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文筆家/音楽制作者 OTOTOYプロデューサー レーベル&スタジオ主宰 「横浜みらいミ…

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文筆家/音楽制作者 OTOTOYプロデューサー レーベル&スタジオ主宰 「横浜みらいミーティング」代表 著書に「ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの」「スタジオの音が聞こえる」「ヘッドフォン・ガール」

最近の記事

ボビー・チャールズは「アカディアの流木(Acadian Driftwood)」だった

有楽町でボビー・チャールズの映画『In a Good Place Now: The Life & Music of Bobby Charles』を観てきた。ルイジアナ出身のボビー・チャールズは十代の頃から敬愛するアーティスト。1972年のベアズヴィル盤のアルバムはどれほど聴いたか分からない。ベアズヴィル・スタジオで作られたアルバムの中ではボニー・レイットの『Give It Up』と双璧である。 だから、もちろん泣ける映画だった。ボビー・チャールズは50年代に「See You

    • ひっそりと有終の美を飾ったセルジオ・メンデス&ブラジル’66のラスト・アルバム『Stillness』

       日本ではブラジル音楽の人気が高い。僕のリスニング・ライフでもブラジル音楽はかなりの比率を占めている。いつからブラジル音楽が好きになったのだろう、と振り返ってみると、時は1966年、小学生の時である。「Mas Que Nada(マシュ・ケ・ナダ)」が最初の1曲。オリジナルはジョルジュ・ベンだが、日本のラジオでかかりまくっていたのは、セルジオ・メンデス&ブラジル’66の「Mas Que Nada」だった。  セルジオ・メンデスは1941年にリオデジャネイロで生まれたピアニスト

      • 映画『ボブ・マーリー:One Love』と「Redemption Song」の謎

        ボブ・マーリーの伝記映画『One Love』を観てきた。 最初のうちはボブがイケメン過ぎて、カリスマ性や神秘性がが薄いなあと思いながら観ていたのだが、そこを含めて、リタ・マーリー・プロデュースの映画なのだと納得して映画館を出ることになった。エピソードの選び方も、ディテールの描き込みも、妻の視線を含んでいるからこその説得力が。 ボブも弱さを抱えた一人の男だった。主演のキングズリー・ベン=アデルがそこを上手く演じている。 回想シーンも切なくて良かった。幼さの残るボブとリタの恋。

        • ベニー・シングスやゴンザレスのこと。アメリカ人が作れなくなったアメリカン・ミュージックをヨーロッパで作る人達がいる(2008年1月)

           ハッピーで、粋な音楽がいい。年齢のせいもあるかもしれないが、近年、とみにそう思うようになった。  ベニー・シングズ。このもじゃもじゃ頭のオランダ人は、僕の中で今や、そんな音楽の筆頭だ。この2、3年、本当に彼の音楽ばかり聞いている。どのくらい聞いているかというと、かつてハーバートの「アラウンド・ザ・ハウス」を聞いたのと同じくらい・・・なんて書いても自分以外には分からないか。  が、思えば「アラウンド・ザ・ハウス」(1998)と「ベニー・・・アット・ホーム」(2007)には大き

        ボビー・チャールズは「アカディアの流木(Acadian Driftwood)」だった

        • ひっそりと有終の美を飾ったセルジオ・メンデス&ブラジル’66のラスト・アルバム『Stillness』

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          ジョニ・ミッチェルの『BLUE』

           『Blue』は地味なアルバムだと思っていた年月が長かった。初めて聴いたジョニ・ミッチェルのアルバムは『Ladies Of The Cannyon』。高校入学したばかりの15歳の時だった。衝撃だった。こんな曲作り、こんな歌い方がこの世にあるのだと思ったし、ローレル・キャニオンの一軒家で暮らすジョニとグラハム・ナッシュに強烈な憧れも抱いた。ジョニのような才気溢れる女性の傍らで、グラハム・ナッシュみたいに軽いボケをかます男になるのが理想と思ったりした。いや、これは今でも変わってな

