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『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』特典動画を見た

藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』の特典動画が余りにも素晴らしかった。この動画を見るために書籍を購入しても良いくらいです。それくらい素晴らしい動画だったので、宣伝も兼ねて見どころや感想を残しておきます。

出版に当たって(冒頭雑談)

「この本を出すために棋士となったと言っても過言ではない」という言葉が飛び出すこの動画、『藤井猛全局集』出版に当たっての裏話があれこれと出てきます。

ここで最も興味深かったのは第4部「棋譜編」のお話。『大山康晴全集』を並べたことで有名な藤井先生は、読む立場としても、解説の無い棋譜だけの「棋譜編」が大好きなのだそうです。解説が無くて難しいという声もありますが、その理由は動画にて。

私は第4部の棋譜編を順に並べていっているので、このまま引き続きお気に入りを見つけていこうと思います。

また、『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』が想像を超えるページ数になってしまったので片手で持つのは難しいという話も出ていましたが、私は写真のような感じでブックスタンドを使って棋譜並べをしています。ブックスタンドおススメです。

我が家の棋譜並べ環境

その他、

  • 第二巻で終わりの理由

  • 前回の出版から2年以上かかってしまった理由

  • 専門的な藤井システムの本を出そうとしたこともあったがお蔵入りになった話

等々メインコンテンツに入る前から濃い話が続々出てきました。本にできなかった話は結構重く、逆に出版された本については藤井先生は自信を持って世に送り出したものだと言えます。藤井先生の書籍は信頼できます。

この動画のメインコンテンツは『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』に収録されている将棋の自戦解説ですが、有名な将棋ではなく、藤井先生ご自身が「上手く指せたな」と思う将棋を取り上げたとのことです。何の将棋が取り上げられたかもここでは触れないようにします。藤井先生が選ばれた将棋は私も知らない将棋でした。

自戦解説

第1局

藤井九段チョイスの一局で、藤井猛竜王が四間飛車で勝てるだけ勝とうとしていた時代の将棋。

相手の棋士は位取りで抑え込んでくる棋風だというのが分かっているので、どういう駒組みをするかというのが序盤のテーマでした。これが面白すぎました。この動画で「藤井システムは生き物」という言葉が出てきます。その日の気分や相手によって柔軟に手を変えていく。本局はその具体例として解説されています。早い☖1四歩に端を受けなかった理由、☖8五歩☗7七角の交換を咎めに行こうとしたアンテナ等々。ここでは一切評価値の話はできません。どう考えてその手を選んだか、その一点のみです。こういう解説が良いのです。

中盤は「攻め、受け」の切り替えの考え方と、大山流の駒を寄せていく指し回しのお話。攻めと受けの切り替えや大山流の駒運びというのは難度の高いところですが、藤井猛竜王はこの将棋で見事に成功させました。そして極めつけは、ポイントを稼いだところから、具体的にどう良くしていくかというところの解説があるところ。藤井将棋の強さを感じる将棋には、中盤以降一気に突き放すというパターンがあります。この将棋はまさにそのパターンで、その具体的な考え方が藤井先生によって示されています。この解説がなくても「藤井先生強い!!!」と叫ぶ将棋だったと思いますが、解説を見てより強さを感じられるものになりました。本当に貴重な動画です。

第2局

こちらも藤井九段チョイスの一局で、「誰と指しても負ける気がしなかった」というほど絶好調の時期の将棋。

第1局もそうでしたが、☗7八銀(☖3二銀)を早めに立つかどうかの話が出てきます。藤井先生の中には論理的な組み立てもあるはずですが、ここで出てきたのは極めて人間臭い実戦的なお話。藤井将棋には理知的な面も感覚的な面も混在しているのが分かります。藤井将棋の魅力の一つ。

この将棋は独特の「藤井理論」があちこちに飛び交います。一見して無理なように見えても、そこに「藤井理論」があり、それを押し通してちゃんと勝ちにしている。特に「端の位をそこまで重視しない」話や、「大駒は取るよりも遊ばせる」話は驚きましたし、参考になりました。

寄せ方も独特のガジガジ流ですが、藤井先生が自画自賛するほど(棋士の自画自賛もまた良い)一切の緩みの無い寄せだと言うことが分かります。

本局を見て、私が好む藤井将棋のパターンもなんとなく分かってきました。「一歩竜王」もそうですが、通常の形勢判断の指針(駒得、手番、玉の堅さ、駒の効率)を度外視した展開でも、そこに藤井先生独自の理論があり、確かにそれで藤井先生が良いというような将棋です。本局も途中瞬間的に相当駒損をするのですが、ちゃんと藤井理論があり、勝ちに持って行った将棋でした。そうした将棋の解説を聞けるのは大変ありがたいことです。

