見出し画像

「西荻一歩竜王会」参加レポート

はじめに

2023年3月12日、囲碁・将棋スペース「棋樂」さんで行われた「西荻一歩竜王会」に参加してきました。

ポスター(イベント案内/「棋樂」ホームページ)

このポスターを見かけた瞬間、内容とか会費とか何も見ずに、とりあえず申し込み。一期一会のようなこういうイベントは参加する一手。後で内容見て目玉が飛び出ました。

棋樂へ

棋樂は初めて。そもそも西荻窪に降り立ったのも初めて。絶対にこのイベントに遅刻できない強い意志を持った私はイベント開始1時間前の12:00に西荻窪に到着しました。

モスバーガーで時間を潰し、12:55、いざ棋樂へ。恐る恐る扉を開けると「一歩竜王」Tシャツを着た参加者の方々が。

こちらが一歩竜王Tシャツ。『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』とセットでも単品でも買えます。今すぐ買うんだ→「藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘 愛蔵版」ご注文ページ

「浮かれてるな~~~分かるな~~~」と微笑んでたら藤井先生も「一歩竜王」を着ているではないか。

藤井先生「涓滴さんは着てきてないんですね」

今日は「西荻一歩竜王会」。そうか、そういう日か。失敗した。今日は「一歩竜王」Tシャツを着てくるのが正解だったか。ここ半年で激太りしたので「服入るかな~」と心配していたが筋違いでした。

第12期竜王戦七番勝負第1局の鈴木大介六段のように出端をくじかれた格好に。

開会のご挨拶。

先崎先生「普段は指導対局をみっちりと受けていただくのですが、今日はコーヒータイムというアトラクションも用意しています。お楽しみに。」

藤井先生「『一歩竜王』って私が書いたかのように使ってますけど、本当は先崎さんが発祥。先日先崎さんと会った時そんな話をしたらこのイベントが決まりました。コーヒーは普段私が飲んでいるものそのままを提供しようと、重い荷物を抱えてきました。味もいつものように、私の好みの濃さで淹れます」

最高か。

一局目 先崎学九段指導対局(四面指し)

先崎学九段と駒落ちと言えば『駒落ちのはなし』。これが面白くて、いつか先崎先生の指導対局を受けたいと思っていました。まさかこのような形で実現するとは。

手合いは飛車落ち。よろしくお願いします。

先崎学九段指導対局(飛車落ち)棋譜

棋譜に簡単なコメントを入れました。かなり緩めていただいてめっちゃくちゃめ~~~っちゃくちゃ気持ち良く勝たせていただきました。「非の打ち所がない」「四間飛車の名局」「☗6六角が素晴らしい手」。おだて上手!!!

それにしても先崎先生の指導対局、最終盤う~んと悩まれている方に「将棋は詰む詰まないを考えているときが一番贅沢な時間なんだ」と仰っていて、将棋の味の良さというものを一番よく知っている方なんだなと思いました。とても良い。

コーヒータイム&大盤解説

やって参りましたメインアトラクションコーヒータイム。藤井先生と言えばコーヒー。『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』でも『ブルーマウンテン』が収録されています。

誰もが憧れる藤井先生のコーヒー。でも「藤井先生のコーヒーを飲んでみたい」とは思わない訳です。非現実的過ぎて。許されるのは山本博志四段だけです。それがまさかイベントで実現するとは……。

藤井先生御用達のハンドドリップセットを机上に展開する藤井先生。ほほう、あれが藤井先生のドリッパー。カップ、スプーン、ミルク、砂糖、お菓子、何でも出てくる。藤井先生、大荷物を運んでいただいてありがとうございます。

ところがここでハプニング。コーヒーミルがない。まだ指導対局が終わっていないところもあり、藤井先生が先崎家の電動自転車を借りて急いで取りに帰る突然の展開に盛り上がるオーディエンス。

将棋連盟ライブ中継アプリで王将戦の経過を確認していたら藤井先生帰還。早い。これが電動自転車の力。ほほう、これが藤井先生のコーヒーミル。

ところがここでハプニング。コーヒーサーバーがない。度重なる自分のミスにボヤく藤井先生。こういう雰囲気の感想戦見たことある。さすがにもう一度帰る訳にもいかず、カップに直接注ぐことになりました。

それにしても客向けの物は完璧に揃っているのにご自身が使われるものを忘れるというのは、これはこれでファン想いの藤井先生らしいなと思いました(何でも良い方向に捉える)。初めての試み、こんなアクシデントはつきものです。

コーヒー豆はやなか珈琲の「マドリスSHGスペシャル」(ニカラグア産)。
コーヒーを挽く藤井先生

藤井先生「本当は午前中にコーヒーを挽いてから来ようと思ったんですけど、研究の結果5時間経つと味がだいぶ変わることが分かったのでここで挽くことにしました」

本当にこだわりが強くて優しい先生だなぁ。

コーヒーを淹れる藤井先生。カップも先に温めていただいてました。目盛り等がなくてさすがに不安そうでした。
藤井先生に淹れていただいたコーヒーと、持参いただいたレリアンのフィナンシェ。

藤井先生は苦みのある濃い目の味がお好きだそうですが、私も濃い目の味が好きなので、私にはドストライクの味でした。大変美味しかったです。お世辞とかではなくて本当に美味しかったです。私はついに藤井先生が淹れたコーヒーをいただいたのだ。