          ジョニ・ミッチェルの『BLUE』

          映画『エリス&トム』と「三月の水」のベースライン

           渋谷ユーロスペースでブラジル映画祭。『エリス&トム』を観てきた。天才二人がオフで好きな歌を歌ってるシーンとか、気絶しそうなくらい良かった。ブラジル音楽の好きな人は必見だ。  ただ、字幕は酷かった。エンジニアのフンベルト・ガティカが今の音楽はコンプレッションが強くて、と眼前に手をかざして説明してるのに、「今の音楽は要約されている」とか。果ては「三月の雨」というのが二回も出てきた。ブラジル大使館も絡んだ日本語版の上映で、誰も気が付かなかったのだろうか。  ジョビンが1970年

          映画『エリス&トム』と「三月の水」のベースライン

          上念司との「レイシスト・フレンド」裁判で私が東京高裁に提出した陳述書

          陳 述 書   東京高等裁判所 御中   高橋健太郎              2023年5月29日   1 私が音楽評論家となった経過とレイシズムについて  私は1970年代の終わり頃から音楽評論の仕事を続けています。  私にとって、音楽評論が職業として確立される大きなきっかけになったのは1982年にジャマイカに取材旅行したことでした。私はジャマイカのレゲエ音楽に強い興味を持っていました。そして、現地取材で専門的な知見を高めることで、多くのメディアから執筆依頼を受けるように

          上念司との「レイシスト・フレンド」裁判で私が東京高裁に提出した陳述書

          上念司との「レイシスト・フレンド」裁判、一審判決の問題点 #2 レイシストは「人種差別主義者」なのか?

           上念司との「レイシスト・フレンド」裁判の控訴審が始まりました。次回日程は5月15日とされています。詳しくはツイッターなどでお知らせしていきます。  前回、書いたように、東京地裁での一審判決は思いもかけないものでした。そもそも私は上念司に対して、「レイシスト」という言葉を向けていません。私と藤原大輔は、現在の社会状況の中で音楽家の取るべき態度について、友人同士の話をしていただけです。  それでも、世の中には「レイシスト・フレンド」とは上念司を指す言葉だと読む人もいるかもしれ

          上念司との「レイシスト・フレンド」裁判、一審判決の問題点 #2 レイシストは「人種差別主義者」なのか?

          上念司との「レイシスト・フレンド」裁判、一審判決の問題点〜小さなSLAP訴訟が言論の自由を揺るがし、反レイシズム運動を大きく後退させかねない裁判になった #1

          経済評論家の上念司が私を訴えた名誉毀損訴訟で、2022年11月15日、東京地裁の藤澤裕介裁判長は私に対して、50万円の損害賠償を支払えとの判決を下しました。 この裁判は上念司が2020年1月に渋谷クラブクアトロで開催予定だった音楽祭が、出演予定のスガダイローのグループが出演キャンセルしたことから、中止となったことに関連して、それに関わるツイートをした高橋健太郎を訴えたものです。原告は150万円の損害賠償、当該ツイートの削除、謝罪広告の掲載などを求めました。 原告側の主張は以

          上念司との「レイシスト・フレンド」裁判、一審判決の問題点〜小さなSLAP訴訟が言論の自由を揺るがし、反レイシズム運動を大きく後退させかねない裁判になった #1

          西脇一弘ブログの虚偽記載と私に対する名誉毀損について

          2022年11月21日にギタリストの西脇一弘くんがブログに「sakana biography 番外編 1997〜2009」と題する文章を上げました。その内容は多くの点で事実と異なり、とりわけ、金銭や印税についての記述はほとんどデタラメとも言っていいレベルでした。さらに、私の発言が脚色されたり、メールの文面が改変されたりすることにより、私の名誉や信用を深く傷つける内容でした。 https://megalodon.jp/2022-1128-1518-17/kazuhiro-ni

