【コラム】外国にルーツを持つ子どもへ“も”視線を~こども大綱の策定に向けて~
最近、「外国にルーツを持つ子ども」について調べる機会があり、「そういえば、日本での取り扱いって、どうなっているんだろう?」と疑問を持ちました。2023年4月に「こども家庭庁」ができてからどんな議論がされているんだろうでしょうか? あまり議論を追っていなかったので、改めて調べてみると、9月25日に、「こども大綱策定に向けた中間整理」という記事を見つけました。大綱って何でしょうか? 教育に関して素人ではありますが、自分なりにまとめてみました。
「外国にルーツを持つ」って?
「外国にルーツを持つ」とは、どういうことでしょうか? 外国籍、ということではないのでしょうか?
省庁の資料などを見ると、「海外にルーツを持つ」とか「日本語指導が必要な」とか、様々な定義がありますが、外国にルーツのある子どもの支援で有名なNPO法人青少年自立援助センターの「YSCグローバル・スクール」によると、
と定義されています。外国籍であるのみならず、保護者のどちらかが外国出身者であり、日本国籍も選択できる子どもや、海外から帰国し、日本語が話せない日本国籍の子どもなど、様々なルーツを持つ子どもがいます。つまり、これらの背景を持つ子どもたちを「外国にルーツを持つ子ども」や「外国にルーツがある子ども」などと呼んでいます。
余談ですが、「外国にルーツのある子ども」の日本政府としての定義を探したのですが、省庁ごとに言い方がまちまちです。これについても、こども家庭庁で整理してくれたらな、と思います。
さらなる余談ですが、ジェンダー的な視点から「帰国子女」って表現を避けた方がいいのですね。こちらは注意せねば。
こどもに関する国際的な取り決めとは?
では、国際的には子どもに関してどのような取り決めがされているのでしょうか? それは、「児童の権利に関する条約」です。1989年11月の国連総会において採択。日本は1990年9月にこの条約に署名し、1994年4月22日に批准を行っています。
この中では、児童の定義について
と規定し、第2条では、
と定めています。そのため、児童の権利に関する条約に関しては、「国籍や出身にかかわらず、すべての子どもの権利を守る」と定められているのです。もちろん、外国にルーツを持つ子どももその対象となっていることは明白です。
こども基本法で消えた「外国」の言葉
では、日本では外国にルーツを持つ子どもの就学はどのように定義しているのでしょうか?
文科省の「外国人の子等の就学に関する手続について」のページでは、
と定義しています。
そして、こども家庭庁の発足に合わせ、日本国憲法および児童の権利に関する条約の精神にのっとってつくられたのが、「こども基本法」です。2022年6月に成立し、2023年4月に施行されました。
ただ、この基本法の条文を読んでみて、「外国」という用語がない! 第3条の1項で
とは定義されているので、児童の権利に関する条約の精神にのっとっているのであれば、「全てのこども=外国にルーツを持つ子どもも含む」と解釈していいとは思うのですが。
基本法の「方針」である大綱には明記
ただ、今回の「こども大綱」の中間整理を見て、一安心しました。
大綱とは、「目標や施策の根本となる方針を定めるもの」です。こども基本法第2章「基本的施策」の第9条でも、
とうたっています。
「外国にルーツを持つ子ども」関係では、中間整理の中で、
などと言及されておりました。安心しました。
こども基本法の”名誉”のために言うと、貧困や障害、虐待、いじめなどの課題についても、基本法の条文にはなく、この大綱でより詳しく言及されておりました。
そのため、私たち「現場」で活動する人間としては、こども大綱の方針こそ、かなり重要になってきそうです。
ぜひとも温かい視線を
子どもの教育をめぐる課題では、私も多くの外国にルーツを持つ子どもの課題を見てきました。
例えば、ある国出身で小学生の時に来日した子どもは、中学卒業までに十分な日常会話ができるほど、日本語を習得しました。一方で、なかなか学習で使う日本語が上達せず、第一志望の公立高校の入試には落ちてしまいました。今は元気に別の学校に通っていますが、生活言語の日本語は1~2年で習得するのに対し、学習言語(その言語を通じて強化学習ができる言語)としての日本語習得には5年かかると言われています。かなり入試勉強を頑張っていたのを見ていただけに、外国にルーツを持つ子どもが志望する学校に行けるには、まだまだハードルが高いと思いました。
そのほか、ある国出身の幼児は、家ではたくさんおしゃべりをするものの、幼稚園ではあまり会話をしないそうです。母親によると「なぜ自分の話す言葉(外国語)を理解してくれないの?」と、まだ理解できていない様子だそう。家庭では母語で話すため、彼女は今後、日本語を習得できるのか。その環境は、周囲がつくってあげるべきでしょう。
一方で、大学時代の留学生の友人の子どもは、生まれながらに、海外出身の母親の母語を聞いて、家庭で話す日本語で回答するなど、生まれながらのバイリンガル。うらやましい限りです。日本で結婚した同じ国出身の夫婦は、「これから日本で生きていってほしい」と、子どもには日本語で話しかけるように心がけているといいます。2つ以上の国の背景を持った「多文化人材」は、さらなるグローバル社会において、必ず活躍するでしょう。
もちろん、貧困や障害など、子どもをめぐって多くの課題があります。そんな中、ぜひ外国にルーツを持つ子ども”も”、温かい視線を注いでいただければ幸いです。
こども大綱については、こども家庭庁で意見募集をされています。年内には大綱をまとめられるそう。もしご意見を寄せたい方は、公開されている以下の連絡先を紹介します。
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