくて、心を打ち明けた人たちにはすごくよく喋るんですけど、あんまりよく知らない人はちょっと苦手なところがあって。一緒に暮らしてみた2ヶ月間でそういうことも知れて。
― いろんな理解が深まったんですね。
えま
でも、この人だったら何かあっても生きていけるなって。なんか……真っ昼間にこの話、恥ずかしくなってきた。みんなに聞かれて(笑)
― ははは。でもいい話!
えま
でも、この人だったら、どこでも生きていけるかなって思ったんですね。たくましいし、料理も結構するんです。家事もめっちゃしてくれるから、この人となら生きていけるな、みたいな気持ちになって。それで、じゃあ結婚しましょう、と。
だから付き合ったのは2ヶ月間だけ。そのまま彼は航海に出て、半年後に1週間だけ休暇で帰ってきた時に、もう入籍したんです。そしてまた彼は航海に戻って、その時に子供ができたんです。
次に彼が帰ってきた時はお腹が大きくなっていて、彼が出航した2日後に子どもが生まれました。何かすごいスピードだったっていう感じがあります。
― 本当、すごい展開ですね!
限られた時間を共に過ごす
ー 1年の間、ほとんどいない人と一緒になってみてどうですか。
えま
すごくいいです!
―すごくいいですか!(笑)
えま
すごくいい!
― ははは。でも確かに、一緒にいる時間を大事にできますもんね。
えま
そうなんですよね。やっぱり、相手のことを大切にできますね。
― 2ヶ月しかないし。
えま
喧嘩しても、あと少ししか一緒にいられる時間がないし、大切にしよう、みたいな気持ちになって。
― 漁師さんにとっては支えですよね。帰ってくる場所がある、家族が待っているって嬉しいんじゃないですか?
えま
それは言ってくれますね。何のために仕事しているかって言ったら、やっぱり家族の為になったって言ってました。今まではとりあえず自分のキャリアのためとか、もう「俺はいつ死んでもいい」と思っていた感じで。
彼は元々家族もいなくて。お母さんも小さい時に亡くなっていて、環境があまり良くなくて、多分、そういう家族の愛みたいなのに飢えていたんじゃないかな、と思うんですけど。だから今までは別に、いつ死んでもいいと思ってやってきた。
でも、今は子どももいるし、私達のために仕事をしてるって。それが仕事のやりがいになっているし、自分の生き甲斐だって言ってくれますね。
―そうですか。なんだか、すてきな関係ですね。
えま
何かね、彼、帰ってきても毎日船に行くんですよ。
― え!
えま
陸にいる2ヶ月は、ずっと休みだと思ってたんですよ。なのに彼は、もう毎日船に行くんです。毎日朝8時に行って4時ぐらいに帰ってくるんです。
― 船で何をしてるんですか?
えま
漁がお休みの期間って、船に業者さんが毎日出入りして、船の悪いところをメンテナンスしてくれたりするんです。その人たちに顔を出すのが大事だって。
通常はだいたい、からっぽの船に業者さんが来てくれるんですけど、やっぱりちゃんと船長が責任を持って顔を出して、その場を監督してることが伝わると、業者さん達の気持ちもきっと変わるから、毎日行って顔を出すんだって。
船で自分の部屋を掃除したり一人作業したり、次の仕込みの打ち合わせをしたり。1日中、そんなことをやって帰ってくるんで、こないだの休暇も、2ヶ月休みなのに、家でぐたっとしているのは、最後の1日だけで。
― すごい勤勉!
えま
そうなんです!勤勉ですよね(笑)仕事がめっちゃ好きというか。だから、2024年版カレンダーの「船は24時間働ける家」っていう彼の言葉は本当にその通りで。彼を表してるなと。
えま
彼はね、家が貧しかったので、何か小さい時から、働かないと生きていけないって思ってたみたいです。家で食べるものもないから、中学の時から、朝、新聞配達して学校に行って、部活して、帰って友達の家でご飯食べて。彼の出身地の八戸には銭湯がたくさんあるから、銭湯の風呂洗いのバイトをして、自分も体も洗って帰るみたいな。そんな日々で。
ずっと、生きることは働くこと、みたいな感覚で生きてきたところがあるんです。働いてない自分に価値がないって思ってる感じもあって。
だから帰ってきても、船に通って仕事ばっかりしていても、「まあ、そうしたいならいいんじゃない?」って最近は思えるようになったんですけど。
― あ、そう思うようになったのは最近なんですか?
