LOVERS VOICE 陸から漁師を支える
漁師さんへの応援の気持ちを込めて。
漁師カレンダーLOVERS VOICE vol.6 森田医院 森田潔 院長
医師として毎日会う漁師さんの、別の顔
気仙沼漁師カレンダーは初回から購入しています。
気仙沼つばき会さんが、一生懸命に出船送りなどされていたことは以前から知っていました。そんなつばき会の皆さんが気仙沼を、そして漁師を応援するということでカレンダーを作られたとお聞きして、ならば私たちも応援の気持ちを含めて購入させていただこうと。以来、毎年購入しています。
最初に中を見た時は、斬新だなというのが素直な感想でした。
漁師さんには乗船検診というものが必要なので、医師として毎日のようにお会いしていますが、検診の際には漁のお仕事をしている様子や、なにげない息抜きの様子を見る機会というは、なかなか少ないんです。
漁師カレンダーは、漁の現場の雰囲気や表情が伝わってくるような素晴らしい写真ばかりでしたので、期待に違わない仕上がりでした。風景は風景であるけど、その表情が千変万化する。それをうまく捉えた写真が多くて感動しました。
初回の漁師カレンダーからずっと、いろんな漁師さんの写真を見ています。なかでも今、思い出す一枚は、夜の操舵室で、暗いなかの船頭さんの一枚が印象深いです。表情が豊かでいいですよね。女房も一緒に見ながら、「かっこいいね」と話をすることもあります。
漁師さんって結構忙しいんですよ。自然相手の仕事ですから、何時に起きて仕事とかじゃなくて、夜、寝ていても魚がいたらわっと起きて魚を獲る。不規則な生活もいいところ、魚次第です。その中のちょっとした時間。ホッとした風景を切り取ったような写真だなと思って、気に入っています。
毎年、カメラマンが変わるのも、視点が違っていいですよね。カメラマンだけでなく、形も装丁も毎年違うので、さて今年はどんな感じかなと楽しみに待っていて、届いたカレンダーを開いて、こうきたかと唸ることもたびたびです。
漁師さんというと、荒々しいイメージを持たれている人もいらっしゃいますけど、意外とみなさん純朴な方が多いんですよ。気遣いがある、というんでしょうか。
船の上で長期間、共同生活をするわけですから、ちょっとした気遣いがないと喧嘩になりますからね。漁師カレンダーでは、そんな素の姿が捉えられているように感じました。
釣った魚をさばいて船で食べているところや、普段の漁船の様子など、漁師さんの生活は、なかなか表に出ることがありません。漁師さんの素の姿がカレンダーから伝わってくるのか、結構、女性に人気です(笑)。ある女性医師から「マッチョでいいね」と感想をもらったこともあります。「漁師さんってマッチョなんだね!いいね!」って。毎年、漁師カレンダーを楽しみにしています(笑)。
待合室を飾る漁師カレンダー
漁師カレンダーは、病院内の待合室にも飾っています。漁師の患者さんはみなさん照れていますよ。
「載っていたね」「かっこいいね」など、患者さん同士、話をしたり。
カレンダーに載っている漁師さんは、スターみたいなもんですよね。診察にいらした漁師さんがカレンダーを指さして「これ俺だー」と自慢気に教えてくれる人もいます。
そんな時の表情は、一個人としての人となりが垣間見えて、いいですよね。
年末になると、患者さんにカレンダーを差し上げているんですけど、気仙沼つばき会さんの「気仙沼漁師カレンダー」と、気仙沼の情報誌「浜らいん」を発行しているみなと倶楽部さんの「昭和の気仙沼風情」のカレンダーとを選んでもらっています。患者さんは毎年、楽しみにしてくれているようです。
それぞれお好みがありますから、実は患者さんのカルテにどちらのカレンダーがお好みなのかを明記しておきます。
毎回、手書きするのも大変なので、漁師カレンダーがお好みの患者さんには「漁師カレンダー」、もうひとつのカレンダーも同じくハンコを作ってカルテに押しているんです(笑)。この患者さんは昭和の気仙沼、この患者さんは気仙沼漁師カレンダーって。
そのほか、日にちが過ぎたカレンダーでも、写真がきれいですから切り抜いてラミネート加工して、患者さんにプレゼントしています。
カレンダーは毎年、300冊ほど購入させていただいています。年末の風物詩のように、毎年、楽しみにしてくれている方もたくさんいるので、お送りしています。結構、人気ありますよ(笑)
いろいろなカレンダーがありますが、「漁師カレンダー」っていうと、珍しいですよね。お世話になった人たちへ気仙沼らしいものをお渡ししたい時に、もちろん海産物もそうなんですが、気仙沼漁師カレンダーが華を添えてくれます。
港町の医師と漁師の関係
船に乗る漁師は毎年かならず乗船前に健康診断を受けることになっています。
視覚、聴力、血液、尿、レントゲン、心電図など、貧血検査や腎機能検査をのぞけば大体を網羅している検診です。万が一、乗船後に具合が悪くなってしまうと、ご本人はもちろん、まわりも大変なので、そうならないように、かならず検診を受けなければいけない規則になっていんです。
そして検診後、合格となってはじめて乗船の手続きに入ることができます。
一度、遠洋船に乗って出てしまえば、たとえ体調が悪くなったとしても洋上ですから受診することも、おいそれとはいきません。
よほど具合が悪い時は、操業を中止して、たとえばハワイ沖だったらオアフ島などその漁場の近くに入ることになりますが、操業をやめてその人のために船ごと移動するわけですから、それは本人も大変だし、申し訳ない気持ちにもなるでしょう。もちろん、同僚も心配します。操業場所によっては、オアフに行くまでも、1週間近くかかってしまうことすらあります。
私の同級生で漁労長をやっていた人がいて、毎年、航海を終えて港に戻ってくるたび「帰ってきたよー」って魚とか持ってきてくれました。その彼がある時、ハワイ沖の洋上で吐血したんです。
ストレスもきっとあったと思います。そうでなくても1年を洋上で暮らすのは、ある意味、特殊な世界ですから。結局、彼はオアフ島に着く前に失血死してしまいました。
長期の航海となる遠洋船は、よっぽど大きな船でないと医務室がない場合が多いです。洋上で体調を崩した船員が出ますと、まず、電話やファックスで病院に連絡が届きます。そこで船上に積んでいる薬のリストや、血圧やサーチレーション(血液中の酸素濃度)などのデータをファックスで送ってもらい、電話で状況を聞いて、なんとか効きそうな薬を指示することもあります。
船には、看護師の代わりに衛生士の資格を持った船員が乗船しているので、そこでやるしかありません。たとえば船員が大怪我をしてすぐに病院に入れない時は、衛生士が消毒したり、場合によっては縫合もします。
たとえば陸上だと肺炎は抗生物質の点滴をしますが、船によっては抗生物質も積んでいますので、その点滴も衛生士が行う場合もあります。本来は看護師資格を持った人間に認められている処置ですが、洋上での緊急避難的に認められています。
医療の面から見ても、遠洋船はかなりハードな環境の中、操業されています。
私は一人の医師として、船に乗る漁師さんたちを支えたいと思っています。