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ある「小さな組織」で起きたハラスメント騒動-(1)ハラスメントは「小さな組織」で起きている<前編>

(1)コロナ禍の始まりに、「小さな組織」へ転職しました


これは、とある「小さな組織」で私が経験した、「ハラスメント」にまつわるお話です。

コロナ禍が日本を覆い始めた2020年3月、環境NPO・A社(東京)の事務局に転職しました(注: NPOなので「会社」ではありませんが、この記事では「A社」とします)。

私の入職当時、A社は正規職員4名(全員男性)・非正規職員2名(どちらも女性)というスタッフ構成でした。いわゆる「小さな組織」です。ただし、「小さな組織」というのは、フルタイムで業務を担う事務局に限った話です。

NPO法人は、営利を目的とせず、一定の社会貢献活動を行います。そのためA社には、ボランティアで活動を支えるメンバーがたくさん関わっていました。ボランティアのうち、特に熱心に活動を支えるメンバーは「理事」として、A社の「理事会」を構成しています。「理事会」は、一般企業で言えば、「取締役会」に相当します。

環境NPO・A社の組織図(当時)

コロナ禍という先の見えない不安に包まれながらも、初めて自分自身の興味・関心に従って決めた転職だったので、それなりにワクワクしながら仕事をスタートさせたことを覚えています。

とはいえ、主な業務がイベント受託だったので、(世間のご多分に漏れず)コロナ禍の直撃をまともに受けて、ほとんどの仕事がキャンセルとなりました。そのため、転職当初から1年以上は、ろくに仕事もなく、ふわふわした状態で過ごしていました。

入職して1年あまり経ったある日、同僚の女性スタッフからセクハラ被害の相談を受けたことから、A社という「小さな組織」でのハラスメント騒動が始まりました。


(2)この記事を書く目的


① 日本での「セクハラ防止」の動き

2023年2月、パナソニックコネクト(パナソニックホールディングス傘下)が導入した、「1回でもセクハラをしたら即降格」という報道に、私は驚きました(概要は次のとおり)。

● 1回でもセクハラがあった場合に、降格を前提とする罰則を導入
● 社内ガイドラインを変更。独立したコンプライアンス委員会が対応
● 日本企業で最も厳しいレベル(※長期間や複数回のセクハラでの降格はあっても、1回で即降格は珍しい)

(一社)共同通信社, 2023/02/20

同社は、「他企業よりも厳格な取り組み」を行ったので、報道されました(*1)。ですが、ある程度の「人員体制を整えた組織」であれば、セクハラを「未然に防ぐ」研修に始まり、「実際にセクハラが発生したときの相談・解決の体制」も整っています。なぜなら、企業等の事業主には、セクハラ防止の措置が法的に義務付けられているからです(*2)。

この報道を新聞で目にしたとき、私には別世界の話題にしか聞こえませんでした。そして、私と同じような感想を抱いた方は、日本国内に数え切れないほどいたと思います。

なぜなら、日本(世界も同じ)の多くの組織は「小さな組織」だからです。そして、「小さな組織」には、ハラスメントを「未然に防ぐ」研修も、「実際にハラスメントが発生したときの相談・解決の体制」もありません(あっても「実効性」がない場合がほとんどです)。

SNSの普及や「#MeToo」運動によって、これまで被害者たちが押し殺していた声が「表」に出るようになりました。

こうした変化もあり、知名度の高い組織の問題は顕在化しやすく、報道でも取りあげられます。だからこそ、改善・防止に向けた取り組みも進むといえます(※陸上自衛隊やジャニーズ事務所の性加害問題が代表例です)。

ですが、「小さな組織」で発生するハラスメントが「表」に出ることは、ほとんどありません。ほとんどの場合、被害者が泣き寝入りするか、組織側が放置・隠蔽するかの、どちらかなのです。

参考までに、次のような調査結果があります。ハラスメント被害の大多数(82.4%)は「放置」されていることが分かります(注:この調査は組織規模の差などは考慮されていないようです)。

