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なぜタイは「パートナー」なのか 日本以上のスピードで進む少子高齢化

 8月25日~31日の日程で、個人事業「人とヒトの幸せ開発研究所」として初の事業として、タイ出張に行ってきました。私にとって、タイという国は、「支援する国」というよりも、一緒に事業をしていく「パートナー」です。なぜ、一緒に事業をしたいと思うのか。タイにおけるデータなどをもとに解説します。

ドンムアン空港を飛び立った飛行機から見るバンコクの夜景=8月31日

人口の成長を続ける国。ところが・・・

 世界銀行のデータによると、タイは1960年には2659万6584人だった人口は、毎年増加を続け、2023年には7180万1279人と、約2.7倍に増えています。

タイの総人口。2029年にピークの7207万1120人に達するとみられる=世界銀行データより作成

 人口の増加の背景にあるものとしては、経済発展があると思われます。その理由として、

1980~1990年代に日本を含む国外からの支援や民間投資を積極的に活用してきたタイでは、工業国を目指した国造りが成功し、多くの日系企業も活動するようになった。今では自動車産業と電気電子産業を中心に、必要な部品や資材を供給する裾野産業が広がり、製品の組み立てから販売、輸出まで一貫して行う体制ができている。

JICA「ともに開発を。貢献の道を進む タイ」

という分析がされています。2011年には、「中進国」※になっています。
※中進国=発展途上国よりも所得が多いが、先進国よりは少ない国々の総称です。一人当たり国内総生産(GDP)または一人当たり国民総所得(GNI)の水準を基に区分されることが多く、世界銀行では一人当たりGNIが約1000~1万3000米ドル弱を中進国(中所得国)と定義しています(野村証券証券用語解説集参照)。

バンコクの高層ビル街。その威容は、東京よりも発展しているのでは、とも思える=8月28日

 確実に経済発展を続けてきたタイ。しかし、今、大きな社会問題がタイにも忍び寄ってきています。

 それは少子高齢化です。

日本以上に鋭い角度で進むタイの高齢化

 先ほどの総人口でもわかるように、経済発展により人口増を続けてきたタイは2030年以降、人口減に転じます。実は、少子高齢化は日本だけの問題ではなく、タイでも社会問題となることが予想されています。しかも、その角度は、日本よりも鋭く上昇しているのです

日本以上のスピードで進むタイの少子高齢化=世界銀行データより作成

 人口に占める65歳以上の人口比率を、高齢化率といいます。WHO(世界保健機関)や国連の定義では、7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢化社会」と呼ばれます。

 日本は、1970年には高齢化率が7%を超え、高齢化社会に突入しました。その後、高齢化社会は24年後の1994年、超高齢社会はさらに13年後の2007年に突入します。日本の高齢化率は2022年時点で29.92%と、世界有数(1位はモナコの35.92%)の超高齢社会といえます。

 一方、タイは高齢化率が7%を超えたのは2004年と、日本より34年遅いものの、14%を超えたのは2021年と、日本よりも早い17年で倍の数字に到達しているのです。その9年後の2030年には21%を超えると予測されており、「日本よりも鋭い角度で進むタイの高齢化率」といえるのです。

ASEANでも出生率の低い国

 この背景には、「タイの出生率の低さ」にあります。

ASEAN10か国の出生率の推移。シンガポールに次いで1990年代に2を切るのが分かる
世界銀行データより作成

 ASEAN(東南アジア諸国連合)10か国では、世界銀行で統計のある1960年代は、女性一人当たりの子どもの数が5人を超えていました。途上国では、「子ども=労働力」と考え、女性は子どもをたくさん産むことが求められてきました。14歳未満の子どもが働く「児童労働」などが進み、義務教育を受けられない子どもが拡大しました。これらの児童労働の背景には、貧困や風習(『女性は教育を受けずに早く子どもを産むべき』など)、紛争や自然災害などがあります。

 ASEANの中では、1965年にマレーシアから独立したシンガポールが、外資企業の誘致などを背景に経済発展。1977年には出生率が1.82と2を切ります。

 一方、タイは1993年に出生率が1.98と、2を切りました。前述のように、工業国を目指した国造りが奏功したタイでは、女性の社会進出が一気に進行しました。それまでは女性は農村部で「子どもを産み育てるのが仕事」(ジェンダー的にとても古臭い表現であることは十二分に承知していますが・・・)だったのが、「社会進出して経済的な豊かさを求める」ようになったのです。これにより、それまでは10代でも結婚・出産していたのが、晩婚化が一気に進行。医療の進化もあり、世界銀行によると、1960年には51歳だったタイの平均寿命は、1988年に70歳を超え、2021年には79歳まで上がっています。