そしてこのカップ、藤井先生から「持ち帰って良いですよ」というお言葉。手土産がまさかのコーヒーカップ。こんなことがあるんですか?と混乱しながら持ち帰り用の袋をしっかりいただく。

ちなみに藤井先生、こうして挽いてお飲みになるのは夜だそうです。私は朝と15時に飲むので衝撃。

藤井先生「夜眠くならないとか関係ないです。朝何時に起きてるか?それは言えません」

びっくりしたのは塚田五段の生活ぶりですね。当時の塚田さんは東京・青山の高校を卒業したばかり。強くてかっこよくて、田舎の中学生から見たら、最高にイケてるんですよ。忙しそうじゃないし、出勤もない。朝も自由で、こんなことして生きていける職業があるのかと思った。将棋指しって、すげえなあと思った。それからは棋士が夢の職業になった。

藤井猛『僕はこうしてつよくなった』/『将棋世界』2014年9月号(日本将棋連盟)

藤井先生、夢を叶えられたのですね。

まったりコーヒーを飲みながらここが桃源郷かと思っていたら「そう言えば一局解説するんでしたね」と大盤解説開始。

おもむろに始まった大盤解説

選ばれたのはまさかの将棋、第13期竜王戦七番勝負第5局、藤井猛竜王 対 羽生善治五冠。「まさか」というのは、この将棋は藤井先生にとって非常に良くない将棋だったはずで、『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』でもこの将棋は自戦記編にも自戦解説編にもありません。私も当時の観戦記は貪るように読んでいたので、「藤井暴発」の見出しは覚えていました。

だからこそこの将棋を選び、なぜこの手を選び、なぜあのような展開になったか、ここで解説してくださるというのです。

ちなみにこの将棋、『3月のライオン』に出てきます。そう言えば先崎先生監修……。

解説内容は参加者のみのお楽しみというところですが、最後に「この将棋に負けたけど、もし勝っていたら最後の『一歩竜王』は無かった。何があるか分からない」というお言葉。確かにそうだ。でも勝った者にしか言えないことだなとしみじみしました。

二局目 藤井猛九段指導対局(四面指し)

藤井先生の指導対局は過去4回受けたことがあり、1勝3敗。厳しめに指導していただいているが、これが嬉しい。しかし今日の私は強い。なんせ先崎先生にこれでもかというほど褒められ天狗になっている。良い将棋が指せるに違いない。鼻を伸ばしながら駒を並べているその時でした。

藤井先生「陣屋どうでした?」(※)
涓滴「えっ」

隠せない動揺。なぜ藤井先生がご存じなのか。指導対局はウソのようにボロ負けしました。これが盤外戦術……(違う)。

※『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』の発売を記念して、最近陣屋に泊まってきたんです。

藤井猛九段指導対局(飛車落ち)棋譜

こちらも簡単に棋譜コメントを入れました。位を取らせない指し方をしていたのに5筋を取らせてしまい、☖4四角の形を作れたことで、☗2六歩~☗4六歩の形がかえって上手にとってありがたくなっている、とのことでした。序盤から情けなくて悔しかったですが、次こそは藤井先生に悩ましげな表情をさせることができるようになりたい。

ちなみに厳しい指導対局というのは、もはや「上手く負けてあげる」というフェーズを超えたんだという嬉しさがあるものです。私ももっと強くなりたいですし、また藤井先生の指導対局を受けたいと強く思います。元来会話下手な私は、指導対局が一番棋士と会話している気持ちになれるので、指導対局が一番好きな棋士とのコミュニケーションです。

サイン会

最後はサイン会。ここまでで十二分の満足度がありますが、さらにサイン会。棋樂イベント手厚すぎます。

藤井先生に「一歩竜王」の扇子を、先崎先生に「一歩竜王」の色紙をお願いしました。

揮毫をしていただきながら雑談。

藤井先生「だいたい読みました?自戦記編の第1局で先崎さんが出るというのが意外性があると思ったんだけど、誰も話題にしてくれない」

奥が深すぎる。私はだいたい藤井先生の工夫に気付けないので、もっと藤井先生のことを勉強しなければならないと決意を新たにしました。

「一歩竜王」直筆扇子。少し汚してしまったけど、これも直筆扇子の味。
藤井先生と先崎先生の「一歩竜王」色紙セット。藤井先生の色紙は新・将棋会館建設プロジェクト【第二期】返礼品の特別解説会で書いていただいたもの。

我が家に家宝が増えました。

会場では先崎先生の『将棋指しの腹のうち』の文庫本が販売されていたので、こちらも購入。

先崎先生の文章のファンなのになぜか単行本を持っていなかったので即買い。読むのが楽しみ。

最後に「一歩竜王」Tシャツを着ているお二人を写真に収めてお開き。

「一歩竜王」Tシャツのペアルックとも言えるお二人。どちらも私が子供のころから憧れていた偉大な棋士。もっと良い写真を撮りたかった。

時間もずいぶん延長してしまいましたが、最後の最後まで素晴らしイベントでした。藤井先生と先崎先生の優しさに甘えまくってしまった夢のような時間でした。間違いなく特別な日。藤井先生、先崎先生、穂坂先生、ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?