落とし物の家
僕、大学時代に文芸サークルに入ってたんです。
そのサークルの定番イベントで、夏合宿がありまして。
皆んなでコテージを借りて2泊くらい泊まるんですよね。合宿とは名ばかりのただの旅行ですよ。
そこでは毎年、夜中に1人1話ずつ怪談をする、って言う夏らしい企画がありました。
それぞれ話すんですけど、まぁ大抵はネットで見聞きしたりした覚えのあるような、所謂怖い話、みたいなもので。
それでも部屋を暗くしてやるので、
そこそこ雰囲気はありました。
そんな中で、サークル内でも割と冗談の通じない、というか真面目なやつに番が回った時ですね。
仮にAとしましょう。
「これは本当にある場所の話なんですけど、」
って話始めて。
今まで体験談みたいなのは中々出なかったので、皆んな耳を傾けました。
「僕の住んでるアパートの近くに、一軒家の廃墟があるんです。」
「そこに訪れると、必ず何か持ってきたものを落として来るらしいんですよ。」
「別に行きには何も出なかったし、ってことで、その落とし物を取りに行くと酷い目に遭う、ってとこで…」
そんな話で、あのAが言うなら本当にあるんだろうってことになりまして。
次の文芸誌に怪談を載せようか、
みたいな話もあったし、せっかくだから見てみようってことになったんです。
合宿が終わってから1週間くらい経った頃だったかな、僕とAと先輩と、今月の文芸誌で担当が当たっている3人で行きました。
持ち物を落とす、って話だったので、割と身軽だったし深めのポケットの服で行きました。
ぐるっと見て回ったんですけど、確かに色々落ちてるんですよ。
メガネとかイヤホンとか鍵とか…
噂は本当で、ビビって取りに来れないんだな、って思いました。
特に、2階に落とし物が多かったです。
というのも、2階はなぜか床に大きい傷ができている箇所が無数にあって、歩きづらいんですよ。
つまずくことも多くて、きっとこの床のせいで持ち物を落としがちなんだなって思いました。
でも、別に幽霊とかはいなかったです。
まぁ、ただの廃墟だなってことになって、早々に引き上げることになりました。
廃墟の玄関で、Aと一緒に文芸誌に何書けばいいんだよ、なんて話をしてたら、先輩が焦り始めたんです。
どうやら財布を落としてきたらしくて。
「幽霊も出なかったし、流石に取りに行ってくる!」なんていって1人で中に入っていきました。
そしたら、廃墟の2階から急に音がしたんですよ。
何かこう、重いものを落としたような音でした。
驚いて廃墟の方を見てたら、先輩が急いで帰ってきて。
どうしたんですかって聞いたら、震えながら話し始めました。
「やっぱさ、俺が落としたの2階だったんだよ。多分つまづいた時に。」
「そんでさ、床に俺の財布があるのを見つけた時に、急に上からさ…降ってきたんだよ。斧が。」
「焦って上見たんだよ、そしたら…1回目の時は気づかなかったんだけど、屋根裏がスカスカなんだ。穴がたくさん開いてて。」
「その穴から俺のこと見てたんだよ。男が。
多分、俺に落とした斧が当たったかどうか見るためにさ。」
「すぐに引っ込んだから、また落とされる!と思ってすぐに帰ってきたよ。」
ああ、なるほど、だから“落とし物”の家なのか、
だから2階の床は傷だらけだったのか…って
もちろんもう近寄ってませんよ。
その後で聞いた話なんですけど、その廃墟に住んでた男の人、飛び降り自殺で死んでたらしくて。そのせいで廃墟になったらしいんですよ。
先輩に斧を落としたのが、その男なのかは分からないですけど。
その男も落とし物だったんですね。