変化を選ぶのか、継続を選ぶのかで得られるものは変わる。
実は私、会社員の頃は世の中的に言われる「ジョブホッパー」だったんです。
ジョブホッパーとは仕事を転々とする人のことを指すのだと思いますが、私の場合は長くて3年、早いと半年で転職しちゃうという人でした。
なぜそんなに早く転職するのか。私の場合、だいたい下の4つの理由のどれかに当てはまります。
(1)そもそもやってることに飽きちゃう
(2)やりたいことを一通り経験しちゃう⇒「はい、次行こう」となる
(3)何か嫌なことがあったり、人間関係が上手くいかなくなる
(4)他から引き抜きがかかる
そんな理由をつけながら、これまで両手で収まらないぐらいの職場を経験してきました。転職エージェントや人事部の採用担当者の皆さまからはあまり喜ばれない経歴かもしれませんね。
ある時、日本最大規模の商社に転職をしようとしていた私に対して、その会社の採用担当者から「絶対にすぐ辞めないよね?それは約束できるよね?」と問われたことがあります。
私は「はい。もちろんです!」と返答したものの、その半年後に退社しちゃう、みたいなこともありました。今では笑い話ですが、当時はかなり大きな問題になりました。
エグゼクティブ・コーチとしての活動においては、この転職回数の多さは様々な方の境遇を理解するヒントになったり、職場特有のルールや業界のしきたりなどクライアントさんが特殊な話をした時に私が素早く理解し、共感できるという方面で役に立っているので、全く無駄だとは思っていません!と言い切れるのですが、このジョブホッパーから私が足を洗ったあるきっかけがあります。今日はそんなお話をしたいと思います。
それは、私がエグゼクティブ・コーチとしてデビューし、しばらく経験を積んだ時にいただいたあるオファーがきっかけです。
そのオファーは2012年頃私のもとに舞い込みました。
私がボランティアスタッフとして4年ほど関わってきたコーチングの業界団体から代表就任のオファーをいただいたんです。
「どうせやるならでっかくやろう。コーチング業界全体に、いや社会に大きな影響力を持つ団体に育てたい。コーチが職業として本格普及して、プロのコーチがコーチングだけで生計を立てることができる世の中にしたい!」そんな壮大な構想を掲げて私は意気揚々と代表に就任しました。(今日のストーリー的には当然、すぐに辞めたくなっちゃうわけですが・・・)
案の定、その半年後、私は代表の座を降りることを真剣に考えていました。
ま、言ってみれば転職を考えていたようなものだと思います。冒頭で、なぜ私が転職したくなるのか、その理由を4つ挙げました。
(1)そもそもやってることに飽きちゃう
(2)やりたいことを一通り経験しちゃう⇒「はい、次行こう」となる
(3)何か嫌なことがあったり、人間関係が上手くいかなくなる
(4)他から引き抜きがかかる
この時は(3)が起きていました。様々な要素が重なり合い、外部の関係者の支持は取り付けられるものの、内部的なコミュニケーションが上手に進まない状況に苦しんでいました。つまり、外に向かって約束したことを団体内に持ち帰ると、そこで否決されたり保留になったりするので、代表者として対外的な体裁がだんだん保てなくなる。そんなループに陥っていました。
代表者でありながら、無報酬のボランティアであることは他のスタッフと変わらず、当時の私は「こんな苦労をするなら、代表辞めてやる」と毎日のように考えていました。
ただ、今まで転職を繰り返してきた時の状況とは1つ異なることがありました。それが何かというと、この代表の職を辞することは、コーチング業界から去ることを意味する、ということ。
業界団体の代表のポジションは内外ともにとても目立つ場所です。この場所を自らの意志で、任期の途中で降りることは、業界の中での居場所を自ら潰すような行為だとその時の私は考えました。コーチングという仕事が大好きで、この仕事を一生続けたいと思っている私にとって、その「居場所」は大切でした。
ここで私の中の優先順位というものが徐々に変わり始めます。今までなら「気に入らない」⇒「辞める」という単純な構図の中で次を探し、新しい場所に移っていく方向で考えたと思います。つまり、「どのようにすれば、私が気に入る場所に移れるのだろうか」という問いを自分の中に持つということです。
今回は「この場所に居続けたい」という思いと「今の状況は気に入らない」という思いの2つを冷静に見続けることの優先度が高まっていました。そうすると、私の中で自問する問いが変化します。「どのようにすればこの状況を打破し、同じ場所に居続けることができるだろうか」という問いが生まれました。
しかし、当時の私は、上のような「問い」は立てられたものの、その「答え」を自分の中に持ち合わせていないという状態で、正直苦しい日々を過ごしていました。
「こんな苦しいことをやり続けて、何になるんだろう」と思うことも多く、投げ出したい気持ちをギリギリのところでなだめるような時間が続きました。
その自問自答の中で、一つ新しい洞察にたどり着きました。
「こんな苦しいことをやり続けて、何になるんだろう」に対する答えを私は持っていないという事実に向き合う必要があるという洞察。
つまり、今までなら気に入らない状況になれば転職してきたので「一つの仕事に長くとどまっていろんな経験を積んでいくことの意味を私は知らない」のではないかと思うに至りました。
であれば、この機会から学び、より長期的な視点で「やり続けたら、それが何になるのか」を「経験から理解する」ことができるのではないか。そんな好奇心が沸々と湧いてきました。
この好奇心が私の活動を支え、最終的に2017年までこの代表の仕事を務めることになりました。だいたい3年未満で転職してきた私としては快挙と言ってもよいことです。
延べ5年ほど同じ仕事を続けたことで、私は様々な経験をし、私なりの学びを得ました。
長くとどまることで初めてわかったことがたくさんありました。
例えば団体自体の成長を見届ける喜びであったり、人の入れ替わりによる新陳代謝がどう起きるのかという学びや、中長期的に組織文化が醸成されていく過程を時間的な感覚知として知ることなど、とにかく大切な学びがたくさんありました。
私自身も同じ仕事を繰り返すことでの経験値の向上や、リーダーとしての成長も感じることができました。また、信頼関係でつながるチームビルディングの方法も経験を通して私なりのメソッドを確立することができました。
仮に私があの時に辞めていたら、わかり得なかった知見や知恵がたくさんあります。
次々と新しい場所を求めて動くことによって得られる学びや知見もたくさんあります。その反面、同じところに居続けることによってしか得られないこともたくさんあります。私がこの経験を通して学んだことは、どちらが良い、どちらが悪いという単純な解釈ではなく、双方のメリット・デメリットを理解し、自分の中でのバランスを定めることが大切なのではないかということ。そのバランス感が私達の意思決定の礎となり、個性を発揮するポイントになるのではないか。
皆さんは人生の岐路に立った時にどっちの道を選びますか?