【調査対象】
・20~69歳の働く男女(約2万8千人)
・うち、過去5年以内にハラスメント被害を経験した3千人に、会社側の対応の有無を確認
↓ ↓ ↓
【調査結果】
① 会社は被害を把握しておらず対応もなかった…45.2%
② 会社は被害を把握していたが対応がなかった…37.2%
③ 会社が対応した…17.6%
→会社側が対応しなかった場合の合計(①+②)は「82.4%」にのぼる

2023年1月19日, 中日新聞, パーソル総合研究所による調査

ちなみに、私が経験した事例は「③ 会社が対応した」に含まれますが、加害者に対して、組織は(実質的に)何の処罰も与えられませんでした。加害者に足元を見られたのです。 

② ハラスメントは「小さな組織」で起きている

私が転職したA社(環境NPO)は、事務局スタッフ5~6名の「小さな組織」でした(それ以外に、無報酬で活動に携わる理事や運営委員、ボランティアなどが活動に携わっていました)。

その「小さな組織」において、現場のリーダーである男性(事務局長)が、「世間一般では明確にアウト」のセクハラ行為を、複数の女性に対して、長期にわたり行っていました(+私に対する報復的なパワハラ)。ですが、その男性は、(実質的に)何の処分も受けることなく、今も同じ立場で、元気に働いています(2023年9月現在)。

「大きな組織」で働く人々には信じられないかもしれませんが、これは特に珍しい事例ではないと思います。

なぜなら、日本の全企業数のうち、99.7%は「中小企業」だからです。そして、中小企業で働く人の割合は、全体の68.8%(約3,220万人)にのぼるからです(出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構, 平成28年統計データ)。

さらにいえば、小規模事業者(従業員数:製造業その他は20人以下、卸売業・サービス業・小売業は5人以下)の割合は、全事業者の84.9%(約304.8万者)。小規模事業者で働く人の割合は、全体の22.3%(約1,044万人)にのぼります(出典:『2021年版 中小企業白書 小規模企業白書』, 中小企業庁編)。

③「表」に出ないハラスメントに目を向ける

私がハラスメント騒動を経験したのは、従業員5名(当時)の職場でした。したがって、「小規模事業者」にあたります(注:私がこの記事で書く「小さな組織」は、こうした「少人数の組織」を念頭に置いています)。

「小さな組織」では、ハラスメントを防ぐことも、ハラスメント発生時に適切な対処をすることも難しい。なぜならば、それを担う人材も、その余裕もないからです。

したがって、「小さな組織」で働く人々、特に、上で挙げた「小規模事業者」と、そこで働く1,000万人以上の従業者は、ハラスメントに対して、とても無防備な状態にあると推察できます(反対に、ハラスメントを引き起こす人間にとっては、絶好の居場所となり得ます)。

※同様のことは、フリーランスとして働く人々にも同じことが言えます。「組織」に守られないフリーランスは、ハラスメントに対して、更に無防備な状態にあるはずです(*3)。

先ほど、「過去5年以内にハラスメント被害の経験がある3千人のうち、82.4%は会社側が対応しなかった」という調査を紹介しました。この調査からは、組織の大小を問わず、ほとんどのハラスメントは「被害者の泣き寝入り」で終わっていることが読み取れます。「小さな組織」に限れば、この割合はさらに高くなるはずです。

④ この記事の目的

この記事では、私が巻き込まれた「ハラスメント騒動」を題材として、その経緯と、そこから学んだことを整理しました。

「被害の深刻さ」という観点からは、それほど珍しい事例ではないかもしれません。心身ともに、立ち直れないほどのハラスメント被害(それはもはや犯罪ですが…)を経験された方は、世の中にたくさんいるはずです。ですので、自分たちの被害を見せびらかす意図は毛頭ありません(もちろん、今回の件に関わった人々は、それぞれの仕方で傷つきました)。

また、加害者や組織を「糾弾」するつもりもありません(それが目的ならば、全て実名で書いています)。

この記事が、今まさに「小さな組織」でハラスメントに悩む方や、「小さな組織」を運営しながら、ハラスメントの防止や対処に悩む方にとって、何らかの参考になれば嬉しく思います。この記事は、そんな気持ちを支えとして書きました。

