紙のみぞ知る #秋ピリカ応募
「紙には神がやどるんよ」
そう言いながら、おばあちゃんはきれいな和紙を何枚も使い、折り紙のくす玉を作っていた。
「神様?」
「そう。昔は想いを込めて折り紙を作り、大切な人に渡したもんさ」
大切な人…。
亡くなったおじいちゃん?
それとも別の人?
「アミは百人一首をやっているの?」
おばあちゃんの言葉にアミは我に返った。
「うん。高校でかるた部に入ったの」
「そりゃすごい。誰の歌が好きかい?」
「菅原道真かなぁ。『神のまにまに』ってところが好きなんだ」
「『神様の思いのままに』か。私も今そんな気持ちだよ…」
微笑みながら、おばあちゃんは手元にある紙をつかむ。
「おばあちゃんが好きな歌は?」
「これさ」
おばあちゃんはその紙を裏返した。
ひらがなで「せ」の字が書いてある。
「どういうこと?」
それには答えず、おばあちゃんは「神のまにまに」と言いながら、紙をくす玉の中に折り込んだ。
◇
「山下…どうしてここに……」
聞き覚えのある声に、アミは顔を上げた。
目の前に中学の同級生、高山コウが戸惑ったように立っている。
告別式の受付は、参列者であふれていた。
「亡くなったの私の祖母だから…あ、預かるよ」
コウは慌ててアミに香典を渡す。
香典の名前が「高山」ではなく、「薬丸」になっていることにアミは気づいた。
告別式が終わり、アミがロビーで休んでいるとコウがやってきた。
「びっくりした。じいちゃんの代わりに来たら、山下のおばあちゃんの葬儀だったなんて」
「薬丸さん、来れなかったんだね」
「ずっと入院してて…あれ、山下はじいちゃん知ってるの?」
「亡くなったときに知らせる人のリストを、おばあちゃんが準備してて…その中に名前があったの」
アミはおばあちゃんが、くす玉を作っていたことを話した。
「もしかして想いを伝えたい人かなって。くす玉の『くす』は元々『薬』のことで、玉は丸いでしょ。だから…」
「『薬丸』か!」
◇
おばあちゃんの部屋の机の中に、くす玉は残されていた。
32枚の折り紙で作られていて、開くと全てにひらがなが書いてあった。
32文字。一字多いけど短歌かな…?
アミは「せ」の紙を手に取る。
百人一首で「せ」から始まる歌は一つ…。
◇
「今は別れていても、いつかは再会しようって想いの歌なの」
「亡くなったあとに一緒になろうってこと…?」
本当にそうだろうか?
もしかして、自分たちは一緒になれなくても、後の世代で一緒にと…いや、まさか…。
アミはコウをじっと見た。
コウはなぜか少し顔を赤らめていたが、唐突に、
「また会えるかな…」と小さな声で言った。
「え?」
「あ、いや…ほら、中学以来話してなかったから…今日は落ち着いて話できないし…また時間とれないかな…」
「あ…うん」
アミは自分の顔も赤くなっていくのを感じた。
俯きながら、アミはただ「紙のまにまに」と心の中で唱えていた。
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