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Vol.27 「ビジョンドリブン」における「ありたい姿」を考える

前回前々回では、ビジョンドリブンに必要な「想像力」が欠如している例を紹介しました。
「ビジョンドリブン」では「ありたい姿」を想像する力が必要です。
でもこの「ありたい姿」というのはどういうものなのか、意外と難しいので、今回説明してみようと思います。
なお、前回は少し話が大きくなってしまったので、スマホの話に戻します。
ミクロもマクロも考え方は同じです。フラクタル経営です。


「ありたい姿」は達成されなくてもよい

「ありたい姿」は達成可能な目標ではありません。
目指す姿、理想の状態、です。

例えばスマホの件では、以下のような状態が理想ではないでしょうか。
・目の前で起こっていることをすぐに記録できる。
・記録した情報をすぐに利用できる。
・情報を提供したい相手に、すぐに伝達できる。
・将来必要とする人も、情報を簡単に入手できる。


この時点では、まだスマホというキーワードは出てこないのがポイントです。スマホは手段でしかないからです。
本当にやりたいことは何なのか、それが「ありたい姿」であり「ビジョン」です。

この「ビジョン」は普遍的なものです。
少々変わることはあっても、本質的にこうなっていることが理想です。

そして、これは目標ではないのです。
目標は達成するために立てるものです。

でも、ビジョンやありたい姿は、常に目指し、近づくための指標です。
達成することは狙いではありません。

むしろ、達成できそうなビジョンはリスクを伴います。
例えば「全社員がスマホを持つ」というビジョンはどうでしょうか。
これだと、達成された瞬間に完成してしまいます。
そしてその瞬間から、今と同じ保守的な状態が始まるのです。
スマホより優れた手段が出てきても、誰も改善しようとしなくなります。
そう考えると、ありたい姿やビジョンには、手段が入っていないことが望ましいと言えます。

一方、上記の「ありたい姿」であれば、時代が変わり技術が進化すれば、手段が変わり、常に改善され続けます

今はたまたまスマホが「記録」の手段として最適なだけなのです。
スマホがあれば、いつでもどこでも、すぐに写真や動画が撮影できます。
会社が利用しているクラウドにアップロードすれば、すぐにPCで使うこともできます。
でも永久に最適でしょうか?いえいえ、そんなことはありません。

将来もしかしたら、ウェラブルカメラになるかもしれません。
会社中にカメラが設置されて、撮影することを意識しなくてもよくなる時代になるかもしれません。
このように、ビジョンは変わらないけども、手段として何が最適かは分からないし、変わり続けるのです。

「本当にやりたいこと」に目を向ける

もう一つ大事なことは、「記録」だけが課題なのではないということです。当たり前ですね。撮影だけしても意味がなく、「利用」「伝達」「入手」までが「本当にやりたいこと」に含まれます。

PC、ノートPC、インターネット、デジカメ、携帯電話、スマホ、クラウドと時代が変化するのに伴い、「記録」「利用」「伝達」「入手」それぞれが進化を続けるイメージです。

そして今は、スマホが「記録」を担い、「利用」「伝達」は、PCやインターネットが活躍しています。

でも、「入手」はまだまだ未熟です。
せっかくの情報や暗黙知を後世に伝えることは、どの会社でも大昔から苦労の種です。レポートという形式知として残しても、新しい情報に埋もれて誰も見なくなります。

皆さんのところで、社内の用語集を作ったことはないでしょうか。
こういうのは、とても有難がられ、最初はメンテもされます。
でも、1ヵ月も経つと、ファイルやサイトがどこにあるのか分からなくなり、メンテする人もいなくなり、知る人ぞ知る情報源になってしまいます。(そんなことなかったでしょうか?)

一方世の中は、どこの誰が書いたか分からない情報まで、かなり効率よく検索できる技術が発達しています。これがなぜか企業内では活用されていない印象です。
ところが、近年、AIナレッジベースなるものが出てきて、注目が集まっています。収集がつかなくなっている過去の情報をとにかく放り込んでおけば、質問に対して適切な回答を出してくれる、というわけです。
これは「入手」の救世主になる可能性があります。

少し話が逸れてきましたが、社員がスマホを持っていないという課題の本質はこういうことなのです。

ギャップを埋める考え方

こうして「ありたい姿」を描くと、現状とのギャップが分かります。
なので、次に行うのは、そのギャップを埋めることです。

再度「記録」としてのスマホに話を戻すと、少なくともデジカメでは時代遅れなので、スマホの導入を目指したいところです、かといって大企業で一気にそれを進めることができるかは分かりません。

でも、手段を固定していないので、柔軟に考えることができます。
前回の、個人スマホを利用する課題をベースにすると、以下のように考えを進めることができればよいのではないかと思います。

「最近、個人スマホで写真を撮っている人が多い。
情報セキュリティ的に大問題だ。
ひとまず、絶対に使わないように徹底指導しないといけない。
でも、現状のデジカメでの撮影は非常に非効率だ。
そもそも時代遅れだ。
現在の「記録」手段はスマホが当たり前だ。
全員が社用スマホを持たないと本質的な解決にならない。
つまり現時点の最適解は、全員が社用スマホを持つことだ。
何とかできないか上に掛け合ってみよう。
でも駄目だったらどうしようか。
全員でなくても、せめて係長以上が持てないだろうか。
あるいは、スマホに代わる撮影手段はないだろうか。
社用PCを背面カメラがある機種に変えれないだろうか。
全員にネットワークカメラを配布したらどうだろうか。
少しは改善するだろうか。
でも備品管理は増えるのかな。
・・・」


すみません、妙案はないです。
でも大事なのは、思考停止していないことです。
考え続ければアイデアが出てくるものです。

また、ここまで考えた上で個人スマホの利用をやめるよう徹底すると、押しつけではない言い方になるはずです。
「現状のルールに課題があるのは分かっているので申し訳ないのですが、ひとまず情報セキュリティの観点から、個人スマホを使わないことを徹底してください。社用スマホを持てる人を増やすなどの対策ができないか、申し入れてみます。」
ぐらいにはなると思います。

まとめ

今回は、「ビジョンドリブン」の肝になる「ありたい姿」「ビジョン」について書きました。
これがうまく作れると、大きな求心力になります。ベクトルが生まれます。
「今の最適は将来の最適ではない」という考えが身につくと、変わることが当たり前になります。

そして、この考え方は、スマホというミクロな課題だけのものではなく、組織運営、開発テーマ、人材育成、経営など、全てにおいて有効であることが分かっていただけるのではないかと思います。

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