オールアバウトにおけるスタートアップ投資と活動方針、注目の投資領域 | KEPPLE DB活用セミナー
こんにちは!ケップルのPR担当、冨田です。
私たちケップルは、スタートアップエコシステムの発展に貢献するため、投資家や起業家のみなさまをサポートするためのさまざまなプロダクト・サービスを提供しています。
投資家の方々の支援を行う中で、投資活動における新たな企業の発掘、最新情報やトレンドのキャッチアップ、事業部との連携に関するお悩みをご相談いただくことが増えてまいりました。
そこで、ケップルのスタートアップデータベース「KEPPLE DB」をご活用いただいている株式会社オールアバウトの加藤氏をお招きし、「オールアバウトにおけるスタートアップ投資と活動方針、注目の投資領域 |KEPPLE DB活用セミナー」と題して、5月にウェビナーを開催しました。今回は、そのレポートをお届けします。
オールアバウトの取り組みやスタートアップ投資開始の背景などに加えて、KEPPLE DBを実際どのようにご利用いただいているかについてもお伺いしました。投資活動の進め方についても理解を深めていただける内容となっておりますので、ぜひご覧ください。
ビジョンマッチを軸にした戦略投資
ー オールアバウト様の取り組みと活動方針についてお聞かせください
加藤氏:当社は、生活者が「不安なく、賢く、自分らしく」生きていくことを支援するというビジョンを掲げ、ウェブメディアを中心としたtoB向けの広告・マーケティング事業と、Eコマースを中心としたtoC向け事業の2本柱でビジネスを推進しています。
2001年にスタートした「AllAbout」は、約900名の専門家による総合生活情報サイトです。また、お得にお試し買いができる「サンプル百貨店」というEコマース事業も運営しています。
そして、事業成長および企業価値向上を達成するために、戦略投資は必要だという方針のもと、自社の新規事業開発と並んでスタートアップ投資を行っています。
私が担当しているのが、スタートアップへの出資・育成を通じてファイナンシャルリターンを狙う投資事業です。人生100年時代をよりよく生きるための基盤になる「ヘルスケア」「マネー」「キャリア」「ホーム」の4つの領域で、オールアバウトのビジョンとマッチするスタートアップ企業へ出資しています。2018年から少しずつ投資を進め、現在の投資実績はこのようになっています。
ー スタートアップへの出資事例についてお聞かせください
加藤氏:3つの出資先企業をご紹介します。
▼株式会社ネクイノ
こちらはオンラインでピルの処方をしている「スマルナ」というサービスを展開している企業です。PMSなど女性特有の健康課題に向き合って、より自分らしく活躍できる機会を作り出されています。なぜか日本のピルの利用率は海外と比較して非常に低いことから、将来的に国内市場が振興する可能性が高いと考えて出資をさせていただきました。
▼matsuri technologies株式会社
民泊に関する事業を行う国内最大手の企業です。自社開発のソフトウェアによって、民泊で使う一泊の宿からマンスリーマンション、一般賃貸まで手がけるようになっています。検討を始めたのは2020年の夏頃で、コロナ禍真っ只中で意思決定をしました。実はオールアバウト自身がインバウンド向けの日本の情報サイトを運営しており、観光業は一時的に厳しいものの必ず復活し、さらに成長すると確信していたこともあり出資を決めました。最近では、不動産のクラウドファンディングで個人向けに1万円から小口投資機会の提供を始められ、個々の生活者に対して「マネー」の観点でも寄与する部分があると考えています。
▼株式会社シェアダイン
こちらは出張シェフサービスを運営されています。管理栄養士やレストランのシェフが自宅に来て、作り置きをしてくれたり、コース料理を提供してくれたりするサービスです。toCの個人宅へのサービスだけでなく、コロナ禍による人員削減の影響で人手不足の飲食店向けにもシェフを派遣するサービスを展開しています。生活者が便利というだけではなくて、シェフのスキルを活かして柔軟な働き方をしながら安定して収入を得られる、さらにそういったスキルを持った方々が活躍できるプラットフォームを目指されていることから、出資させていただきました。
対象のステージとしては、プロダクトローンチをしていてPMF(プロダクトマーケットフィット)をしているような段階のアーリーあたりのステージで出資をさせていただくことが多いです。
KEPPLE DBを情報収集・社内共有に活用
ー スタートアップへの出資の検討プロセスやKEPPLE DBの活用方法についてお聞かせください
加藤氏:ソーシングから投資の契約実行まで、大体下図のようなプロセスで進めています。ソーシングではこまめにピッチイベントに足を運んだり、LP出資しているファンドからのご紹介や、VC・CVCの知り合いの方からご紹介いただくことが多いです。
その情報をもとに事前調査して面談へと進んでいくのですが、事前調査の際にはKEPPLE DBで情報収集をしています。KEPPLE DBでは時価総額やステージ、既存の投資家にどういう方々が入られているのか、スタートアップのサイトからだけではわからないニュースなどが集約されているので、事前に確認し面談にのぞんでいます。事業概要や、バリエーション、ポスト評価額はどれくらいなのか、出資をさせていただいたときには持分はどれくらいでリターンはどれくらい、ということをざっと考えたりもしています。
そして、一次面談を踏まえたうえで、当社のメディア事業やコマース事業に関わる可能性がある場合は、KEPPLE DBからファイルを出力して、事業部門に情報共有しています。まとまった情報を簡単に共有できるのでとても都合がよいです。
また、ニュースが便利でよく見ています。テーマ別に企業を紹介する記事もアップされているので、例えば「メンタルヘルスケアサービスを提供するスタートアップ5選」といった記事などで、どんな会社があるのかをチェックしています。
自社アセットを活かした成長支援
ー 投資先のグロースサポートについてはどのような取り組みをされていますか?
