水路も田んぼも、(侵略的)外来生物でいっぱい(ビオトープを守り・育てる #2)
(1)身近な田んぼや水路は、(侵略的)外来生物でいっぱい
水路や田んぼには、たくさんの生き物が棲んでいます。
私は生き物の同定(生物名や種の判別)にはまだまだ不案内ですが、近所の田んぼや水路では、次のような生き物を採取した経験があります。
魚:メダカ、フナ、ドジョウ、ナマズ(岐阜では国内外来種)、etc.
巻貝類:マルタニシ、ヒメタニシ、オオタニシ、カワニナ
水生昆虫:マツモムシ、ゲンゴロウ、etc.
カエル:ツチガエル、ニホンアマガエル、トノサマガエル
ですが、頻繁に目にする生き物は、次のような、(侵略的)外来生物ばかりです。
スクミリンゴガイ(通称:ジャンボタニシ)
アメリカザリガニ
カダヤシ
アカミミガメ
(2)在来生物が生きられるニッチ(生態的地位)を回復させる
①(侵略的)外来生物とは
「(侵略的)外来生物」と呼ばれる生き物は、日本の環境において次のような特性を発揮します。
天敵(捕食者)がいない(または少ない)
生態的地位(食べ物や棲み家)が在来の生き物と競合する
繁殖力が強い(増殖の速度が在来生物よりも早い場合、限られたニッチを在来生物から奪う)
在来生物に対する捕食や攻撃
私たちの身の回りの環境にある「食べ物」や「棲み家」は、限られた量しかありません。
(侵略的)外来生物と呼ばれる生き物は、原産地から日本に移動したことで、上記の様な特性を発揮します。そして、日本在来の生き物から、「食べ物」や「棲み家」を奪ったり、在来生物を捕食したりすることで、爆発的に増殖します。
だからこそ、「侵略的」な「外来生物」と呼ばれるのです。
② 影響力の大きい(侵略的)外来生物を、できる範囲で取り除く
この記事で挙げる4種の生き物は、どれも人間の手によって意図的に移入されたものです。生き物たちには罪はありません。もともとの生息地から勝手に連れてこられた土地で、精一杯に生きているだけです。
スクミリンゴガイ / アメリカザリガニ / カダヤシ / アカミミガメは、それぞれが興味深い特性を持っており、飽きることなく見ていられる生き物たちでもあります。
ですが、放置すれば、私たちの周りの環境は、こうした(侵略的)外来生物ばかりになってしまいます。あらゆる生き物を愛する私としては、「在来生物たちがいつの間にか消えてしまった未来」は見たくありません。
だからこそ、影響力の大きい(侵略的)外来生物を、自分の手が届く範囲において、できる範囲で取り除く活動をしています。(侵略的)外来生物の数が減れば、その分だけ、在来生物が生きるニッチ(エサ・棲み家)を取り戻せると考えるからです。
また、わが家の庭に造営したビオトープにおいて、在来生物の保全も行っています。いまは、近隣の水路で捕獲した在来メダカと、タニシ類(マルタニシ・オオタニシ)が元気に過ごしています。
③ 在来生物の減少要因は、(侵略的)外来生物だけではない
在来生物が数を減らした原因は、(侵略的)外来生物だけにあるとは限りません。むしろ、人間による開発が、在来生物たちの生息域を奪ってしまった場合も多くあります。
「在来生物が減った」→「原因はすべて外来生物だ!」
という、単純な因果関係で考えることは危険です。一方的に外来生物を悪者にして駆除する方法ばかりが着目されて、もっと大きな原因を見失うことがあるからです。在来生物の保全を考える際には、その生物が減った原因がどこにあるのかを見極める必要があります。
「在来生物が減った」→「原因はどこにあるのか?」→→「人間活動の影響?外来生物の影響??」
例えば「カダヤシ」は日本在来の「メダカ(ミナミメダカ)」と競合しますが、「メダカ」が減った理由は「カダヤシだけ」が原因ではありません。例えば、次のような原因が考えられます。
(原因)産卵床となる水草の減少→(結果)産卵数の減少
(原因)水質の悪化→(結果)生息域の減少
(原因)冬期湛水の減少(冬期も水田に灌漑水を貯める農法)→(結果)冬期における生息可能域の減少
私の身の回りではかろうじて在来メダカの姿を見られます。それは、用水路の一部に水草(外来のオオカナダモ)が繁茂するため、産卵床を確保できるからだと推測しています。
ちなみに、冬期は用水路の水位が極端に下がるため、ほんのわずかに残る「水溜り」のようなエリアで冬を越しています。
(3)身近な(侵略的)外来生物のご紹介
① ジャンボタニシ(ピンク色の卵塊がびっしり)
田舎の田んぼや水路によくある光景ですが、私の近所にもジャンボタニシ(正式名称:スクミリンゴガイ)がゴロゴロしています。
ちなみに、ジャンボタニシは「タニシ」ではありません。在来タニシを愛する身として「ジャンボタニシ」という名称は好きになれません。ここでは「スクミリンゴガイ」と呼称します。
スクミリンゴガイ。場所によっては、水路の護岸や水底を埋め尽くさんばかりの勢いです。特徴は次の通り(*2)。
1981年に日本へ移入(食用目的)
イネ、レンコン等の農作物の食害を引き起こす
リンゴカイ目リンゴカイ科、卵生。在来の「マルタニシ(タニシ目タニシ科)」と似ているが、「タニシ」ではない(タニシは卵胎生)。
繁殖力が強く、1枚の雌成貝は年間3,000個以上を産卵する。