第3局

こちらは西山女流三冠チョイスの一局。これは藤井九段ファンには有名な将棋ですが、藤井先生ご自身による解説を聞くのは初めて。特に先手藤井システム対☖5五角急戦で☗4七金の形の解説は少なく、この将棋の解説を聞きたかったファンは多いと思います。よくぞこの将棋を選んでくださいました。西山女流三冠は『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』に収録された将棋をすべて見てこの将棋を選ばれたとのこと。素晴らしい。また、「色んなやり取りがあった末にこの序盤の手順が現れたのではないか」というのはさすがの感想だなと思いました。藤井先生としても、この将棋は第2部自戦解説編収録候補だったと言います。

序盤の解説で面白かったのは、居飛車穴熊を相手にする苦労と、藤井システムで急戦を受ける苦労の話。藤井システムを急戦で受ける不満の声を一蹴しています。ここの話も藤井九段独特のものかもしれませんが、藤井システム創始者の矜持が垣間見え、カッコいいです。

この将棋は、一見危険に見えても隙を見て玉を☗2八まで持っていく呼吸が素晴らしく、両取りを喰らっても(当然読み筋で)ギリギリで攻めを繋いでいく手、そして自陣の憂いをなくす☗8八銀と打った手が印象的です。終盤追い込まれた将棋でしたが、西山女流三冠ほどの人が「完勝だと思った」と仰っていたので、人の将棋の形勢判断は難しいのだなとなんとなく安心しました。

質問コーナー

ここから「一歩竜王」Tシャツをお召しになる藤井先生。西山女流三冠は「部屋着にしている」ということでしたが、この言葉はあまり信用していません笑

採用された質問を以下に並べていきます。回答はぜひ動画でご確認ください。

Q1. 今回の第2巻執筆にあたり最も苦労した点は?

意外な回答でした。藤井九段の解説や文章は細かいところまで気を遣われているものだとよく分かります。

Q2. 振り飛車党は孤独、居飛車党は団結しているような印象もあるのですが、当時振り飛車党が団結して穴熊に立ち向かう動きのようなものはあったのでしょうか?

この回答は予想通りでしたが、西山女流三冠が仰る「西山女流三冠の棋風に似ている人」が誰か気になりました笑

Q3. 第12期竜王戦の☗5八金右のように、隠れた藤井新手が他にあれば教えてください。

予想以上にたくさん出てきました!貴重な回答のオンパレードです。実戦で指したものの不発だったというお話も。特に2004年に既に振り飛車ミレニアムを目指していたという話は驚きました。これ以外もたくさんたくさんあるんでしょうね。

Q4. 藤井猛先生と同じ美容室に行ったことがあるのですが、藤井先生は美容室だとどんなお話をされるのですか。

※『最強藤井システム』と『藤井猛全局集 竜王獲得まで』が置いてあるヘアサロンらしい

西山女流三冠が自分の職業を秘密にしている話は笑いました。

Q5. 藤井先生の美濃囲いが残ったまま鑑賞する将棋も好きですが、守りの要の駒を取らせて一手差で勝つ将棋は本当にかっこ良いと思っています。自分はついつい安全勝ちを目指し、一手差でカッコよく勝つことができません。何を意識してやっているのでしょうか。また、藤井先生はいつ頃からそれができるようになりましたか。

良い質問で、「藤井先生はどういう勝ち方を目指しているか」という話が出てきました。安全勝ちは危ない。この話も必聴です。

Q6. これまでの棋士人生の中で、もし一度だけやり直しがきくとしたら、何をやり直したいですか?

こちらの回答は将棋情報局編集部のTwitterで一部小出しされています。

もちろん回答はこれだけではありません。独学が通用する時代だったという話も興味深いところでした。

西山女流三冠のスペイン語学の話も面白い。多才ですね。

Q7. 全局集は第2巻までということで残念です。今後、戦型を絞った名局集や勝局集を出して欲しいですが、いかがでしょうか。

こちらの回答には思わずニヤリとしてしまいました。詳細は動画をご覧いただきたいですが、しばらく『藤井猛全局集』を楽しんだ後、藤井将棋に飢えた藤井ファンが全員で「2006年度以降の藤井将棋を並べたい」「角交換振り飛車の藤井将棋を並べたい」「藤井矢倉の藤井将棋を並べたい」と声を挙げれば何かしらの形で何か出るのではないかと思いました笑 あと、「名局なんてないでしょ」という藤井先生に山本博志五段の名前を出して否定する西山女流三冠が最高でした。

おわりに

この特典動画は本当に素晴らしい内容で、誰かとこの感動を共有したいのですが、Twitterでも動画の感想が少なく悶々としています。ぜひ多くの藤井ファンにこの動画をご覧いただいて、じゃんじゃん感想がTwitterに上がれば良いなと願っています。

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