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映画 BLUE GIANT と漫画最新9巻を続けて読んだら涙が止まらない


NETFLIXで3/9配信開始を知ってから楽しみに待っていたBLUE GIANT。
漫画のシリーズ全部持っているけど、やっぱり人物伝は草創期というか、何者でもない自分と向き合う時期が一番エモーショナルだ。
だから、第1期の3人組のJASSの物語は観る人全ての共感を呼ぶし、心を激しく揺さぶってくる。そう、まるでJAZZの熱く激しい魂のように。
以下ネタバレや内容について触れているので、まだ観てない人はぜひ映画版を観て、そのすぐ後に漫画最新9巻を読んでください。(途中も何もかもすっ飛ばして)

世界一のJAZZプレイヤーになると決めている主人公の宮本大。
冒頭、雪の中サックスを吹く彼の後ろを一匹の猫がただ真っ直ぐと歩いていく。
大はつぶやく
 真っ直ぐ前だけ向いて、
 行かなきゃいけないんだな、
 お前は・・・・・・
大はそこから真っ直ぐに世界一への道を歩くことを決めている。映画は大の物語ではない。大は迷わずただ真っ直ぐ歩き続けるだけだ。だからこの映画は玉田とユキノリの成長物語だ。特に優等生だったユキノリこそがこの映画の隠れた主役だ。

ユキノリは子供の頃からピアノをやり始め、大学でもJAZZ仲間にもその腕を認められているピアノマン。
外見もクールでプレイスタイルも正確でテクニックも素晴らしい、およそ非の打ちどころがないプレイヤーである。
そんなユキノリが大のサックスを初めて聴くシーンがある。寂れた小さなJAZZバーでバンドを組まないかと誘ってきた大の演奏を聞き、ユキノリは涙を流し、呟く。
 どんだけプレイしてきたんだ、と。
それまではたった3年しか経験のない大のことを下に見ていた彼が、年数ではなくその情熱に、それこそ雪の日も毎日河原で吹いてきたことを思い起こさせるような全てが詰まった大のプレイに打ちのめされ、心揺さぶられる。

作者は二人をうまく対比させている。
 迷わず愚直なまでに歩き続ける大。
 迷わないように規則通りにプレイをすることをよしとするユキノリ。
ただ、ユキノリは自分の矛盾に気づいていない。オールドジャズを否定しながら、枠組みの中でプレイし続けている自分を。
だから、日本一のJAZZ CLUBの支配人にそれを見破られ、その傲慢さ、臆病さを叱られたことで、自分の中の一番柔らかい弱い部分に気がついてしまう。臆病だから傲慢になり不遜な態度を取らざるを得ないのだ。
人はなんで努力や、何かに向かう人を嘲笑うんだろう?きっと世の中は厳しくて、そんなものを見せていてはピアノを続けられない。だから勝たなきゃいけない。勝ち続けなければいけない。ユキノリは心に蓋をすることで、自分もまた他人を嘲笑うような態度を取るようになる。
身につまされる話である・・・

だからユキノリが自分の殻を打ち破る時のピアノのソロプレイのカタルシスがたまらない。これほど分かりやすく音楽と映像がユキノリの過去と感情とシンクロさせてくれるのかと感動を覚える。
スマートで格好良く、腕も立つイケメンが、それまでずっと隠していたありのままの自分。ずっとピアノのことだけを考え、血が滲むような練習をし、ピアノを続けるためにバイトを何個も掛け持ちし、古びたアパートで来る日も来る日もピアノに向かう。
格好悪くてもピアノが好き。プレイしていたい。ユキノリは立ち上がり、感情を爆発させるようにプレイする。

そして、ユキノリは子供の頃からの憧れの舞台、日本一のJAZZ CLUB「SO BLUE」に大と玉田という仲間と共に出演することになる。
漫画で読んだ時から衝撃だったが、結果ユキノリは居眠り運転のトラックに轢かれ、右手がグチャグチャになってしまう。
やっと本物のジャズプレイヤーとして歩き始めようとしていた彼を襲う悲劇。これから大のように迷いなく、揺るぎないジャズの道を歩き続けることができたであろう若者の夢がここで一度終わる。
そして本当の仲間といえる3人JASSとしての活動も終わらざるを得ない。
なぜなら大は歩き続けなければならないから。ユキノリの回復を待つことは歩みを止めることに他ならないから。
3人の最後のセッションは涙なしでは観られない。演奏中に彼らの全てがオーバーラップして心が揺れ続けるのだ。まさにJAZZそのもののように。

映画の最後のシーンで長野の実家の前、作曲をしているユキノリが大と電話で話す。大は海外へと向かう。二人の再会はあるのか。そう思わせながら。

そして海外での大の冒険はついにアメリカボストンへと至る。それがExplorer第9巻だ。

これは嬉しい喜びだ。冒頭伝えた通り、映画版から間をおかずに続けて漫画を読んで欲しい。何ものにも変えがたい感動があるだろう。

最後に・・・
(ここからは漫画9巻にも触れているので読んでいない人は読まないでください)


BLUE GIANTは最初から一貫して巨星宮本大の周囲の人々を惑星として捉えている。彼らは宮本大の人生に影響を与えると共に舞台から去るかのようにインタビューに答えていく。その点、映画の中で玉田はインタビューに答えている。だが、ユキノリは?実はずっとそのことが気になっており、ユキノリはいつ再登場するのだろう。そして、また大に負けじと輝きを放って二人が共に組むことがあるのではないか、と期待していたのだ。
そして9巻でユキノリは再登場を果たす。しかし、巻末インタビューにも登場してしまうのだ。二人の邂逅は束の間、宮本大の物語にユキノリはもう登場しない。それが少し寂しくもある。

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