(3)「小さな組織」で起きたハラスメント騒動(概要)


(被害①)同僚の女性から、セクハラ被害の相談を受ける

2021年6月30日(水)、同僚の女性スタッフ(Oさん)からセクハラ被害の相談を受けました。

その女性(Oさん)は、I氏(事務局長)からの誘いによって、2020年末からA社で働き始めました。Oさんは、新規事業を立ち上げるなど、子育ての時間をやりくりしながら、前向きに、新たな仕事に取り組んでいました。そんなOさんですが、入社から半年ほど経った2021年5月頃から、急に欠勤が増えました。

彼女からの相談を受ける2日前には、「通勤途中の乗換駅で気分が悪くなった。救護室で休んでいるが、回復しそうにない」という電話を私が受けています。精神的に、かなり追い詰められていたのです。

この電話を受けた私は、「Oさんには、出勤したくてもできない理由があるのでは?」と感じたので、「何かあればいつでも相談してください」とメッセージを送りました。結果的に、このやり取りが、Oさんが私に相談をしてくれるキッカケとなりました。

ただし、この時点では、Oさんが欠勤する原因が「セクハラ被害」にあるなどとは、微塵も思いませんでした。なぜなら、加害者であるI氏(事務局長)が、Oさんの(事実とは全く異なる)欠勤理由を、職場で言いふらしていたからです(Oさんの人間性や、仕事への向き合い方に原因がある、という内容でした)。

「小さな組織」には、ハラスメントの相談・通報先は「ない」場合がほとんどです。そのため、相談できる相手がおらず、Oさんはずっと1人で悩んでいました。また、私に相談するときも、「自分の被害を信じてもらえるのか、心情を理解してもらえるのか、相談する前はとても不安だった」と話してくれました。

Oさんから話を少し聞いた時点で、私はセクハラ被害の存在を確信しました。また、その被害が複雑な事情の結果(例:恋愛のもつれ)などではなく、加害の原因がI氏のみにあることも汲み取れました(ちなみに、被害女性Oさん・加害男性I氏は、どちらも既婚です)。

Oさんから聞いたセクハラ被害の概要は次のようなものでした。

  • (物理的な)距離が近い

  • (常習的な)性的発言

  • 身体的接触(腰に手を回される・髪を触られる 等)

  • 荷物を取るときに、後ろから支えるふりをしてお尻を触られた

  • カラオケに誘われた(断ったが嫌な思いをした)

  • 「女性として好き」と言われた(※I氏によるこの発言によって、「自分がI氏からA社に誘われたのは、仕事上の戦力としてではなかった」と感じて、Oさんはとても傷ついたそうです)

ちなみに、私がOさんから相談を受けたのは駅前のドーナツチェーン店でした。Oさんは、被害による苦しみや悔しさから、話しながら泣いていました。自分の被害を初めて他人に話せたことや、被害を信じてもらえた安心感などもあったのかもしれません。

Oさんの「騒ぎにしたくない」という希望を受けて、私はOさんと相談しながら、Oさんにとってのより良い解決策を探ることにしました。結果的に、I氏はその不誠実な対応によって、Oさんに対してさらなる不信感と恐怖心を与えることになりました(例:大量の言い訳メッセージを送る、途中から「自分こそ被害者」だと言い出す 等)。

結局、私に相談してから約1か月後、OさんはI氏に追い出されるように退職しました。これが、わずか5人の「小さな組織」で起きたハラスメント騒動の「始まり」です。

Oさんの希望(I氏の逆恨みが怖いので騒ぎにしたくない)もあり、そして私自身はもう少しA社で働くつもりだったこともあり、私はこの事実をいったん飲み込むことにしました。そして、モヤモヤする気持ちを押し殺して、(表面上は)これまで通りに振る舞うことにしたのです。

