9. Screw Driverの夜(回想)
大学1年生。
地方の大学だったため、ほとんどの生徒が一人暮らしを始めた春。
初々しいわたしたちは、名簿の名前が近いもの同士で仲良くなり、連むようになった。
サークルはそれぞれ違っていたが、時々各々の家に集まった。
わたしは、タケ、シン、ヤスの男性3人。マオ、ミウ、わたしの6人で仲良くなり、よく遊んでいた。
タケとマオは付き合っていた。
ミウはシンを好きだった。シンもその気持ちを知っていて、よく一緒にいた。
そして、わたし。ヤスのことが好きだった。
だが、ヤスはマオに片想いをしていた。
わたしは、ヤスが辛そうな時、一緒にいた。
でも、その自分も辛かった。
『わたしは片想い人生』なんだと、自分で決めつけていた。それでもヤスのことが好きだった。
仲良さそうに見えたが、タケはヤスに自分の女を盗られるのではないかと、ヤスを警戒していた。
そして、その予感が的中する。
冬。
平穏な日々に事件が起こる。
マオがヤスと、体の関係を持ってしまったのだ。
男3人の友情が崩壊した。
そして、わたしの心もズタズタになった。
どんな顔で学校に行っていたのだろうか。
わたしは極力、平静を装っていたが、何が起こったのか、未熟過ぎるわたしには理解不能であった。
そんな時、ミウの家に来いとシンに言われ、夜に軽自動車を運転してミウのアパートに向かった。
そこには憔悴しきったタケがいた。
「あんなに好き合ってたのに大丈夫なん?」
自分の辛さを隠し、わたしが聞く。
「いや、俺なんか怪しいと思うとってん。サイコもヤスのこと好きだったやろ。ほんまごめんな。サイコも辛いよな」
「好きになってしまった同士なら、仕方ない。わたしたちは何も言う資格はない。そうだよね?」
わたしはカタツムリのように身体を縮めた。
泣いているのを悟られないように、身体を縮めて縮めて小さくなった。
『わかってた。ヤスがマオを好きだってこと。わかってた。それでも良かった。わたしはずっと、片想い人生。わたしの人生は、誰かの付録。ハンバーグステーキの横に添えられたインゲンのような人生。』
小さく縮こまったまま、腕で涙を拭った。
そして、その縮こまったまま、床で眠ってしまった。心が疲れ切っていた。
ふと目覚めると、まだ男同士は語っていた。ミウは眠ったようだった。
縮こまって寝ていたわたしの両足は、痺れてしまって全く感覚がなかった。
「助けてーーーーっぅ」
「サイコ、起きたのか。・・・サイコ!?」
悶え苦しむわたし。
男2人がわたしの方へ駆け寄る。
「触らないでっっ!!!足しびれてるのっっ!」
男2人は、顔を見合わせて大笑いした。
「笑い事じゃないーーー」
わたしは道化師のように悶え苦しんだ。
そう、わたしはピエロでいい。ピエロでいいの。泣きながら笑うの。
心で泣いて、顔は笑うの。
わたしは、笑うタケの胸ぐらを掴んだ。
「あの2人は好き同士だから仕方ない。わたし、帰るよ」
足を引きずりながら帰ろうとする。
「おい、サイコ!・・・なぁ・・・・・俺と付き合わんか?」
ヤケになり、思ってもないことを言うタケに怒りが込み上げた。わたしはタケの顔に顔を近付け言った。
「まだマオのこと好きなくせに。冗談やめて。」
「・・・そやな。」
わたしはミウの部屋を出た。
冗談でもいい。タケでもいい。
誰かわたしを抱き締めて欲しかった。
タケの「そやな。」と、自分の言った言葉が自分に刺さり、泣きながら運転した。
マオはヤスと寝た。
わたしの恋愛を応援してくれていたマオ。
所詮その、わたしたちの友情は、わたしの自分勝手なエゴで成り立っていたのだ。
わたしは失恋とともに、大学に入って初めての親友を失った。
わたしはその6人グループから離れた。
そのうち、マオがヤスを振り、タケとマオがよりを戻したと聞いた。
人の気持ちの不可解さを思い知った。
ヤスもグループを離れ、しばらく人を避けていたせいか、クラスで孤立していった。
当初は笑顔ばかりでムードメーカーだったヤス。バスケットボールが上手だったヤス。表情が陰り、タバコを吸い、学校も時々サボるようになった。
恋愛はこんなにも人を変えてしまうのか。。。
わたしたちは、ほとんど会話を交わすこともなくなってしまった。
わたしは、アカペラ合唱サークルの友だちや先輩と過ごす時間が増え、歌うことで気を紛らわしていった。
カタツムリになって泣いた夜からちょうど1ヶ月ほど過ぎた夜。
突然シンから電話があった。
「サイコ。。。相談がある。」
ただ事ではないと直感した。
久しぶりの電話。真剣な声。
「ミウのことで。。。」
バイトが終わったら行ってもいいか?という内容だった。
21時を過ぎていたが、わたしは大切な『友人』シンが部屋に入るのを容易く許した。
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