山崎 憲

明治大学経営学部 准教授

山崎 憲

明治大学経営学部 准教授

最近の記事

再現性がなければ科学じゃないのか?労働経済、労使関係、制度経済学を想う

労働経済と労使関係、制度経済学の違いについて表になってた参考文献があったんだけど、どこにあったのか忘れてしまった、、、 何かっていうと、制度経済学とIRとしての労使関係論は、組織間、個人間の利害調整という、「再現性の乏しいもの」が研究対象であるために、それが科学であるのか、という批判にさらされがちだ、ということを一覧にして労働経済や新古典派経済学と比較していたものだった。 「再現性は乏しい」。しかし、だからこそ、社会全体とか、人間の生き方、のようなものを研究の視野に入れる

    • 二宮尊徳ともののけ姫

      前回は、「風の谷のナウシカ」と史的唯物論、そして斎藤幸平はその部分をこそ否定しているという話をつらつらと書いた。今回はその続き的なことを。 学部時代のゼミの先生が、ずいぶん前から大日本報徳社の社長になっているのだけど、「二宮翁夜話」を読むという連続講座を隔月でやっていて、そこに二回ほど顔を出している。 大日本報徳社は二宮尊徳が始めた運動を現代に伝えて実践するための団体で、本部は静岡県掛川市にあり、日本全国に支部がある。第二次世界大戦中は報国の教えとして国家に利用されたが、

      • ナウシカ、唯物論、斎藤幸平

        だいたいにして貯めこんだ情報がつながっていくのは朝、湯舟に浸かったり、熱いシャワーを浴びたりしているときなのだが、韓国をみていろいろな人にあって話を聞いたり、研究の仲間と話をしたり、文献を読んでいたり、原稿を書いたり、ということが繋がるという瞬間がある。。 お題は、ナウシカ、唯物論、斎藤幸平。ほんとはもう少しあるのだけど、順番に書いていくことにする。 「かぐや姫の物語」と「火垂るの墓」の解説をしている岡田斗司夫のYoutubeをみていたときのこと。 高畑勲が宮崎駿のナウシ

        • 日本の労使関係と連合21世紀宣言、民主主義

          地区労運動が日本の労組の再生の一つのカギではないかと思っていたが、韓国で2010年代以降にコミュニティオーガナイジンクが再生してきた流れをみると、日本にコレクティブ・デモクラシー(集団的民主主義)がこれまでなかったことの方が重大だと思うようになってきた。 集団的民主主義はジョンRコモンズが提唱したもので、ニューディール以降のアメリカの民主主義の根幹になっている。 1920年代は金融資本主義が隆盛だった。 描かれるのは『華麗なるギャツビー』の世界。それまで富は天に積むとい

        再現性がなければ科学じゃないのか?労働経済、労使関係、制度経済学を想う

          韓国のコミュニティ・オーガナイジング(教会だけでみるのではない)

          コミュニティオーガナイジングやアリンスキーの影響をどのように受けて、現在の活動に繋げているのかを探る調査だったが、 それは、韓国の民主化運動と教会の役割、そして1980年代のマルクス主義との邂逅、そこからの労働運動との分離、 それが再び、決まった職場がないというようなよるべのない人を組織するための論理として回帰し、独裁政権を倒して民主化を手にした経験をミャンマーを始め、抑圧された国へ伝えていく。 アメリカにおいてもコミュニティオーガナイジングが教会ベースだと単純化できな

          韓国のコミュニティ・オーガナイジング(教会だけでみるのではない)

          2024年韓国コミュニティ・オーガナイジング調査-民主化の担い手から寄る辺なき人々の組織へ

          2024年コミュニティオーガナイジング調査に参加させてもらった。 わかったこと。 1. アリンスキー由来のコミュニティオーガナイジングは1980年代初頭までの韓国民主化、学生運動の理論と実践的な支柱。そこまではマルクス主義が禁止されていたことも理由。 2.家父長教会(Presbyterian)が担い手。アメリカからコミュニティオーガナイジングの理念と理論、金銭的支援はドイツから。他宗教、宗派への寛容さから、様々な組織の繋ぎ目になった。また、宗教的自由の下で独裁政権の弾圧

          2024年韓国コミュニティ・オーガナイジング調査-民主化の担い手から寄る辺なき人々の組織へ

          日本の労使関係論と制度派についての暫定的見解(日本資本主義論争とはなんだったか)

          稲葉振一郎氏がブログで、「労使関係論とは何だったのか」を書いたのが2009年のことだった。 この議論は、福祉国家やその後釜としての共有資産であるコモンズへとうつろう今だからこそ振り返らないといけない。 なぜ日本の人事管理、人的資源管理、日本的経営の話は、大企業の工場の話ばっかりなのか、ホワイトカラーの話はやたらと通り一遍なのか。 思えば、企業経営の構造的なことを取り上げると個々の労働者への調査が足りない、みたいな指摘を受けたなんてことがあった。 これは稲葉氏の指摘によ

          日本の労使関係論と制度派についての暫定的見解(日本資本主義論争とはなんだったか)

          ガラパゴスなジョブ型議論はもうやめよう

            世界標準でジョブ型雇用とかメンバーシップ型雇用なる呼び方はない。ならばなぜ日本ではその言葉がもてはやされるのか。その理由を考えていこう。 ジョブとはタスクの束であり、タスクには職務限定も無限定もある。それなのに日本ではジョブというと限定された職務と捉えられてしまう。 ところが、その日本においてさえ、ジョブ型という言葉が指す意味がいくつも存在する。 同一労働同一賃金のジョブ型 一つめは「同一労働同一賃金のジョブ型」と呼ぼう。これは、日本の労働法学者と経済学者を中心に提唱