この時点でセクハラ被害を表沙汰にしなかったことを、私はすぐに後悔することになります。

(参考)セクハラ被害の相談に乗るうえで、私が心がけたこと

Oさんの相談に乗るうえで、私は次のような点を心がけていました。そして、これらの心がけが、後々、私自身を救うことになりました。

  • 「被害者(Oさん)にとってのより良い解決策」と「事実」だけを見据えて、ひたすら誠実に対応する。

  • Oさんへの二次被害を防ぐためにも、興味本位で被害の詳細を聞かない。

  • Oさんに負担がかからないように寄り添いながらも、加害者(I氏)の人間性を悪く決めつけるような発言をしない。あくまでも「加害の事実だけ」を見つめる。

  • 性被害というセンシティブな内容のため、誤解を生みやすいテキストメッセージではなく、できる限り対面や電話によって相談を受ける。

(被害②)私へのパワハラが始まる

私とOさんは、主にFacebookのメッセンジャー機能を介して相談のやり取りをしていました。Oさんは業務として個人のFacebookアカウントを利用していたので、彼女の業務用PCには、Facebookの履歴・データがそのまま残されていました。そして、追い出されるように辞めたOさんは、PCのデータ消去を行っていませんでした。

Oさんが退職して、彼女の業務用PCが残されました。I氏は、残されたOさんの業務用PCを覗き見て、Oさんが私にセクハラ被害の相談をしていた事実を知ったのでした。

一般的に、業務用PCにはパスワード・ロックが掛かっています。ですが、A社のPCは、全台が数字4桁の共通パスワードを使用していました(セキュリティ観念0ですね…)。I氏は簡単にOさんの業務用PCのデータを見ることができたのです。

I氏はこの件について、次のように代表理事(組織のトップ)へ報告していました(注:もちろん、自分にとって都合の悪い部分を隠し、事実を捻じ曲げた虚偽の報告です)。

  • 「設定ミスなのか、OさんのPCを開いたらFacebookのメッセージが次々に表示されて、自分には止めることができなかった。そのメッセージの内容が衝撃的で、自分の脳裏に焼き付いてしまった」(筆者注:新着メッセージを通知する機能はありますが、Oさんの退職時点では全て既読になっているので、そのような現象は起きません)

  • 「Oさんと〇〇(筆者)とのやり取りには、I氏に対する罵詈雑言(例:キモイ・死ね)などが書き連ねられており、自分(I氏)は大変なショックを受けた。もう〇〇(筆者)のことは信用できない」(筆者注:まったくのデタラメでした。この点ついては、メッセージ履歴の全てを私が提出したことで証明できました)

ここから、私に対するI氏の態度が急変しました。そして、私へのパワハラが始まったのです。概要は次のとおり(陰湿なものばかりでした)。

  • (筆者を)無視する

  • (筆者にだけ)仕事を回さない

  • (筆者に関する)悪評を職場で言いふらす(注:その場に居合わせた人に聞いたところ、嘘の内容ばかりでした。もちろん、I氏自身のセクハラ加害については隠されていました)

  • 悪評例:「〇〇(筆者)は、職場での(Oさんに関する)内輪話をOさんに漏らしていた。Oさんが辞めた原因は〇〇(筆者)にある」「その事実を顔にも出さないなんて、〇〇はサイコパスだ。〇〇のことは信用できない」等

当初、私自身は自分がされている行為を「パワハラ」だと認識できていませんでした。最初の2か月ほどは、私自身に何か原因があって、I氏の信用を失った結果かもしれないと思い込んでいました。なぜなら、Oさんが私に相談していた事実を、I氏は知らないはずだと考えていたからです(疑ってはいましたが、、)。

ある日、たまりかねて別の女性スタッフ(Hさん)に愚痴をこぼしました。そこで、Hさんから、I氏が私の(根も葉もない)悪評を事務所で言い回っていることを聞いたのです(後に、外部の仕事相手にも言いふらしていたことが判明します)。

ここに至りようやく、I氏の私に対する行為が、意図的な「パワハラ」であるとを認識できたのでした。

(でっちあげの)悪評を職場で言いふらす行為に強い怒りを覚えた私は、I氏によるOさんへのセクハラを含めて、全てを表沙汰にすることを決めたのでした。

(被害③)別の女性スタッフが、セクハラ被害について口を開く

ちなみに、私が愚痴をこぼした女性スタッフ(Hさん)のお母さん(Yさん)は、A社の副代表理事(当時)でした。その縁もあって、Hさんは私より早くからA社で働いていました。

