三崎から城ヶ島へ 「ジオまち歩き」
11月30日、三崎の蔵書室「本と屯」さんと「ハビタ・ランドスケープ」の共同企画で、城ヶ島の地形と三崎のまちを歩くイベントを行いました。
この日は少し早めに現地に。下見がてら、まちなかを散策。やがてミネさんたちと合流し、早めのお昼をいただきました。
そうこうしているうち集合時間が近づき「本と屯」に一人またひとりと参加者が現れます。
現在青空教室のようになっている「本と屯」隣の空き地で、滝澤さんのレクチャーを聞いた後、バスに乗って城ケ島へ。
城ケ島公園側から入り、馬の背洞門を目指します。
この日は天候に恵まれ、最高の散策日和となりました。日頃のみなさんの行いの良さに感謝しつつ、海岸を目指します!
馬の背洞門に着きました。
城ケ島は珍しい地層が観察できる日本でも有数の場所ということで、この日も多くの人が訪れていました。
このあたりは、火山活動によって流れ出た黒い溶岩の層(スコリア質凝灰岩)、そして砂浜に堆積した土砂の固まった白っぽい泥岩の層(凝灰質シルト)が、時代ごとの記憶のように交互に重なり特徴的な縞模様の地層を形成しています。
この場所は海の水平線に対して地層が斜めになっていたのですが、これは右下の方から上に向かって力が加わり隆起した痕跡なのだそう。滝澤さんがアクロバティックに身振りを交えながら説明します。
「10万年という時間を想像できますか?」。
体のなかにあるスケールが少し変化したような気がしました。
馬の背洞門…やっぱりこの場所はいいですね。「地層を表現してみてくださーい!」と声をかけると、それぞれの地層のイメージを身体で表現してくれたみなさん。ノリの良さに感動です。
潮だまり。寒い季節のためか生き物が少ないように見えましたが、じっと見ていると、ちいさなヤドカリたちが動き出し追いかけっこを始めていました。
貝殻の多いエリアで。貝殻の形は種類によっても様々で見飽きないですね。栃木市と三浦市のそれぞれの行政に勤める深澤さんと坪井さんが、砂つぶの中の貝殻を観察しています。
岩の隙間に、貝の集合住宅のような石がありました。
「穴が空いているから貝が住んでいるのか、貝が穴を開けたのか、、⁈」 みなさんの間からいろいろな仮説が出てきました。
のちほど滝澤さんが調べたところ、これは穿孔貝(せんこうがい)という貝の一種が化学物質を出したり殻を動かしたりいて穴を空けた跡が、波により風化し、さらに別の生き物が棲み着いたりしているもののようです。
このあたりに堆積する砂は、溶岩、流れてきた小石、貝殻の欠片などから構成されています。長い時間を経て、これらの砂が積もり重なって泥と混ざり、圧が加わったりすることで、さきほどの地層の中にも見られた泥岩になっていくのですね。
砂の中の黒い粒が溶岩由来のもの。白っぽいのが貝殻の欠片。観察していくと、帯状に伸びる海岸線の砂浜の中にも二段階に色が分かれているのがわかります。ちょっと見えづらいのですが上の写真ですと、左の陸側が細かい砂つぶで、右の海側が貝殻や石を多く含んだ砂。左右にグラデーションのように徐々に砂の質が変わっていく様子が見えると思います。
「陸と海の境界線」
塩分の濃い砂浜に適応した海浜植物の仲間が、陸の側から伸びてきています。ウミガメはこういった海浜植物の生える砂浜を目指してきて産卵するそうで、この一帯は陸と海との境界でもあり、陸の生き物と海の生き物の接点にもなっているのですね。ウミガメがこの場所を選ぶ意味は、、? 滝澤さんの話は続きます。
崖の岩肌にも、海岸特有の植生が。
この、いろんな意味で境界線になっている海岸線を、灯台の方を目指し進んで行きます。 『ハビタ・ランドスケープ』の取材でも、こういった境界線を辿ることが多かったのを思い出しました。二つの世界のものが行き来するところには多くの、読み取るべき情報があるのかもしれません。
波打ち際を確認するように歩く七澤さん。七澤さんは三浦半島を海岸線に沿って全て歩いたことがあるそうで、いろんな岬や湾のマニアックな情報も教えていただきました。海に反射する光がきらきらして綺麗。
海辺には色々なものが打ち上げられていて、想像力を掻き立てられます。とても重い木を見つけました。眺めていると未知の生物のようにも見えてくるのでした。
バイクに乗って島に上陸したミネさんたちと合流しました。到着するや動画で滝澤さんにインタビューが始まります。心地良いスピード感!
「空海もこんな風に瞑想していたかもしれませんね。」そんなことを話しつつ、座禅を組む滝澤さん。
地殻変動による隆起や沈下、土砂の堆積や火山からの溶岩によって地層が形成されて、反対側からは地球の自転と月の引力が発生させた波や雨がその地層をゆっくりと削っていく…。こういった場所も、陸と海の境界と言えそうです。こんななかに身を置くことで人は宗教的なインスピレーションを得ていたのかもしれませんね。
しばらく歩いていると、、
いい地層出てきました。
ジオ記念撮影!