          ガラパゴスなジョブ型議論はもうやめよう

          モビリティプラットフォーム化するウーバーによる労働の無形資本化

          ニューヨーク・マンハッタンのタクシー会社がウーバーのアプリケーションで個人請負ドライバーと同一のシステムに入ることに合意したことを2022年3月24日付Wall Street journalが伝えた。 世界各国で、コロナ禍の在宅ワークでタクシー乗車需要が激減。個人請負ドライバーも減少したことで、運転手と台数を増やしたいウーバーとアプリを使って効率を高めたいタクシー会社とで利害が一致したという。 つまり、ここにきて問題は、個人請負というかたちから、 フランチャイズとフラン

          モビリティプラットフォーム化するウーバーによる労働の無形資本化

          ダンロップの労使関係(Industrial Relations)とは何か

          日本の「労使関係」とアメリカの原語である「Industrial Relations System」がどうにも同じものを指しているとは言えないとの思いから本稿を書いてみた。 そもそも日本で労使関係というときは、労働者(労働組合)と使用者もしくは、労働と資本の関係という二つの捉え方がある。しかし、ダンロップの労使関係はそれとは異なる三つ目となる。ダンロップ、John T. Dunlopの研究はJonh R. CommonsのInstitutional Economics(制度経

          ダンロップの労使関係(Industrial Relations)とは何か

          「労使関係システム(Industrial Relations System)の一般理論」John T. Dunlop (1958) Industrial Relations System第10章抄訳

           本章は、労使関係論の経験に関する新しい考え方を提示しようとしている。 それは、労働者・マネージャー・政府の相互作用の既知の事実を整理し、解釈するための体系的な考えを進展するものである。また、新しいカテゴリで提示される新しい事実の収集を必要とする一連の概念を組み合わせて提供する。職場と職場コミュニティのルールは、理論的分析によって説明される調査の一般的な焦点になる。  前章で定式化され図解された分析の枠組みは、労働平和と紛争への執着ではないにしても、労使関係論の議論を先入観

          「労使関係システム(Industrial Relations System)の一般理論」John T. Dunlop (1958) Industrial Relations System第10章抄訳

          ジョブ型、メンバーシップ型論のミスリード

          ジョブ型、メンバーシップ型 この二つは異なる概念が並んでいる。メンバーシップはその名の通り企業のメンバーになること。これは日本に特殊なものではない。 メンバーの形がそれぞれの国の特徴があるということ。 一方でジョブとは、仕事のことであり、日本にもあるもの。 ところが、現在の日本では、メンバーシップには職務無限定という働かせ方が、そして、ジョブには職務が固定された働き方への評価の仕方や労働条件というものが加わって議論されるようになっている。 つまり、本来の意味に含まれ

          ジョブ型、メンバーシップ型論のミスリード

          日本人として居心地が悪かったこと。

          リンクの記事で樋口希一郎がナチスドイツ支配下からユダヤ人上海ルートで逃したということが書かれていた。 サンケイはいかにも発掘された事実のように描かれているがわりと有名な話。 僕は専門家ではないので正確ではないと思うが、杉原千畝が単独で行ったこととされる中、上海ルートでユダヤ人を脱出させた話は、ユダヤの金融資本との接近をはかり、軍事費用を調達することが目的だったとの言説を読んだことがある。 しかし、表題の「居心地が悪い」というのはその話ではない。 デトロイトに赴任してい

          日本人として居心地が悪かったこと。

          「フリーランスとICTをつなぐと生産性が高まる」は「メガネをかけると頭が良くなる」と同じ

          フリーランスと生産性についてまとめて考える機会があったので書きとめておきたい。 日本では次のようなことが語られている。 1.フリーランスという雇われない働き方を選択する人が世界で増えている。 2.フリーランスをスマホのアプリなどでつなげることで、企業、働く側どちらも生産性や創造性が高まる。 3.AI技術者などが全体で不足しているなか、大企業で有効に活用されていない人材がフリーランスとなることで社会全体の効率性、生産性を向上することができる。 4.そうはいってもフリー

          「フリーランスとICTをつなぐと生産性が高まる」は「メガネをかけると頭が良くなる」と同じ

          アメリカの失業率が14.7%に急上昇しても株価が上がり続ける社会とは?

          連邦労働省がアメリカの失業率の急上昇を発表した昨日、ニューヨーク市場の株価は上昇を続けた。 労働市場からの退出者も含めて実質失業率が20%を超えたとされるなか、IT、プラットフォーマーなどの企業の株価は3月からずっと大幅な上昇を続けている。 自宅に留まっている消費者が増えているからこそこうした企業の価値が高まっているとの見方がある一方で、次のような記事が出た。 “equity values simply no longer depend on the functioni

          アメリカの失業率が14.7%に急上昇しても株価が上がり続ける社会とは?

          Future of Workに対応するためにもっとも考えなければならないこと(国際比較労働法学会提出論文前文ー未定稿)

          1.Introductionー「つなげる」を競争力に  Future of Workといえば、ICT(Internet Communication Technology)、AI(Artificial Inteligence)、IoT(Internet of Things)、RPA(Robotic Process Automation)等の技術革新などによる複数の企業と個人が構成するネットワークを一つの有機体として機能させるビジネスモデルに対応するための働き方のことをいう。

          Future of Workに対応するためにもっとも考えなければならないこと(国際比較労働法学会提出論文前文ー未定稿)