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季語研究 「鰯雲」 -青空か夕焼け空か-
★★★けろけろ道場 季語研究★★★
No.26【鰯雲(いわしぐも)】(三秋 / 天文)
● 概要
小さな雲片の集まりが集まり、空一面に広がる雲。鰯の群れのように見えることから「鰯雲」という。この雲が見られると鰯の大漁になるともいう。
【傍題】鱗雲(うろこぐも) 鯖雲(さばぐも)
● 季語について
皆さん。こんにちは。けろけろ道場執筆者の成瀬源三です。
今回取り上げる季語は「鰯雲(いわしぐも)」という筆者の偏愛する季語で、記事執筆に奮い立っていたのですが、その途上で自らの「鰯雲」観を揺るがすようなことに気付いてしまいました。筆者はこれまで鰯雲というと夕焼け空をバックにした「鰯雲」を思い浮かべていましたが、画像検索してみると青空バックの鰯雲の方が圧倒的に多いんですね。どうも青空バックの鰯雲の方が世間の基本イメージらしい。
これは結構重要な問題なんですよ。私としては鰯雲を美しさ・切なさ・怖さを内容する季語と思っていたのですが、切なさ要素が思いのほか少ない疑惑が立ち上がったのですから。
そこでけろけろ道場はTwitterアカウント(@kerokero_dojo)でアンケートを取ってみました。結果は下記の通りです。
【皆さんにアンケート】
「鰯雲」と言うと、どちらを頭に浮かべますか?
・青空に鰯雲 93% 53票
・夕焼け空に鰯雲 7% 4票 (全57票)
うーむ、やはりというべきか、「青空に鰯雲」の圧勝。3年も偏愛季語に挙げながら基本映像を変えねばならない事態になってしまいました。とはいえ、夕焼け空に鰯雲のパターンもありますし(夕方に空より先に鰯雲が赤く染まる光景もよく見られます)、青空に鰯雲でも切なさ要素が消えるわけではないので、イメージを全面的に変えるとまでは言えないと考えています。
なんだか煮え切らない記事になってしまいましたが、多くの人を魅了してやまない人気季語であることは間違いないので、皆様と意見を交わしながらイメージを鮮明なものにしていきたいです。
なお、俳句ポスト365において「鰯雲」は既出で、第200回2018年7月18日の週で取り上げられています。この回の作品を詠むことも、季語の本意の把握のためには有益といえるでしょう。
● 例句研究
(1)取り合わせの句
家族のこと、人生のことと取り合わせる句が多いようです。やはり、一筋縄ではいかない複雑な感情が多いように感じられます。
鰯雲人に告ぐべきことならず
-加藤楸邨-
妻がゐて子がゐて孤独いわし雲
-安住敦-
鰯雲記憶は母にはじまれり
-伊藤通明-
鰯雲仰臥の子規の無重力
-東国原英夫-
ラ・マンチャの地に哭く従者鰯雲
-成瀬源三-
(2)一物仕立ての句
鰯雲は特徴的なビジュアルということもあり、鰯雲そのものの描写もまた魅惑的な課題です。「もうやり尽くされている」と悲観する前に、自分なりに表現を試みることで生まれるものもあるかもしれません。
大空を引伸ばしたる鰯雲
-稲畑汀子-
鱗雲時には鱗落したり
-塩川雄三-
なほ上に鰯雲ある空路かな
-高濱年尾-
◆ 主要参考文献
『合本 俳句歳時記 第四版』(角川学芸出版)
ウェブサイト『きごさい歳時記』
ウェブサイト『増殖する俳句歳時記』