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福祉の実現~夫婦別姓をテーマに~

※これは大学のレポートで執筆したものです
※執筆日時2020年12月27日

1. はじめに

 本レポートでは法哲学Bで取り扱った「福祉の実現」について論じる。事例としては夫婦別氏や東海大学安楽死事件の2つを中心に取り上げることで、「福祉」の追求をする。今回、「福祉」の定義については河見(2019)から日本国憲法第13条から「幸福追求のための支援」、第25条から「健康で文化的な生活」を満たしていることが「福祉」とした。そこで、夫婦の同姓の問題を事例に「福祉の実現」にはどのようなことが必要で、何が問題となっているのか分析しなければならないと考える。

2. 日本の夫婦同姓における現状

 現在、日本においては民法第750条「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」とされている。そのことから、原則法律婚においては夫婦同姓となる。しかし、日本人と外国人による国際結婚の場合は、必ずしもどちらかの姓に合わせる必要はないため、夫婦別姓が可能である。このように日本では夫婦同姓が義務付けられている。一方、婚姻届を使用しない事実婚の場合は戸籍上夫婦ではないが、夫婦別姓が可能となる。そのため、夫婦同姓であることを望まない人は事実婚を選択することもあるだろう。法律婚と事実婚では一部違いがある。例えば、法律婚では婚姻届による手続きや夫婦の同姓がある。事実婚ではそのようなものはない。また、保険金の受取や年金、扶養親族の扱いについてはどちらも同じである。しかし、法律婚では配偶者の所得控除が受けられる一方、事実婚では認められない。もちろん、夫婦の姓が異なる方がメリットであると感じる夫婦は事実婚を選択する権利も存在する。子供の扱いについても一部異なる点がある。夫婦に子供が産まれた場合、法律婚であれば両親の戸籍に入る。事実婚の場合、法律婚と異なり、非嫡出子のため単独親権となる。この時、原則母親が親権を持つため、父親は認知の手続きが必要である。したがって、現在の日本において夫婦同姓を前提とする法律婚が社会的に受け入れられている制度となる。夫婦別姓が可能な事実婚もほとんど法律婚と同じ便益を受けられるが夫婦における子供の扱いの違いは将来的に事実婚の子供に不利益を与える可能性があるため、制度の改善は欠かせないだろう。

3. 夫婦同姓の問題点

 そこで、なぜ婚姻時の選択肢として夫婦別姓の議論がなされているのか分析する。法律婚において夫婦どちらかの姓に合わせる同姓が必要とされる。その時、どちらかは今まで名乗ってきた苗字を変更しなければならないため、事務手続きの手間が発生する。また、夫婦の少なくともどちらか一方が研究職の場合、論文の実績は当時の名前に基づいて評価されるため、結婚を機に、苗字が異なることは論文の連続性を考慮したらデメリットである。また、厚生労働省(2016)による「婚姻に関する統計」によると婚姻時に夫と妻どちらかの姓に合わせるかのデータがある。

表1.夫妻の初婚-再婚の組合せ別にみた夫の氏・妻の氏別婚姻件数および構成割合の年次推移(昭和50年~平成27年)

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(出典:厚生労働省,2016より一部筆者抜粋)

 このデータによるとやや女性の姓にする人は微増傾向であるが、ここ40年以上、夫つまり男性側の姓に合わせることが90%以上であることから夫婦同姓によって女性が多くの負担をしてきたことが推測できる。もちろん、夫婦双方の合意があって婚姻の手続きは行われるため、夫の姓にすることは負担に感じない人もいるだろう。

4.夫婦同姓、別姓の解決策

 内閣府(2017)が調査した「家族の法制に関する世論調査」による姓の変更に関するデータがある。

表2.仕事と婚姻による名字(姓)の変更(男女別の比較)

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(内閣府,2017より筆者一部抜粋)

 このデータから仕事をする上で、名字(姓)の変更について問題を感じる人も、感じない人どちらも約半数となった。そのことから、夫婦別姓の議論は依然としてある一方、国民は圧倒的に夫婦別姓の選択を必要としているかどうかは言い切ることができない。しかし、年代別で比較すると各年代で傾向が異なった。