えま
最近です。
― 最初はやっぱり「何で休みなのに!2ヶ月しか会えないのに!」って不満に感じたり?
えま
そう!(笑)子どもと一緒にアンパンマンミュージアム行こうよ!みたいな(笑)
2ヶ月休みってことは、平日に旅行に行けると思ったんですよね。でも帰って来てもサラリーマンのように朝から夕方まで仕事に行くし。
― 全然休んでくれない。
えま
休んでくれない。旅行の計画とかも全然立てられなくて。もしかしたら船に行かなきゃいけないかも、呼ばれるかもしれない、とか言って。無理やり休みを取らせたりもしますけど。
でも、そういうところが、やっぱりすごく尊敬できるなとも思っていて。
― 責任感と。仕事を大事にする向き合い方が。
えま
そうです。なんか、ちょっと昭和気質なんですよね。平成生まれなんですけど。
― 彼はもう、来年のカレンダーを見たんですか?
えま
見ましたね。
― なんて言っていましたか。
えま
「意外といい感じだね」って
― 意外と!(笑)
えま
そうなんです!そういうところがツンデレというか、漁師あるあるというか。嬉しいけど、素直に言えないところがあって(笑)
― あはは。なんだかかわいいですね。
えま
それでいて「今年は何部出したの?」とか、「いつから発売なの?」とか、そういうことを聞いてくるようになったりして(笑)「全部売れるといいね」とか。
自分で10部ぐらい買ってました。友達に送るって。
― めちゃくちゃ関心を持ってくださって(笑)漁師カレンダーの最終章に載ることができて良かったですね。
えま
そうなんです!(笑)
ハラハラばかりのカレンダー撮影
― ご主人の撮影の時は立ち会ったんですか?
えま
いや、これは立ち会わない方がいいと思ったし、彼も嫌って言ったので、立ち会いませんでした。
11月の畠山菜奈さん家族の撮影は立ち会ったんですが、この前日、なんか子供達が体調不良で、どうしよう!もしかしたら撮影できないかも!みたいになってたんです。当日の朝ぐらいまで、ギリギリどうなるか分からない状況で。
― えー、そうだったんですか。大変ですね!カメラマンは1回につき5日間ぐらいの滞在だから、その間に撮影出来ないとだめだし。
えま
そうなんです。もうあと日がなくて。でも、前日まで熱が出てた子ども達が、撮影の日の朝、大丈夫になって保育園に行けて。ぐずっていたのが治って。
― わあ!
えま
で、旦那さんが子ども達を保育園に迎えに行ってくれて、なんとか約束の時間に全員集合できて。そしたらめちゃめちゃ子ども達も楽しそうにしてくれて。
― 写真すごく明るい感じですよね。まさかそんな体調不良の直後とは思えないです。
えま
そうなんですよ。
あと、この時、撮影現場には私の子供は連れて行かず、夫に預けたんですよ。
夕方、保育園に迎えに行って、夫に預けて、撮影に間に合うように現場に向かって。でも彼も漁から帰ってきたばっかりで、子どもも夫にまだ慣れてないし、「ママー」って泣かれて、それを振り切るように私は家を出て、撮影に立ち会って。
家に帰ったら、夫と子どもが、もうすごく疲れ切っていて、二人とも(笑)
― お互い慣れないもの同士……。
えま
そうそう、慣れないもの同士。そんな気持ちも裏には実はあって。
で、その次の日の朝が、夫の撮影だったんです。だからカレンダーの11月と12月は、私たちにとって思い出深いです。
ー そうだったんですね!なんだか撮影の裏側を思い浮かべながら、カレンダーを楽しめそうです。
最後に、漁師カレンダー2024について、えまちゃんの感想を聞かせてください。
えま
なんか最終章は、漁師と魚と船、という、みんながイメージする「ザ・漁師カレンダー!」っていうのができたなって思っています。
すごく分かりやすいですよね。この人が何をとって、どんな船に乗っていて、どんな人でって。すごく象徴的なカレンダーになったな、と。
漁師カレンダーの1年目も、漁師さんがポーズを決めて船の前で撮って、とても象徴的なカレンダーだったので、1年目と最後、いい始まりといい締めくくりになったなと思っています。
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