加藤氏:目的はファイナンシャルリターンですが、やはり出資させていただいた後に、そのスタートアップの成長にどのように貢献できるかは気にしています。自社アセットでできることや我々が持っているネットワークを活用しながら貢献できることを考えています。当社はメディアとEコマースの会社なので、それらの領域での支援が強みです。
自社アセットですと、コンテンツマーケティングです。オーガニックのユーザー獲得について、SEOの観点を含めたコンテンツ制作や、SNS広告の運用などを支援させていただくことがあります。ほかには、我々が持っているわりと本格的な動画配信スタジオを利用いただいたりもしています。
ー どのくらいのペースで出資を行われていますか?また、年間での投資上限額を設定されていらっしゃるのでしょうか?
加藤氏:3ヶ月に1件くらいですね。2022年度は5社へ出資していて、毎年少しずつペースが上がってきています。投資額は年間2億から3億円程度を目安として考えています。現在は案件あたり5,000万円以下としており、年間5~6件ぐらいのイメージですね。ただ絶対に投資しなければいけないということではないので、ぜひ関わりをもたせていただきたいところがあれば進めるというような、柔軟な対応をしています。
成長市場での新たな収益機会の創出
ー スタートアップ投資を開始した背景について教えてください
加藤氏:よくある話だと思いますが、自社の既存事業以外にどうやって新しい収益機会を作っていくのかという課題がありました。ジョイントベンチャーや、M&Aのかたちをとることもありますが、自社の活動だけだとリソースやスピード感に制約もあります。成長市場で多くのスタートアップがチャレンジする環境になっていますので、自社で取り組むべきことは自社で活動し、自社でできないことについてはスタートアップへの出資を通して、新領域や新市場に関わっていきたいと考えています。
ー スタートアップ投資をはじめるにあたり、どのような取り組みをされましたか?
私は事業部門の出身なので、投資の経験がなく、最初はどういうものかまったくわかりませんでした。そこで、2019年に朝日メディアラボベンチャーズさんのスタートアップ向けのアクセラレーションプログラムにオブザーバーとして参加させていただき、どういうことをやっているのかを実際に体験をさせていただき、理解を深めました。
また、並行して投資事業の目的の整理も進めました。オープンイノベーションとして戦略リターンをメインでで行う場合もあると思いますが、当社の場合ですと、ファイナンシャルリターンにフォーカスしているので、EXITや自社でのM&Aなどがあると考え、「成長市場からのキャッシュフローの創出」を一番に掲げています。
ほかには、当社のデジタルマーケティングのアセットを使ってスタートアップのグロースサポート、成長市場についての情報収集や、新規事業開発のきっかけにならないか、というようなことを並べてみたりしました。目的からゴールまで、出資活動にあたり考慮すべき要素を並べて、足りないところを認識するという取り組みも行いました。
ー このような目的や要素の整理というのは、具体的にどのようにキャッチアップして進められたのでしょうか?
加藤氏:知り合ったVCやCVCの方々にお話を伺ったり、さまざまな書籍を読んで参考にしたりしました。投資やオープンイノベーションはどのように進めるのか、スタートアップとどう関わるのかなど、いろいろなイベントに行き名刺交換をしながら、都度話しを伺ってキャッチアップしていきました。壁にぶつかると、他社の方にアドバイスをもらって実際にやってみて、というのを繰り返して少しずつ進んできました。
ー スタートアップ投資を始めるにあたって、特に苦労されたことはありますか?
加藤氏:まず最初の壁は、社内でどのように決裁を通せばいいのかわからなかったことです。新規事業の企画を通した経験はありますが、投資の場合は自分たちが主体で事業を行うわけではないので、出資させていただくスタートアップがどうなっていくのか、それをどう説明して稟議を通せばよいのかというのが最初本当にわからなくて。最初の起案書をいま見てみると、よくこれで通したなと思います。
ー 振り返ると、こういった観点が抜けていたなど反省点はありますか?
加藤氏:スタートアップの事業計画は頻繁に変化していくものだと思うのですが、最初はそういうこともわからなくて、説明がうまくできなかったりしました。当社ですと四半期ごとに減損の検討が必要なのですが、監査法人とどのように対話するのかも全くわかっていなかったので、最初のころは、出資後のコミュニケーションでかなり苦労しました。今はそのあたりを意識しながら、起案の中に盛り込んでいくようにしています。
新たな市場への挑戦とよりよい投資戦略の探求
ー 今後の投資活動として、チャレンジしていきたいことはありますか?
加藤氏:現在はBSからの直接投資なので、規模や件数も限られているのですが、最適な出資形態や、どういうチームで、どのようなところに出資していくかも含めて、当社なりの投資スタイルを模索しながら進めていきたいと思っています。また、当社がフォーカスする四つの投資領域は自社の事業でも根幹にあたりますので、この軸はぶらさずに、その中でどのように幅を広げていけるかを考えて実践して行くことが重要です。
そして、単に便利なサービスにとどまらないで、もう一段踏み込んで業界構造を変えていく、市場自体を振興していける可能性がある企業を探っていきます。当社も元々スタートアップとして始まった会社なので、常に新しい市場にチャレンジしていく姿勢は失わず、今後もいろいろな関わりを作りながら、よりよいかたちで進めていければと思います。
-加藤さん、本日はお時間いただきありがとうございました!