表3. 表2.仕事と婚姻による名字(姓)の変更(年代別の比較)

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(内閣府,2017より筆者一部抜粋)

現役世代である20代から50代にかけて「何らかの不便が生ずることがあると思う」が上回った。そして、60代以降では「何ら不便も生じないと思う」が半数を上回った。この差には質問に「仕事」と「名字(姓)」の関係を聞いたことから現役世代の方が不便と感じる割合が高まったとされる。したがって、夫婦別姓の選択肢は必ずしも少数派の意見とは言い切ることはできない。そして、夫婦同姓によるデメリットを解消しなければならないだろう。
その解決策として通称の使用がある。通称の使用が普及すると婚姻によって戸籍上の名字は変わっても、生活上使用する名字は旧称のまま手続きができる制度である。
 例えば、銀行口座は通称名でも口座開設できる。免許証やパスポートについても旧姓併記が可能になっている。また、職場においても通称の使用は認められているため、法律婚においては夫婦同姓が原則とされている一方、通称の使用が可能なため、問題がないように制度設計がされている。しかし、結婚前から勤務している職場において特定の人物の姓の変更に対応することは会社の同僚や本人にも負担を与えることかもしれない。実際の場面としては取引先への対応や名刺、社用メールアドレスなど本人の名前に紐づいたものがある限りは婚姻により姓の変更があっても通称の使用を徹底しなければ夫婦同姓のデメリットは解消されないだろう。

5.おわりに

 「福祉の実現」とは「幸福の追求」とも言い換えることができる。その時、法律婚による夫婦同姓、特に女性にとって同姓による負担は少なからずあるという事実は否定できない。しかし、この問題は通称の使用を認めることで、対応できるものの、夫婦のどちらかは日常生活において旧姓と現姓の2つを意識しなければならない。もし、夫婦別姓を認める場合、法律婚にだけ認められている配偶者控除、相続権の有無などは姓が異なる事実婚をしている人にも適用しなければならないといった法律や制度の変更などが発生する。また2015年最高裁により夫婦同姓は合憲であるという判決が出された。しかし、15人の裁判官の内5人は違憲であると判断したことや法廷意見でも夫婦同姓による問題点は指摘されている。そのため、社会の実情に合わせた「福祉の実現」に向けて課題は残されているだろう。

6.参考文献

江上敏哲(2002).『主に女性研究者の結婚に伴う改姓・旧姓と目録・書誌・データベース類について』
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/85005/1/egami_daitoken_200208.pdf


外務省(2020).『旅券(パスポート)の別名併記制度について』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/pss/page3_002789.html (2020年12月 27日参照).


株式会社マイナビ(2014).『職場で旧姓を使うメリット・デメリットは?』
https://wedding.mynavi.jp/contents/kekkonkan/2014/11/entry_35084/ (2020年12月27日参照).


株式会社毎日新聞社(2019).『不平等、家族観の変化…憲法、民法制定時は未想定の「同性婚」 裁判所の判断は』 https://mainichi.jp/articles/20190214/k00/00m/040/218000c
(2020年12月27日参照).


河見誠(2019).『新版現代社会と法原理』 成文堂
厚生労働省(2016).『婚姻に関する統計』 
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/konin16/dl/01.pdf 
(2020年12月27日参照).


竹内豊(2019).『「選択的夫婦別姓制度」で知っておきたい法知識~明日「第2次夫婦別姓訴訟」の判決下る』https://news.yahoo.co.jp/byline/takeuchiyutaka/20191001-00144904/
(2020年12月27日参照).


内閣府(2017).『家族の法制に関する世論調査』
https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-kazoku/index.html
(2020年12月27日参照).


日本共産党中央委員会(2015).『夫婦同性強制「合憲」の不当判決 最高裁裁判官5人違憲」判断』https://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-12-17/2015121701_01_1.html
(2020年12月27日参照).


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