          西脇一弘ブログの虚偽記載と私に対する名誉毀損について

          横浜市の中学校給食は「学校調理方式」で可能です〜横浜みらいミーティングの検討結果

          横浜の市民有志が集まった「横浜みらいミーティング」(代表:高橋健太郎)は、横浜市の中学校給食の方向性について、市の調査報告を独自に再検討し、145校全校で「学校調理式」が給食が実現できるという結論に達しました。 このことをみなさんと共有すると同時に、チラシ印刷などの活動資金にみなさんの協力をあおぎます。 横浜市でも「学区調理方式」の中学校給食は実現できます 横浜市でも「学校調理方式」の中学校給食は実現できます。 横浜市教育委員会の検討報告では 145 校中 39

          横浜市の中学校給食は「学校調理方式」で可能です〜横浜みらいミーティングの検討結果

          文化芸術活動の継続支援事業 フォームの入力例(無観客ライヴ配信系の人向け 新規 A-1 20万円以内)

          補助形態 → 活動継続・技能向上等支援A-1 文化芸術の分野 → 音楽 [共同申請(小規模団体・個人事業者向け)]申請 又は予定 → なし 事業の名称 → コロナ後に向けた技能向上 事業の目的と活動内容(全体概要) → 無観客ライヴの音声録音、映像撮影の準備と品質向上、無観客ライヴ配信の実施 事業実施期間(開始)→ 2020年2月26日 事業実施期間(終了)→ 2021年2月28日 活動の継続・再開のための公演・制作方法の検討・準備・実施 ICT活動:活動内容

          文化芸術活動の継続支援事業 フォームの入力例(無観客ライヴ配信系の人向け 新規 A-1 20万円以内)

          ソランジュの『When I Get Home』

           ある朝、気がつくと、ビッグ・アーティストの新作が世に出ているということが昨今は少なくない。3月の始めにリリースされたソランジュの『When I Get Home』もそうだった。ジャケットは前作『A Seat At The Table』と同じように何も身につけていない彼女の肩から上のポートレイト。角度も同じ。でも、肌の色はぐっと暗い。その暗さを読み込むには、少し時間がかかってしまった。  『When I Get Home』は冒頭からして、新しいソランジュの音楽の誕生を告げて

          ソランジュの『When I Get Home』

          ミュージック・マガジン2019年9月号で選盤した「50年のジャズ」の30枚

          Bill Frisell / Hace A Little Faith Bill Evans / Symbiosis Jon Hassell / Dream Theory In Malaya Andres Beeuwsaer / Dos Rios Alice Coltlane / Journey In Satchidananda Egberto Gismonti / Infancia Ralph Towner / Diary Pat Metheny / Still

          ミュージック・マガジン2019年9月号で選盤した「50年のジャズ」の30枚

          マイ・フューネラレル・ミックス3

           全員の焼香が終わって、聖苑の職員が「お別れの時」を宣言した。あずみとまだハタチそこそこの息子の文陽(ふみはる)の手によって、棺の中に沢山の花束とレコードバッグが入れられた。蓋を閉めた棺は火葬炉の中に入っていく。火葬には約二時間がかかる。その間に参列者には会館の上にある部屋で食事が振るまわれる。食事の間、昨夜と同じように「マイ・フューネラル・ミックス」がプレイされた。ただし、今日はごく小さな音量で。それでも、クリプッシュのスピーカーの近くに座っていた大久保には、そのミックスに

          マイ・フューネラレル・ミックス3

          マイ・フューネラレル・ミックス2

           ザ・ロフトに通い詰めながら、礼文は恐ろしい勢いでレコードを買い始めた。ザ・ロフトでプレイされるようなダンス・ミュージックをすべてコレクションしようと。  さらに同じ頃、礼文はさらにフランスから移り住んできたフランソワ・ケヴォーキアンという男と出会う。フランソワはドラマーとして成功するべく、ニューヨークにやってきたのだが、ダンス・ミュージックの胎動に触れて、DJへと転身した。ドラマーとして培った精密なリズム感をもとに、ディスコもファンクもロックもジャズもラテンも縦横にミック

          マイ・フューネラレル・ミックス2