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生成AIが学びと思考力に与える影響
はじめに
生成AIは私自身にとって、時に便利で、時に考えさせられる存在です。日常の中でその利便性を享受しながらも、「私たちの考える力や表現力はどう変わるのだろうか」と感じることが多くあります。本稿では、私が学生として生成AIに触れる中で感じた恩恵や危惧を踏まえ、生成AIが言語化能力に与える影響について掘り下げていきます。
言語化能力と生成AIの関係
思考の省略によるリスク
生成AIを利用することで、文章作成の負担が軽減される一方、思考そのものを省略してしまうリスクを、私は強く感じています。レポート作成時、AIが提示する完成度の高い文章を目にすると、どうしてもそれをそのまま使いたい誘惑に駆られます。しかし、それでは本当に自分が考えたと言えるのか、と自問することも少なくありません。たとえば、学生がAIに依存してレポートを作成すると、課題を深く理解する機会を失う可能性があります。この結果、論理的な構成や語彙選択の力が十分に育たないことが懸念されます。
教育心理学の研究(Smith, 2023)では、生成AIを多用する学生が、文章構築力の低下を経験する傾向があると報告されています。しかし、AIを批判的に活用し、自分の意見を付け加える学生は、むしろ深い洞察力と表現の多様性を身につけた例も示されています。つまり、AIを使用した結果の良し悪しは、その使い方によるということです。使うこと自体には何の罪もないのだから、だったら学校機関も生成AIの使用を奨励していくべきと私は思います。
情報の正確性と批判的思考
生成AIに過度に依存すると、情報の信頼性を疑う力が弱まるリスクもあります。AIが生成する内容は一見整然としていても、必ずしも正確とは限りません。このため、AIが提示する情報を検証し、判断する力を養うことが重要です。巷でさんざん言われていることです。
言語能力の未来と生成AI
AIを通じた思考整理
生成AIは単なる成果物生成器ではなく、私自身にとっては思考の整理や拡張に役立つ道具でもあります。特に、自分の考えを一度言語化し、それに対してAIが補足や修正を加える過程は、まるで信頼できる共同作業者と対話しているような感覚を覚えます。たとえば、Xのユーザー、さとりさん(@satori_sz9)は、AIに「中庸な視点からアドバイスしてほしい」と指示することで、バランスの取れた意見を引き出す方法を提案しています。この方法は、認知のゆがみを補正し、新たな視点を得るための実践例として注目に値します。Xで話題になっていただけあると思います。
(1) さとり on X: "ADHDやASDの人は全員これやった方が良い。ChatGPTに「この考えを中庸思想からアドバイスして」と自分の考えを書いた後に指示を出す。そうすると中庸でバランスの取れた回答をくれるため認知の歪みが改善される。一般人も定期的にこれをやることで認知バイアスを減らして老害化に歯止めがかかる。" / X
言語能力の衰退への懸念
生成AIが進化するほど、人間が自らものを作成する機会が減少する可能性があることは、誰もが懸念していることと思います。特に、自分で考えずに済む状況が増えれば増えるほど、私たちは自らの力を過小評価し、創造的な表現から遠ざかる危険性があると感じます。特に、学生や生徒が「AIを使えば十分」という考えに陥ると、自己表現力や文章力の低下が懸念されます。この課題に対処するためには、AIを補助的な役割に留め、自分で考え、構築する習慣を維持することが重要です。中高生のときは、ことあるごとに作文を書かされましたが、その最終的な推敲はAIに任せるとしても、感想や持論くらい自分で考えろ、ということです。どんなに稚拙でまとまりのない文章でも、相手に伝わるならそれで良いのです。その表現を改善するものとしてAIを利用しろ、ということです。そんなの皆さんも分かり切っていると思いますが、成績に関係ない作文に時間をかけるくらいなら、楽なツールを使ってさっさと終わらすに越したことはありませんよね。
教育現場での生成AI活用
学習成果への影響
生成AIを解答生成器として単純に使用するのか、それとも自己研鑽の道具として活用するのかによって、学習成果に差が生じる可能性が指摘されています。一部の研究では、生成AIを単に解答を得るために使用した場合、学生の深い理解や問題解決能力の向上が妨げられる傾向が見られます。一方で、生成AIを批判的思考を伴って活用した場合、知識の深まりや新たな視点の獲得に繋がるという報告もあります。たとえば、AIを用いて仮説を構築し、それを基に議論を展開する手法が学生の創造力を刺激した成功例が報告されています。
幼児教育におけるAIの可能性
生成AIは幼児教育の分野でも注目されています。たとえば、AIを搭載したロボットとの対話が、幼児の社会的スキルや言語能力の向上に寄与する可能性があるとされています。ある研究では、AIとの交流を通じて子どもたちが自己表現を楽しむ一方、新しい言葉や概念を自然に学ぶ場面が観察されました。このような活用は、従来の教育方法を補完し、個別化された学習体験を提供する可能性を秘めています。ただし、AIに過剰に依存することで、対人関係を通じた学びの機会が減少するリスクも考慮する必要があります。今後の教育や育児方法の変化は気になるところです。今の学生が保護者世代になる頃には無視できない時事問題になっていると思います。
成功事例と課題
教育現場では、生成AIを活用した学習法の導入が進んでいます。たとえば、AIが生成した仮想シナリオを基にグループディスカッションを行うことで、学生同士が多角的な視点を共有し、批判的思考と創造性を養う事例が挙げられます。このような活動は、学習の質を向上させる一方で、AIに頼りすぎることによる課題も残ります。
効果的な教育への提案
生成AIを教育に活用する際、どのような取り組みが重要かとchatGPTに聞いたら、以下のような返答が来ました。
AIが生成した内容の誤りや偏りを指摘し、訂正する訓練を行う。
学生にAIが生成した文章を基に、独自の意見や視点を加える課題を提供する。
AIが提案する多様な視点を議論やグループワークに活用し、批判的思考を育む。
これらの方法により、学生がAIをただの便利な道具としてではなく、学びを深めるための補助として活用する姿勢を育てることができるようです。
しかし現在の教育現場でAIを導入している事例はまだ多くはありません。私が教育実習で訪れた母校で実施したChatGPTの使用状況に関するアンケートでは、日常的に利用していると答えた生徒は全体の2%にとどまりました。この結果は、学校が生成AIの活用法について生徒や教師に向けた周知を十分に行っていない方針の反映とも言えるでしょう。私は特に中高生が生成AIを適切に活用するスキルを身につけることで、学びの幅を広げてほしいと強く感じています。私は、主体的な学びへの移行を実感する時期である中高生にこそ活用方法を学んでほしいと思っています。ちなみに、教育学でよく言われる「主体的で対話的な深い学び」は、果たしてAIは実現できるのか気になるところです。
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おわりに
生成AIは、私たちの言語化能力や思考力に確実に影響を与えています。私自身、AIを使う中で効率性の向上を感じる一方で、「自分の考えはどこまで反映されているのだろう」という疑問を抱くこともあります。その影響を正しく理解し、適切に向き合うことで、AIの最大限の力が発揮されるのではないでしょうか。AIは私たちの能力を補完する存在であり、情報を整理し、新しい視点を引き出す手助けをしてくれます。
教育現場では、生成AIを活用しながらも、生徒・学生が自ら考え、表現する力を育む環境を整えることが求められます。AIとの共存を通じて、より深い学びを実現できる未来を目指すべきです。