卵にはPV2という神経毒が含まれる。そのため、卵を食べる生き物はほぼいないとされる。そのため、増殖し続ける。
何よりも大きな特徴は、水面より上に産み付けられる、ピンク色の卵塊です。毒々しいピンク色の卵塊がびっしりと産み付けられている光景は、なかなかに目立ちます(私は嫌いです)。
雌成貝は年間20~30回も産卵(条件が良ければ3~4日に1度産卵)するので、目に見える範囲の卵塊を潰しても、すぐに新しい卵塊が産み付けられます。「世界の侵略的外来種ワースト100」「日本の侵略的外来種ワースト100」に選ばれる、手強い外来生物です。
ちなみに、スクミリンゴガイは夜になると水面に出て、壁面に卵塊を産み付けます。夜間に田んぼや水路の壁面をのぞくと、スクミリンゴガイが卵塊を産み付ける姿を見られます。ひと粒ずつ吐き出すようにして卵塊を作るのです(写真)。
② アメリカザリガニがウジャウジャ(条件付特定外来生物)
私たちにとって、アメリカザリガニは身近な生き物です。子どもの頃、タモ網や釣り(糸+スルメ)で大量に捕獲していました。
昨年から、近所の水路でアメリカザリガニの捕獲を続けています。アメリカザリガニは在来生物の捕食だけでなく、魚類の産卵床や棲み家となる水草類を切断するという性質があります。この性質によって、アメリカザリガニは日本各地の多様な生態系を破壊しています。
ちなみに、私が捕獲したアメリカザリガニは、すべてわが家のアカミミガメが食べてくれます。ザリガニに対するアカミミガメの嗜好性は非常に高く、1日に10~20匹をペロリと捕食します。昨年は2匹のカメだけで、(おそらく)2,000匹以上のザリガニを平らげてくれました。
2,000匹以上のザリガニ駆除が在来生物の保全にどれだけの効果をもたらすかは、はっきりいって不明です(カメ2匹分の食事量に過ぎないとも言えます)。
ですが、少なくとも夏から秋にかけて、わが家のカメは大好物のザリガニをたらふく食べることができます。また、私にとっては、夜のザリガニ捕りは遊びです。生態系保全と趣味を兼ねて、ひたすらザリガニ捕りを楽しんでいます。
外来生物の駆除は終わりのない地道な活動です。だからこそ、効率の良い方法を模索しつつ、楽しみながら続けることが肝心だと思います。
③ メダカ?と思ったら半分以上はカダヤシ(特定外来生物)
6月頃、わが家の周辺では、田植えのために水路の水位が上昇します。こうなると、魚たちの行動範囲が一気に広がります。
水面をのぞくと小魚が泳いでいたので「メダカだ!」と思ってタモで掬いました。わが家の庭に設置したコンテナビオトープに導入するつもりでした。
ですが、ふと気になって観察ケースで確認したところ「カダヤシ」が混ざっていました。カダヤシは特定外来生物です。許可なく飼えば「1年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金」。あっぶな!(*1)
在来メダカの保全を目的として、何度かメダカの捕獲を試みています。そのたびに、カダヤシの判別・駆除をするのですが、半数以上がカダヤシ、という場合がほとんどです(先日は、7匹のうち、カダヤシ×6匹、メダカ×1匹という割合でした)。
カダヤシはメダカよりも繁殖力が強く、他の魚種への攻撃性が高いため、競合するメダカを駆逐しつつある、と言われています。また、在来メダカはカダヤシよりも水質汚染への適応性が低く、さらに産卵に必要な水草類の減少も相まって、その数を減らしています。
そのため「メダカと思ったら全部カダヤシ!」という状況が各地で起きているそうです。わが家の近所は、カダヤシがメダカに置き換わってしまう過程なのかもしれません。
みなさんも、カダヤシトラップ(メダカと思って持ち帰ったらカダヤシ)にご注意ください(慣れると、上から見た模様の違いや、体長によって判断できるようになります)。
④ アカミミガメがすいすい(条件付特定外来生物)
いまや、日本のどこでも見かけるようになったアカミミガメ。私の近所でも、そこら中で姿を見かけます。日中、のんびり日光浴をしているように見えるカメですが、少し近づくだけで水に飛び込んで逃げてしまいます。カメは非常に警戒心の強い生き物です。
ですが、夜間は別です。水路を歩いていると、水面で寝ているカメによく出会います。こうしたカメは簡単にタモ網で捕まえられるのです。
昨年だけでも、アカミミガメを10匹近く捕まえました。アカミミガメを30年以上飼育している身としては、すべてわが家で飼育したいところですが、2匹が限界です。苦しまないように〆たうえで、畑の肥やしとなっていただいています。
(*1)生きた個体の移送も禁止なので、(厳密に言えば)近所とはいえ持ち帰った時点で違法です。ですが、夜間の採取なので、カダヤシとメダカを現場で区別するのは難しい(慣れれば簡単です)。。慎重に取り除いたカダヤシは、カメの餌にしています。
(*2)参考資料:スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)
国立環境研究所, 侵略生物データベース(スクミリンゴガイ)
『スクミリンゴガイ防除対策マニュアル』(令和5年, 農林水産省消費・安全局植物防疫課)
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