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オスマン帝国とインカ帝国の比較

ごきげんよう。

オスマン帝国とインカ帝国の比較点は5つある。

1つ目は文字である。オスマン帝国は多宗教・多民族国家であることから、多言語・多文字社会だったと推測できる。現に多くの史料が残っており、特に「新聞史料」は有名で、1725年にはアラビア語、ラテン語、スペイン語、ギリシア語など、多言語版も刊行されていたことが分かっている。一方、インカ帝国は文字がない国家だが、文字の代わりに「キープ」というリャマの毛で作られた紐に、何本かの細紐を結び付け、道路網を完備して、統治する各地の情報を一手に首都に集め、人口を十進法で区分し、その動態を把握するとともに、各地の首長を通じ、軍事的目的や生産のためにそれを容易に動員できるシステムをつくった。よって、文字が充実している国家と文字が全くない国家でも、同じ帝国として機能していたということが考えられる。

2つ目は政治体制である。オスマン帝国は「立憲君主制」→「絶対君主制」→「二重君主制」へと支配者が変わる度に政治体制が変化していくのが特徴でイスラーム法に基づく政治を行い、州・県・郡にわかれる整然とした行政機構を整えた。一方、インカ帝国は皇帝による絶対的権力を持った「専制君主制」の支配が行われ、スペイン人の記録によると、「中央集権国家のようになっていた」とあり、4つの州を治めていた「アポクーナ」があったと言われている。よって、オスマン帝国は地方分権制の国家で、インカ帝国は中央集権国家であったと考えられる。

3つ目は軍事制度である。オスマン帝国は地方の騎士に徴税権を授与し、従軍の義務を課す「ティマール制」とバルカン半島のキリスト教徒から若者を強制徴用し、ムスリムに改宗させ、教育・訓練をし、その中で優秀な者は宮廷で養育させ、地方の軍隊司令官から中央の兵団長、大宰相へと出世していく「デヴシルメ」という人材登用制度を用いて、火器で武装した歩兵集団である「イェニチェリ」を形成した。一方、インカ帝国では詳しいことは分かっていないが、これといった軍事制度がなく、戦争を行う時のみ、農民を集めて軍隊を編成していたと言われている。よって、独自の軍事制度を持っていたオスマン帝国が近代まで長く続いて、それを持っていなかったインカ帝国が近世で滅ぼされてしまった原因を推測することができる。

4つ目は官僚制度である。オスマン帝国は「文書行政組織」において、業務ごとに「カレム」と呼ばれるいくつもの部局が配され、広大な帝国の行政と財務を管理運営した。17世紀以降大きく発展していく官僚制は、ムスリム諸王朝のなかでは群を抜く数の公文書史料を現在に伝えている。こうして、「軍人の帝国」から「官僚の帝国」へと変貌を遂げてゆくのだ。一方、インカ帝国は「キープ・カマヨック」と呼ばれる国家統計を司る役人で、キープを操作して、住民数の増減、食庫の物資の出し入れ、家畜の数などを正確に記録した。よって、オスマン帝国とインカ帝国には官僚制度の中でも特に「記録」」という面においては、共通点があると考えられる。オスマン帝国は「文字」、インカ帝国は「キープ」と記録するのに使う手段が異なっているものの、「記録」をしたという事実が残っており、文字がある国家、文字がない国家、関係なく「記録」という概念があったということが分かる。

5つ目は経済である。オスマン帝国は、17世紀に保護貿易主義(重商主義)政策はとらず、ヨーロッパ諸国とは異なる原理で経済の舵取りをしていた。原則的には国内での需要に対する安定した供給を最優先し、そのためには安価な外国産品の輸入は認め、国内需要を犠牲にしての原料産品や食糧の輸出には高率の関税を課した。人口増の結果、都市の数が増え、各地で市場向けの農産物の栽培が行われた。また農業・牧畜産品を原料にする手工業も各地で発展した。それらは、地方郡市の商人たちによって取引され、国内市場を結んだネットワークをかたちづくった。こうした農業後背地を擁する都市間のネットワークは、イスタンブルへの食糧供給を目的とした官制のネットワークとともに、帝国内の経済的統一性を保証する役割をはたした。国内市場の成長の結果、国内ネットワークが優位にたち、ヨーロッパの資本主義の影響を受けなかった。一方、インカ帝国は貨幣を持たず、市場や商業をもたなかった。財産の基本は「労働力」であり、租税として自分の収穫したものから貢納することを強制されず、税とは、王と国のためになされる労務、技術の提供であるとされた。よって、経済の対象がオスマン帝国では「市場」で、インカ帝国では「労働力」であるということが考えられる。
 
このように、オスマン帝国とインカ帝国を比較してみて、共通点や相違点をみつけることができた。私はアーカイブズを専攻しているので、オスマン帝国の「公文書史料」やインカ帝国の「キープ」について、詳しく調べてみようと思う。

(参考文献)
・小笠原弘幸『オスマン帝国~繁栄と衰亡の600年史~』中公新書、2019年
・高野潤『インカ帝国―大街道を行く』中公新書、2013年
・シエサ・デ・レオン(訳)増田義郎『インカ帝国史』岩波書店、2006年
・林佳世子『オスマン帝国の時代』山川出版社、1997年
・カルメン・ベルナン(訳)阪田由美子『インカ帝国―太陽と黄金の民族』創元社、1991年
・フランクリン・ピース、増田義郎『図説インカ帝国』小学館、1990年

本日も最後までお付き合い頂き、誠にありがとう。

ごきげんよう。

さようなら。

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