定点カメラ
僕、数年前に土木建築の方で現場作業員として働いてまして、そこであった話なんですけど。
作業員みんなで会社の乗り場の方に集まってからバスに乗って現場まで移動するんですよ。結構人も多いから座席はいつも満席でした。
そこそこ山の中にある現場なこともあって、到着までは30分くらいかかるので各々その間は好きなことするんですよ。まぁ大抵の人は体力温存のために寝てるんですけどね。僕も例外じゃありませんでした。
いつも寝てたからですかね。気づかなかったんですけど、僕の隣の人は別のことをしてたんです。
来た人から順にバスに乗って行くんですけど、生活リズムが被っているのか、結構な頻度で隣の席になるおじさんがいて。
まぁ別に普通の人だったんですけど、その日は前の日が休みだったこともあってかバスの中で寝る気にならなくて。適当にスマホでもいじるかって思ってたんですけど、そこで気づいたんですよ。
いつも隣のこの人は寝てないんだなって。
その人、イヤホンつけてじっとスマホを凝視してるだけで、タップもスワイプもしないし表情も動かないんです。ただじっと見てるだけで。
で、何してるかって気になっちゃったんですよ。
スマホ見てたりあくびしたりしてる中で、そっと画面をのぞいてみたんですね。
森が映ってました。
森って言っても有名なところとか、散策してる動画とかでもなく、ただ森の一点を写し続けてるだけだったんですよね。何か画質も粗いし、静止画かとも思ってました。
不気味、って言うか意味わかんないじゃないですか。何が面白いんだ?何が目的なんだ?って。
その時僕が考えたのは、ヒーリング音声的なものかな?って推測でした。あるじゃないですか、森の音とか鳥の鳴き声みたいなのを聞いて心を落ち着ける、みたいな。
そうやって納得して、もう別に興味もなかったんでそのままスマホいじってたら着いたんですけど。
それから1週間くらい経った頃だったかな。
バスで寝る気分でもなくて、また何となく画面を覗いてみたら、相変わらずおんなじ森の景色を食い入るように見てて。
飽きないのか?とか思ってた時ですよね。
急にスマホを操作しだして。そんなこと初めてだったんで気になってもう一回覗いたんですよ。
そしたら次も画質の粗い、井戸の風景で。
寂れて水も干上がってるであろう井戸が真ん中にぽつんとあるのをまたじっと見てるんですよ。
こうなるとヒーリングミュージックとかでも無いよな、何なんだろうな、って不思議になって。
それから毎日覗いてみることにしたんです。
それを続けてまた1週間後とかですかね。
種類が増えたんですよ。森、井戸、のほかに次は畳の部屋の床を写してるもので。それだけは画質が悪くなかったですね。
その3つの風景を立ち代わり見てるんですよ。
結局その時点では正体がわかりませんでした。
その畳の映像が追加された次の日、その人無断欠勤したんです。別に真面目な普通の人だったんで、みんな結構ザワザワして。
それから現場監督に集められて、あの人逮捕されたって教えて教えてもらいました。殺人だって。
帰ってからニュース見たんですけど、家の和室の畳の下から死体が発見されたらしいです。
そこで気づいたんですよ。
あぁ、あれって、隠してた場所を見張ってたんだって。
自室の床下の他に、森と井戸にも。
殺して捨てたんでしょうね。それから定点カメラをつけて。
思えばその2つだけ画質が粗かったのも、バレないように小型のカメラしか付けれなかったんでしょうね。
ニュースによると1人しか殺してないことになってました。
少なくともあと2人、あそこにまだいるんでしょうね。