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この後、灯台まで歩きバスに乗って再び三崎に戻ります。
頼朝が鎌倉から通ったという「椿の御所」跡である大椿寺でバスを下車。
住宅街の間の小径を歩いていくと、印象的なソテツの大樹が見えて来ます。
この地図の左上、湘南の小さく飛び出した江ノ島。その右へ辿った海岸線の凹みが鎌倉です。三浦半島の南端の三崎に頼朝が通っていたということですが、地図で見ると、海運ということを考えた時、必ず通る場所であり、また相模湾を見渡せる場所でもあったことから、風光を求めていただけではなく、地政学的にも押さえておかなければならない場所だったのが想像されます。
地図で見ると右側の窪みが北条湾。その右手に大椿寺の鎮座する高台があります(赤い点の場所)。ちなみにこの日もバスで渡った城ケ島大橋は、この高台から海上へ飛び立つように城ケ島に伸びています。
深澤さんが取り出したスマホのアプリ「スーパー地形」で、この場所を立体的に見ます。
「津波がこう来たとして、ああ、このあたりは割と安全。やっぱり城ケ島が守ってくれているんですね。」などなど。地形を読み取るということは、防災ということともつながってくるのですね。
だんだん陽が傾いて来ました。
大椿寺を後にします。
北条湾をぐるっと回ってまちの方へ。夕暮れのグラデーションが海に反射しながら揺れています。
三浦市の行政の方が参加されていたので、丘の上にある物件の話や、今の三浦市の人口の話など、現在の市のあらましなど聞きながら、まちの中心に近づいて行きます。
三崎はまちなかにも地層の露出が観察できるスポットがあります。地層と住居の外壁が興味深い混ざりかたをしていました。
別の角度から見た地層。この手前の坂の上に遊郭があったようですね。人の営みの中で「粋」や「風流」を提供して来たであろう、地層の景色をしばし眺めます。
海南神社。
先ほどの地図アプリで地形を見ると、ここは丘から集まった湧き水が出ていた場所で、たしかに手水舎も手入れが行き届き水が大事な場所である事が伺えました。かつて船出する人たちが海上では貴重な清浄な淡水を汲みにここに訪れていたかもしれないですね、と滝澤さん。集落の成り立ちに想像を巡らせます。神社のある場所は、いにしえの公共空間とも言え、場所の一番大事なところをどう活用していくかということなど、まちづくりを考える上でも学ぶべきことがたくさんある場所であるように思いました。
境内、木立の上に細い月が。
三浦半島の南端という場所という都市からの距離と、経済の波の絶妙な空白期間から古いまちなみが残り、なんともいえない時代感を漂わせる三崎。そんなまちなみを味わいながら歩きます。
戻ってきました「本と屯」。
それぞれの自己紹介から始まった言葉は、あらたな言葉を呼び、
木の枝のように話題が広がっていくのでした。
この日は出前を取っていただきました。
「まるいち」のお刺身。
歩き回った身体に染み渡ります。
「牡丹」の焼売。
尼野さんが軒先で焼いてくださった赤魚や、マグロの頰肉。。思わずビールの缶を開けました。
この日は行政の職員、市民活動をしている人、建築家、写真家、三浦海岸に精通している人、建築家に通う学生、など、多様な方々の参加がありました。一つの話題にいろいろな視点が加わっていく様子が楽しかったです。
たとえば
・「市民の意見がなかなか行政に伝わらないがどうしたら良いか」→「行政の人も色々いる。」「合意形成にもノウハウがあって、関係の構築…例えばこの「本と屯」のような「場」を持つことも大事。」
・「三浦市の下水の特徴」→「横浜など都市とそもそも捉え方が違う。地形がもたらしている特徴というのもあるのではないか。」
・「建築の卒論のテーマを絞り込みたい」→「例えばさっきの集合住宅みたいな石と貝や、絶景のビューポイント、神社などのフィールドワークから何かヒントが見つからないだろうか。」
など、など、など。
みなさんひとりひとりが持っているテーマが、今日のフィールドワークに触発されて広がって行っているような。そんな風に見えたレクチャータイムでした。
みなさま、一日お疲れ様でした。
これまで『ハビタ・ランドスケープ』の取材時には滝澤さんとふたりで歩くことが多かったのですが、こうして複数のみなさんと様々な視点で場所を見て歩くことで、またあらたな発見や関心が泉のように湧いて来ました。
『ハビタ・ランドスケープ』を通じて培われた視点がナビゲーションになり、みなさんの視点とコラボレーションして、とても楽しい「ジオまち歩き」となりました。参加いただいた皆様、また素晴らしい場を提供いただいた「本と屯」さんに感謝いたします。
また、三崎でお目にかかれますように。
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googleマップに当日のルートを記入しました。参考にしていただければと思います。
※馬の背洞門から城ケ島バス停までは海岸沿いを歩きましたので、地図上のルートが若干異なる表示になっています。
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以下、文中のキーワードの詳細などリンクです。
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