盛上駒と脚付き将棋盤を買った話
『藤井猛全局集』が発売されたので、盛上駒と脚付き将棋盤を買いました。
動機
最近は週末に『藤井猛全局集』を盤駒で並べ、感想をブログに残すようになりました。
ちゃんと盤駒で棋譜を並べる習慣がついたことで、元々いつかは欲しいと思っていた本榧の将棋盤と盛上駒の購入欲が爆発したのです。
ちなみに元々の棋譜並べ環境はこちら。
盛上駒(静山作/錦旗書/島黄楊)
まず購入したのは盛上駒。私は顔真卿を愛してやまない人種ですが、どうも将棋の駒には合いそうにない。これまで購入欲が高まるたびに色々駒を見てきて、結局最も自分の好みだと思ったのは金井静山の錦旗でした。
静山錦旗は極めて自然な書体であるにもかかわらず、胸を打つものがあります。中庸の美の極致。長い期間棋譜並べをするならば、こういう書体が良い。
なので買いました。
かなり古いもので、おそらくは50年以上前に製作された駒です。木地は良いものではありません。普通の柾で、やや赤みがあり、薄く斑が入っているものはありますが、ほとんど無地と言っても良く、駒によって厚みのばらつきもあります。傷も多いです。
それでも素晴らしいこの書きぶり。この書に惚れ込んだのです。いつかは新品で木地から美しい盛上駒を買いたいと思っていますが、上記のような理由で安く手に入ったこの盛上駒を常用使いとし、当面この静山錦旗と付き合っていきます。
ちなみにこの駒を丸八碁盤店さんに持って行って金井静山の話を聞いていたら、「磨いてあげようか」と言ってくださいました。汚れもかなりありましたが、一目で違いが分かるほどぴかぴかつるつるに。ありがとうございました。
脚付き将棋盤(鹿児島県産/本榧/五寸七分)
自分の棋譜並べスタイルは机の上に盤駒を広げるもので、二寸程度の卓上将棋盤を探していました。自分の好みは以下の通り。
細かい柾目であること(天面だけで良い)
木目が強すぎないこと
一枚板であること
赤みが強くないこと(黄系が良い)
手持ちの静山錦旗盛上駒に合うもの
ネットショップやTwitterで教わった碁盤店を見てまわりましたが、吉田将棋碁盤店さんでは三代目と四代目に色々とお話を伺うことができました。
自分の好みの1つ目〜3つ目を満たすような卓上将棋盤は今ではそうそう出てこないこと、木目がなぜその木目になるのか(木の産地、気候、周辺の環境といった話)、盤によって脚の作りを変えていること、打ち付けたときの音の響きの話、将棋盤の値段設定今昔話……。実際に将棋盤を見せていただきながら、さらに駒も並べさせてもらいながら、じっくり将棋盤のことを教わりました。話を聞いていると、自分の好みでは無かったはずの板目や赤い将棋盤のことも好きになってしまう。将棋盤を生きた木として見れば、一つ一つの個性に惹かれていく訳です。これには参りました。
とは言え、見せていただいた卓上将棋盤には心の琴線に触れるものはありませんでした。どんな将棋盤にも良さを見出してしまう今となっては、観た瞬間「これだ!」と思ったものしか買えない。
そうしたら脚付き将棋盤に理想的な木目の将棋盤がありました。別に棋譜並べは机の上じゃなくたって良い。これだ!
なので買いました。
きめ細やかで派手すぎず、木の中心から外側に穏やかな波が打ち寄せていくような天面の柾目。色ムラも少なく上品です。木口(側面)の大きな年輪には、この木が過ごしてきた時代に想いを馳せることかできます。
そして写真では分かりづらいですが、天面にはほんの幽かに斑模様が出ており、これがシンプルな模様にちょっとした変化を与えています。
機械的ではない自然の美がここにあります。
美しい見た目をしていますが、一般的に最も高級と言われる日向産ではないことや、側面にキズがあることから、六寸盤にしてはお手頃価格でした。吉田将棋碁盤店さんにはそこからさらに安くしていただいて、感謝しかありません。
この将棋盤は一生モノ。大事に手入れしつつ、良い色に育てていきたいと思います。
その他
駒台(島桑/一本足)
突如六寸盤を購入することにしたので、考えても無かった駒台をその場で吉田将棋碁盤店さんに見繕っていただきました。
五寸七分にちょうど良い島桑の駒台がありました(写真はカーペットの上に置いているので将棋盤が低くなっていますが)。駒台には一本足か四本足のものがありますが、一本足にはスマートさがあります。「金桑」と言われるのが良く分かる、光るような色合いが美しい。将棋盤も盛上駒も落ち着いたものであるため、駒台が良いアクセントになっています。
駒箱(本桑/ウレタン仕上げ)
駒箱は本桑のものを。井上一郎碁盤店さんで購入しました。これもシンプルな模様のようでいて、銀目が入っており、美しさとちょっとした変化とがある自分好みのもの。
駒袋
駒袋はシンプルに日本将棋連盟で売られているものにしました。扇と好みの桜の柄の物を選択。
実際に並べてみて
こうして極上の棋譜並べ環境が誕生しました。
この盛上駒と将棋盤で、既に数局棋譜並べをしました。立派な盤駒で指す多幸感というのは間違いなくあります。盛上駒においては、盛り上がった漆の立体感と理想の書体という視覚的な美しさ、黄楊駒の触り心地が。将棋盤においても、天面模様の視覚的な美しさ、本榧独特の薫り、将棋盤から広がる厚みのある駒音が。様々な感覚が「良いものを使っている」という気にさせてくれます。
使ってこその道具。手入れしながらたくさん使っていきたいと思います。
ますます『藤井猛全局集』を並べるのが楽しみになりました。みんなも『藤井猛全局集』と盛上駒と本榧将棋盤を買うんだ。