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[ちょっとしたエッセイとおしらせ] 夏は嫌いだったけど

 夏も本番を迎えて、なんだかじっくりと煮込まれる鍋にいるような感覚を覚える。今年も暑いな、そんなことを毎年言っているような気がするけど、実際はどうなんだろう。よくわからない。けれども、なんとなく夏を過ごしていると「ああ、生きてるな」っていう得体の知れない生命の本音のようなものが体に流れてくるから不思議だ。暑すぎて、何にもしなくても、暑さから命を守る生物の本能的なものなのかもしれない。仕事をしていても、頭はスッキリしないし、効率も悪い、だから先述のような言い訳を自分にしながら今日もなんとか生きている。
 今でこそ特に気にもせずに生きているが、幼い頃は「夏」が嫌いだった。半袖、半ズボンの装いになる夏は、素肌の露出が多くなる。僕が過ごした昭和の終わりは、今の子どもたちのように、自由に暑さ対策で長袖や長ズボンを着る習慣もなく、男の子は半ズボン、女の子はスカートみたいな見えないルールがあった。しかも、膝上まであるハーフパンツみたいなものもなかったので、男の子はみんな股下5センチくらいの、ホットパンツみたいな半ズボンを履いていた。

「あら、あなたかわいいところにホクロがあるのね」
 そう言ったのは、小学1年の時の担任の先生だった。僕の右足の太ももの中央付近に、1センチ強のホクロがあった。半ズボンの布地に守られることなく顔を出すホクロに対して、その先生のひと言をきっかけに、急にはずかしさと恐れを抱くようになった。
 それ以来、太もものホクロに対して異様な敵意を持って過ごした。ある日の授業中、あまりにホクロの存在が嫌で、筆箱から鉛筆を取り出して、なんとかホクロが取れないかと、鉛筆の先でチクチク刺していたことがあった。それを見た隣の女の子が先生に、「ケンヨウ君が足に鉛筆刺してます」と手を挙げて言ってしまった。その場で、先生になぜそんなことをするのかと問われたが、僕は何も言えずに黙っていた。すると、他の子が「先生、ケンヨウ君の足のホクロから血が出ています」と、さらに追い詰めてきた。それを見た当時の担任は、「鉛筆でホクロ取ろうとしてたのか? そりゃ無理だ。ホクロは木みたいに根っこ張ってるから、取ったら血が溢れて死ぬぞ」と、笑いながら言われ、クラス中が笑いの渦となった。その時の恥ずかしさは忘れられないが、その後誰かにホクロのことについてからかわれるようなことがあったかと言えば、そういう出来事はなかった。
 いつしか年も重ね、気がつけばあの頃のような短パンを履くこともなくなり、敢えて選ぶようなことがなければ、短パンもハーフパンツのような丈の長いものにとって変わっていった。ホクロの存在は相変わらず目立つが、誰かの目に留まるようなこともないし、見られたからと言って、何か言われるようなこともなくなったし、仮に言われても、愛想よく笑って去なすくらいの器量も備わった。
 結局のところ、コンプレックスとは自分を鏡で見ているようなもので、自分以外は特に気にも留めないような事柄がほとんどだ(もちろんそうでない場合もあるが)。でも、そのきっかけになるような言葉がどこかにあるのも事実なので、大人になった今、若い人に対してその人のアイデンティティーに関わることなんかをむやみに言ってはならないなと、改めて思う日々である。

 気がつけば、季節は夏を迎え、以前書いた[ちょっとしたエッセイとおしらせ]一寸先にある未来
から半年が経とうとしている。当初は、春あたりを目指していたのに、相変わらずの性格なもので、だらだら今の今になってしまいました(反省)。ということで、ようやくZINEとしての1冊が出来上がりました。お金もないし、やったこともないし、ただやってみたいという気持ちだけでなんとかここまできましたが、残念ながらここがスタートライン。売る自信もないのですが、出来上がってしまったので、まずはおしらせいたします。

タイトル:避雷針
判型:B6サイズ
ページ数:96ページ(表紙含め100ページ)

タイトルは『避雷針』

 40代も半ばとなり、自分の言葉を本にしようとは思いもしませんでしたが、さまざまな人たちが自分で本を作る姿を見て、自分もやってみたいという気持ちがあふれてきました。だから、これまでの淡々と過ごしてきた日常の中に、自分自身に対する波風を立てる意味で、この冊子を作りました。
 何にもない人生だなと思ってきた自分の中にも、 これまでエッセイ的なものをnoteで書いてきたものを読み返すと、実は小さな運命的な出来事が散らばっていることにおどろきました。きっと、ここまで雷に打たれないで生きてこられたのも、これらの出来事が、避雷針のように守ってくれたからかもしれません。内容としては、エッセイ17編、自分で撮った写真に短歌を添えました。文庫本より、ちょっと大きいB6サイズ。DTPとデザインは、DIY(一応分けるために、「studio NEIN」という別名義)。

中身のイメージその1
所々に写真を入れて、短歌を添えました。

 どうやって販売するとかは、これからの課題なのですが、もう少ししたらネットでの販売を中心にやっていこうかと思います(値段すらまだ決まってません…)。勇気があればイベントなどに出展したり、書店への営業もしたいなと思います…。
 あと、今回つくった冊子は、持ち運ぶにはよいサイズなのですが、どうしてもバッグなどに入れたりすると角が折れたり、紙に加工はしていないので、汚れたりするのではないかと思い、ブックカバーを作りました。販売する際には、ブックカバーをして、お送りもしくはお渡ししようと考えています。また、しおりもつくったので、ぜひ活用してもらえればうれしいです。
 また今後については、追ってお知らせいたしますので、よろしくお願いします。ご興味のある方やご質問のある方は、ぜひコメントやSNSなどを通じておしらせください。

クラフト紙のブックカバー
カバーをした感じ
しおりはこんな感じ。表は夕焼け空、裏は、ウィリアムモリスの言葉を添えて。
“The true secret of happiness lies in taking a genuine interest in all the details of daily life.”

(幸せは、日常生活の些細なことにも興味を持つことから生まれる)

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