私の愚痴をきっかけとして、Hさんのお母さんであるYさん(副代表理事)、そして組織のトップである代表理事(Tさん)に、I氏による私へのパワハラ、そしてOさんに対するセクハラの件が伝わりました(経緯は割愛)。

そして、この流れで、Hさんはご自身のセクハラ被害について口を開いたのです。被害については、Oさんとほぼ同じ内容です。ですが、Hさんは、入社直後からその時点まで、すでに2年以上もセクハラ被害を受けていました。

ちなみに、以下の点を考慮すると、Hさんに対するセクハラは、悪質性の高いものであると判断できます(Oさんについても同様)

  • 事務局長(I氏)⇔パートタイムスタッフ(Hさん)という、「優越的地位」の下で行われた行為であること

  • 人目がないタイミングを見計らい、事務所という逃げ場のない密室で行われていたこと(そのため、誰も気づけなかった)

  • 2年以上という期間と常習性

Hさんは、働かせてもらっていることや、仕事を教えてもらっていることに対しては、I氏に恩義を感じていました。そのため、ご自身の被害については嫌な気持ちを抱きながらも、半ば諦めていたそうです(もちろん、お母さんであるYさんにも相談はできませんでした)。

ですが、Oさんも同じような被害を受けて辞めたこと、そして、それをきっかけとして私(筆者)がパワハラを受けたことには怒りを覚えたそうです。そして、ご自身の被害について、勇気をもって打ち明けてくれたのでした。

「小さな組織(A社)」におけるハラスメントの概要図

(4)「小さな組織」で起きたハラスメント騒動(余談)


(余談①)隠された「相談窓口」

私がI氏のパワハラをHさんに相談したことで、代表理事(Tさん)、副代表理事(Yさん・Hさんのお母さん)にこの件が伝わりました。

そこで、代表理事(Tさん)は、われわれ事務局スタッフ、そしてA社の関係者に宛てて、ハラスメントの相談を受け付ける旨のメールを送りました(※関係者へのメーリングリストを利用)。ですが、肝心の事務局スタッフにそのメールが届くことはありませんでした(注:事務局スタッフ以外の関係者には、しっかりとメールが届いていました)。

私はそのメールを、I氏がA社のメールサーバーから削除したのだと考えています。なぜなら、事務局以外の関係者にはメールがしっかりと届いたので、メーリングリストには不具合はなかったことになります。そして、A社のメールサーバーを操作できるのは、事務局長であるI氏だけでした。

なにより、I氏は「事務局長」という立場にありながら、「ハラスメントの相談窓口」という重要なメールについて、われわれ事務局スタッフの前で、その存在に触れることは一度もありませんでした(注:I氏は別の理事からこのメールについて質問を受けていたので、このメールの存在を「知らない」ということはありえません)。

I氏は、自分に不都合な告発を防ぐために、代表理事から送られた「相談窓口」に関するメールの存在を隠し通しました(注:I氏による操作の事実を確かめる術がなく、この件は不問に付されました)。

(余談②)常態化していたハラスメントと、麻痺する周囲の感覚

ちなみに、A社ではハラスメントが常態化していました。同僚男性のFさんは、前・事務局長から「パワハラ」を受けていたそうです(注:Fさん本人も、周囲も「パワハラ」と認識。私の入職前に、事務局長の交代によって終結)。

また、私の入職時には、男性職員(Mさん, 50代)が、I氏から恒常的なパワハラ(無視、仕事を回さない、周囲に悪評を流される)を受けていました。I氏は「原因は全てMさんの人間性・能力の問題」と常日頃から話していたので、周囲も私もそう思い込んでいました。ですが、私自身がMさんと同じ処遇をI氏から受けたことによって、Mさんが置かれた状況は、I氏(+前・事務局長)によって意図的に作り出されたものだと認識できたのでした。

