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季語研究 「蜜柑」 -俳人、蜜柑むきがち-
★★★けろけろ道場 季語研究★★★
No.32【蜜柑(みかん)】(三冬 / 植物)
● 概要
ミカン科の常緑低木の実。代表的なものは鹿児島県原産の温州蜜柑(うんしゅうみかん)で、暖地に広く栽培される。
● 傍題
蜜柑山
● 季語について
みなさん、こんにちは。今回の季語はみんな大好き「蜜柑」ということで、張り切って季語を学んでいきましょう。
蜜柑はおいしくて、日本人から愛され続けている果物であることは今更説明するまでもないでしょう。寒い冬に炬燵の中で蜜柑を食べ続けたといった経験は多くの人にあるはずです。
しかし、身近で思い入れのある季語だからといって発想が簡単ということでもありません。そもそも食べ物の季語は「おいしい」や「甘い」といった素朴な感情以外の発想をすることがなかなか難しく、句作が難航するといったこともよくあります。
今回もまずは過去の例句を読んでイメージを膨らませた上で、自己の体験に引き付けてのんびりと俳句を考えるという方法が正攻法と思われます。勿論片手には綺麗に剥かれた蜜柑を持ちながら・・・。
● 例句研究
(1) 蜜柑を「剥く」句
このパターンは驚くほど多く、体感では六割は「剥く」句ですね。正に、「俳人、蜜柑剝きがち」です。
食べ物は全て「食べる」動作と結びついていますが、「剥く」ことができるものは果物など限られてくるので、特別な光景が描けるという言い方もできるでしょう。更に言うならば、他の果物が包丁を使って剥くのに対して蜜柑は手で剥くものなので、「子どもでも誰でも剥ける」「お喋りやテレビ鑑賞などほかのことをしながら剥ける」といった特色があり、ドラマを作りやすいのかも知れません。
ただ、(例によって口の悪さを許して欲しいのですが)こうも蜜柑を剥く句ばかりが並ぶと、剥いてばっかりいないで普通に食べようよという気持ちがわいてくるのもまた事実です。みんなが「剥く」句を作っているから自分も真似してみるというのもアプローチとしては良いと思いますが、結果として自身が共感できる句を詠む形にしていけるといいですね。言うが易し、行うが難しというやつですが。
探しもの又して疲れ蜜柑むく
-星野立子-
共に剝きて母の蜜柑の方が甘し
-鈴木榮子-
これ以上進まぬ二人蜜柑むく
-関根優光-
蜜柑むき大人の話聞いてゐる
-西村和子-
(2) 蜜柑が置かれている句
下積の蜜柑ちひさし年の暮れ
-浪化-
(3) 蜜柑を「摘む」句
蜜柑摘む隣の山と声交わし
-北さとり-
(4) 「蜜柑山」の句
紀の国の北向く山も蜜柑山
-栗津松彩子-
これは良い句ですね。蜜柑山というと南向きで陽の光をいっぱいに受けているかと想像しますが、北側でも栽培しているとは。陽の光いっぱい、蜜柑いっぱいの紀の国の光景が目に浮かびます。
蜜柑山の中に村あり海もあり
-藤後左右-
◆ 主要参考文献
『合本 俳句歳時記 第四版』(角川学芸出版)
ウェブサイト『きごさい歳時記』
ウェブサイト『増殖する俳句歳時記』