多くの若者がバンコクへ 残された農村

 この少子高齢化がさらに招いた事象は何か。それは、首都バンコクと農村部の格差です。多くの若者が仕事を求めて首都バンコクへ移動した一方、農村部で暮らす若者の人数は減少しています。

1960年代には80%を超えていた農村部の人口比率は、2050年には30%まで下がる
世界銀行データより作成
タイ東北部の高校で話をする筆者=2019年

 1960年代は80%を超えていた農村部で暮らす人口は、世界銀行のデータでは、2019年には50%を切り、2023年の予測は46.392%。2033年には40%を切り(39.656%)、2050年には30.537%まで下がると予想されています。

 若者は、都市部で働くことができる人材と、農村部から貧困により出られない人材の格差がさらに拡大することが予想されます。

人材の交流、技術の交流の還流をつくる

 地球市民の会という、1980年代後半から、「貧困の解決」という目的でNGO活動をしてきた組織で働いていた私としては、引き続き、「都市部と農村の格差是正」に取り組みたいと考えています。

 一つは、「日本で留学・就労できる人材を増やすこと」です。タイでは、「一日」の最低賃金が353バーツ(2023年9月現在、1バーツは約4.1円)。中進国とはいえ、まだまだ地方では低い賃金で働かざるを得ない人が多くいます。その人たちが、日本語と日本の技術を得るためのルートをつくりたい。まだ詳しくは言えませんが、2023年8月のタイ渡航は、そのための仕組みづくりのためのものでした。

 一方で、2022年11月に公表された、法務省の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の中間報告では、日本で就労した外国人が、帰国後にその技術を生かせていない、つまりは、「技能実習制度の本来の目的=技術移転による国際貢献」という制度の目的が果たせず、つまりは「日本の人口減による人手不足の解消」のためばかりが注目されているのが、今の外国人就労施策なのです。

人材育成の中には、身に付けた能力を母国に戻ってその国の開発に生かすという意味での人材育成と、本人の能力を高めて、それが日本の企業にとっても戦力となるという意味での人材育成と二つの意味がある。外国人技能実習機構の帰国後技能実習生フォローアップ調査では、回答者の40%が帰国後に就業していて、そのうちの60%が技能実習と同一・同種の仕事であり、40%×60%で20%程度しか技能実習に関係する仕事に就いていないという回答である。国際貢献だけを技能実習制度の目的に位置付けるとするには無理がある。

法務省「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」中間報告

 人とヒトの幸せ開発研究所のビジョンとしては、外国人が日本で活躍できる社会をつくること。人口減による人手不足の「駒」としか外国人を見るのではなく、その個性を生かした活躍の場をつくることが、私がやりたい事業です。

 タイは、日本で介護などの技術を身に着けた人が、将来帰国して、その技術を生かす場をつくりやすいと考えています。タイにおける在留日本人は78,431人(外務省、2022年10月)。日本語や日本の技術を身に着けたタイ人材が帰国した後も活躍できる、還流を生むことができると考えています。だからこそ「パートナー」なのです。

 このビジョンに共感し、さらには外国人の雇用に関心のある方は、ぜひご連絡いただけたらと思います。

山路健造(やまじ・けんぞう)
1984年、大分市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。西日本新聞社で7年間、記者職として九州の国際交流、国際協力、多文化共生の現場などを取材。新聞社を退職し、JICA青年海外協力隊でフィリピンへ派遣。自らも海外で「外国人」を経験した経験から多文化共生に関心を持つ。
帰国後、認定NPO法人地球市民の会入職し、奨学金事業を担当したほか、国内の外国人支援のための「地球市民共生事業」を立ち上げた。
2018年1月にタイ人グループ「サワディー佐賀」を設立し、代表に。タイをキーワードにしたまちづくりや多言語の災害情報発信が評価され、2021年1月、総務省ふるさとづくり大賞(団体表彰)受賞した。
22年2月に始まったウクライナ侵攻では、佐賀県の避難民支援の官民連携組織「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」で事務局を担当。
2023年6月より、地球市民の会を退職。同8月より、個人事業「人とヒトの幸せ開発研究所」を立ち上げ、多文化共生やNPOマネジメントサポートなどに携わる。

サポートをお願いします! ウクライナ避難民の定住化や、終戦後に向けた復興、外国人材受け入れの生活環境整備など、基金として活用させていただきます。