『手段が目的になることと音楽』
社会をよりよくするために政治家になった人が、いつの間にか当初の目的を忘れて、その手段にすぎなかった権力を得ることが目的になってしまったりするのを見ると『手段を目的にしちゃいけないんだなぁ』と思いますが、個人の心理においては、手段が目的になるのは『機能的自律性』と言って、良いことの方が多いです。
『機能的自律性』は、例えば「もともと、お小遣いとか誉め言葉とかを目的に頑張っていたお勉強やお手伝いのようなことが、それをすること自体が楽しいと思えてきて、そういうご褒美なしでも、したくなること」です。
これとは逆に「もともと、それをすること自体が楽しいと思えてやっていたお絵描きとかお歌とかに『頑張れば、お小遣いあげる』とご褒美を与えることで『ご褒美のために頑張る』という気持ちが芽生えて『それをすること自体が楽しい』という気持ちが消えてしまうこと」をアンダーマイニング効果と呼びます。
もちろん、ご褒美目当てに頑張るよりも、それをすること自体が楽しいと思って頑張る方が、人はより長い間、熱心に頑張ることができます。
なぜ、そんなことが起こるのか?
生物の歴史を振り返ると、最初のころの原始的な動物は『ある行動をして、食べ物等の生きるのに必要なものが得られたら、その行動を覚えて、し続けよう』という考えで学習をしていました。
このように、何かが得られるので、その行動をしたいと思うことを『外発的動機付け』と呼びます。
しかしながら、そのような考えで学習をしていると『実は生き残るのに大切な行動だったのに、たまたまその時は食べ物等が得られなかったので覚えなかった』という不都合が起こりました。
そこで『たとえ何も得られなくても、生きるのに必要な行動ならば、その行動そのものを楽しいと感じるような仕組みをつくろう』と動物は自分を進化させました。
このように、その行動そのものが楽しくてしたいと思うことを『内発的動機付け』と呼びます。
動物達は、さまざまな内発的動機付けを作ることで、生き残る確率を高めました。
人間にも、このような内発的動機がもともと備わっていますが、代表的なものは
①自己有能感への欲求:自分は有能だと思いたい(この欲求があるので、すぐにお金を稼ぐこと等につながらなくても、人は知識や技術を学んで身に付けようとします)。
②自律性への欲求:自分のことは自分で決めたい(この欲求があるので人は、たとえ損をしても自分のことを自分でするようになります)
③親和欲求:みんなと仲良くしたい(この欲求があるので人は、損得抜きで信頼できる仲間を作ります。そしてそれが結果的に、本当に困ったときの支え合いにつながったりします)。
④新奇性への欲求:知らなかったことを知りたい(この欲求があるので人は、すぐにお金を稼ぐこと等につながらなくても、続けて学習できます)。
の四つです。
このような内発的動機付けはもともと誰にでも備わっていますが、そういった欲求が自分にあるということを意識するような経験がなければ、人はその欲求が自分にもあることに気付きません。
例えば、親和欲求が自分にもあるということに幼児が気付くには、養育者やお友達と一緒にいるという経験の中で『誰かと一緒にいるということは楽しい』と思う必要があります。
また、もともとある内発的動機付けは、さまざまな経験や行動によって意識されると同時に、その経験や行動と心の中で結びつけられて、その経験や行動そのものも楽しいと思えるようになります。
例えば、歌うことを楽しいと思っている子どもは、歌を歌うことで、『僕は上手に歌える(自己有能感)』『自分の好きな歌を歌う(自律性)』『歌をみんなで楽しく歌う(親和欲求)』『新しい歌を知るのは楽しい(新奇性)』という内発的動機を満足させる経験をすることで『歌うことそのものが楽しい』と感じるようになったと思われます。
そしてこれは大人でも同じです(もちろん音楽そのものの持つ力もあるでしょうけれども)
音楽をすると、人間の心の謎を解くヒントが得られるかもしれせん。
あなたの好きな歌は何ですか?(*^▽^*)