私の入職時、Mさんは周囲から孤立しており、ほとんど仕事がないという状況に置かれていました。こうした状況は、(ご自身の能力や性格に起因する部分もあったとはいえ)、I氏(+前・事務局長)による「パワハラ」によって作られたことは間違いありません。「パワハラ」に該当する行為が当たり前に存在するという状況に、(私を含む)周囲の感覚は麻痺していたように感じます。

また、A社ではI氏による「性的な発言」が、「組織の円滑なコミュニケーションの一環」としてまかり通っていました。私自身は「下ネタが嫌い」と表明して、そこに乗ることはありませんでしたが、女性スタッフや女子学生のインターンを含めて、A社では「下ネタ」をベースにしたコミュニケーションが、当たり前のものとなっていました(女子学生のインターンは「下ネタ」を受け流すことを「スルースキル」として強いられていました)。

組織の雰囲気はリーダーによって決まります。(私を含む)A社のメンバーは、セクハラ・パワハラが存在する状況に慣れきっていたように思います(諦め半分)。そして、Oさんが私に被害を訴えたことで、初めてそれらの行為が「ハラスメント」という「輪郭」を伴って、表に出てきたと言えます。

「小さな組織」にいると、ハラスメントの存在に麻痺することがあります(注:ハラスメントについて学ぶ研修もないのですから、仕方ない面はあります)。

だからこそ、リーダーが率先して「ハラスメントは許さない!」という態度を打ち出すと同時に、組織のメンバーにも「職場にハラスメントは必要ない!!」という意思表明が求められるのだと思います。

(↓ ↓ 後編に続く ↓ ↓)

『(2)ハラスメントは「小さな組織」で起きている<後編>』


(参考)別の視点から、こんな記事を書きました

  • 今回の騒動では、加害男性(I氏)の言動に、関係者全員が振り回されました。そして、この加害男性の言動・行動の背景には、「ある原因」が存在していたようです。

  • この男性が抱える「ある原因」については、別の記事として整理しました。興味のある方は、こちらもお読みください。



【注釈】

(*1)パナソニックコネクトのWEBサイトには、「健康経営」というページがあります。そこには、同社の社員が心も体もいきいきと働けるための、さまざまな取り組みが掲げられています。その中に、「心の健康 ハラスメント防止への取り組み」として、次のように掲載されています。

当社は心身ともに安心・安全で働きやすい職場環境の継続を目指し、ハラスメント防止の活動を強化しています。ハラスメント防止研修を「役員・全管理職」から実施し、「シニア層」「全社員」へ展開。2021年 グループディスカッションを含む研修の他、2022年はeラーニングも導入。

さらに、ハラスメント相談窓口を設置し、セクハラ、パワハラだけでなく全てのハラスメント防止対策を継続しています。

https://connect.panasonic.com/jp-ja/about/sustainability/health
(最終閲覧:2023/7/21)

(*2)2019年5月、男女雇用機会均等法、及び、育児・介護休業法の改正により、セクハラに関しても規制の強化策が盛り込まれました。もともと「セクハラ防止への措置」を講じることは、企業に義務付けられていました。それに加えて、”セクハラ等は行ってはならないもの”と、法律に明文化されました。

また、セクハラの防止に関する責務が、企業のみでなく「関係者(取引先の社員など企業以外の関係者も含む)」にまで拡大されました。(参考:『弁護士ドットコムの「身近なトラブル相談室」-企業コンプライアンス編-:2 マンガで解決! セクシュアルハラスメント』弁護士ドットコム;龍造寺慶, 岡田鯛, 双葉社, pp32-32)

なお、改正法の施行は2020年6月1日ですが、パワハラの雇用管理上の措置義務については、中小事業主は2022年4月1日から義務化となりました(それまでの期間は努力義務でした)。

(*3)フリーランス:農林水産業以外で、店舗を持たず、従業員を雇用していない個人事業主(政府による定義)。20年時点で462万人に上る。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」などがフリーランス1,218人を対象に行った19年の調査では、36.6%がセクハラを受けたことがあると回答。パワハラは61.6%が経験していた。
(讀賣新聞オンライン, 2022/12/05, 「フリーランス保護 道半ば ハラスメント被害…法の対象外 半数相談せず」)


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