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Vol.3 「逸話」だけでは「神様」になれない

普段頭で考えていることをいざ書いてみると、案外面白くないと気づいたり、ロジックの甘さを見つけてしまったり、文章を書く難しさを痛感する今日この頃です。

さて、今回から2回に分けて、経営理念を収益より優先する意義について書きます。
そして、大胆にも、パナソニックの創業者である松下幸之助さんとウォルト・ディズニーさんを比較して、それがどういうことかを考えてみたいと思います。

しばらくディズニーかぶれした内容が続きます(笑)


経営の神様

みなさんは「経営の神様は?」と聞かれたら、誰の名を思い浮かべますか。日本人であれば、ほぼ100%、松下幸之助さんの名前が挙がると思います。
そりゃそうでしょう。「経営の神様」は松下幸之助さんの枕詞のようにセットで使われているのですから。

実際、松下幸之助さんは、間違いなく史上最高の経営者のひとりです。
その考え方は今の時代でも十分通用します。それどころか、今の時代でこそ真価が発揮され、ご存命であれば、右に出る人はいないレベルの経営手腕を振るうのではと思うぐらいです。

そして、松下幸之助さんの影響を受け、松下幸之助さんを尊敬する経営者は数多く存在します。ソフトバンク創業者の孫正義さん、ファーストリテイリングの柳井正さん、エイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄さんなど、そうそうたるメンバーが名を連ねます。海外にも影響を受けた経営者は多くいますし、その評価は妥当です。

でも、松下幸之助さんが創業した会社、パナソニックの状況を見ても、本当にそうだと言えるのでしょうか。松下幸之助さんの影響力がなくなった後のパナソニックは、お家騒動、大赤字、V時回復しては急降下と、迷走を繰り返し、一度も安定期を経験していません。株価も低迷しています。これが本当に経営の神様が生み出した産物と言えるのでしょうか。

経営者というのは、本人の代が終わった後の会社の安定感も含めて評価されるべきではないでしょうか。経営の神様ともなればなおさらです。
本人の目が行き届いている間の安定は、カリスマ性でカバーできます。でも肝心なのはその後で、本人が退いた後の安定は、遥か未来を見据えて綿密に準備していなければ実現できません。

その視点から、私の中の「経営の神様」はウォルト・ディズニーさんです。

ウォルト・ディズニーさんが作ったディズニーは、大成功をおさめただけでなく、ウォルト・ディズニーさんがいない今も圧倒的な安定感を維持しています。この点が決定的な違いなのです。

ではどうしてこのような差が生じたのでしょうか。
理由はたくさんあると思いますが、その真因の一つとして、経営理念が収益より優先されていないから、というのが私の推論です。

このように考える根拠について、両者の書籍を比較して示そうと思います。

「逸話集」と「経営学」

経営に関する書籍はたくさんあります。
ところが、何十年も読み継がれる書籍はめったにありません。

そのような中、松下幸之助さんに関する書籍と、ディズニーに関する書籍は非常に多く発刊され、しかもその多くが何度も増版されるロングセラーになっています。
そして、どちらも多くの経営者が読み、学び、経営に活かしています。
その点で、両者は同程度の影響力を持っています。

でも両者には決定的な違いがあります。

それはいったい何でしょうか。書籍の種類に注目してみると違いが見えてきます。

松下幸之助さんに関する書籍は、松下幸之助さん自身のことを書いたものがほとんどです。経営に関する書籍にも、松下幸之助さんの語録や事例が多く登場します。
このような発言で感銘を与えた。このように行動して危機を乗り越えた。このように人を育てた。など、それぞれの逸話は今の時代に見ても、感動せずにはいられないものばかりです。
本当に素晴らしい経営者だったのだということが伝わってきます。
ところが、松下幸之助さんの書籍はいずれも「逸話集」にとどまっているのです。つまり、経営学に昇華していないのです。

ではウォルト・ディズニーさんはどうでしょうか。
ディズニーに関する書籍においても、さまざまな場面でウォルト・ディズニーさんの言動をベースに説明がなされますが、その量は少なく、必要最小限です。
ディズニーがなぜ人の心を掴んで離さないのか、その秘密が経営手法や人材育成、職場風土の観点で語られ、それらの根底の思想としてウォルト・ディズニーさんの逸話が語られるのです。
もうお分かりでしょうか。
ウォルト・ディズニーさんの考えや教えは「経営学」として体系化されているのです。
そして、それがディズニーの中で脈々と受け継がれています。

それだけではありません。ディズニーの神対応の逸話は、今もなお、日々生まれ続けています
それも経営者ではなく、お客様と直接接する現場で、キャスト(従業員)が生み出しています。
このことがその違いを全て物語っていると言えます。

業態の違いは関係ない

ここで、そもそもディズニーとパナソニックは業態が違うから比較できないのでは、という意見もあるでしょう。

でもそれは正しいのでしょうか。
社員のモチベーションを高める風土、同じベクトルで仕事をする仕組み、そういった経営手法は業態とは無関係です。
また、ディズニーはテーマパークだけでなく、キャラクタービジネス、グッズ販売、映画、BD/DVD販売、映像配信、ゲームなど、電機メーカよりはるかに多角化した経営を行っています。
そして、テーマパーク自体、考えてみれば巨大なハードウェアです。勿論収益構造は異なりますが、ハードウェアを扱う以上、共通点はいくらでも挙げられます。
違いがあるのは当たり前ですが、業態が違うから比較できないと言ってしまうのは、考えることを放棄すること、諦めること、負けを認めることになります。
違いを考慮した上でその思想に触れると、宝の山にしか見えません。

神対応にしても、ディズニーは顧客に接する事業が主だからたくさんあって当然だと思うかもしれません。
では、パナソニックは顧客に接しないのでしょうか。
まさかそんなことはあり得ません。民生品を売っている限り顧客との接点なしにはビジネスは成り立たないし、クレーム対応、修理対応、電話対応など、実際には顧客接点だらけです。業務用(BtoB)でも同じです。基本はどんなビジネスにも相手がいます。

そして、もうひとつ。それを言うなら、その他のテーマパークや遊園地はどうなのか、考えてみてください。
そんな神対応の逸話が量産されているテーマパークや遊園地が他にあるでしょうか。
そうです。これはディズニーの業態だからできる、ということではないのです。ディズニーだからできることなのです。
だからこそディズニーが強いのです。

ということで、業態の差は関係ないと理解していただいたとして、では「逸話集」か「経営学」かという違いが、経営理念を収益より優先することとどう関係するのか、そしてなぜ今の結果を生んでしまったのか、ということを考えていきます。

まとめ

長くなってきたので、今日はここまでにします。次回も読んでいただけるとありがたいです。よろしくお願いします。

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