見出し画像

【新型コロナ】民泊撤退を決めた5つの要素《実数値公開》

こんにちは。民泊ホスト歴5年の陽(よう)です。民泊事業者・運営代行業者として法人の代表をしております。

昨今の新型コロナウイルスの影響は甚大で、2020年3月の訪日外国人数は前年比約93%減とのニュースがありました。そんなコロナ禍を受けて、私も主力事業であった自社借り上げによる民泊からの撤退を決めました。

画像8

スクリーンショット 2020-04-20 11.50.03

今回はどのようにして撤退判断に至ったのか、大きく5つの要素に分けてご紹介します。実数値を交えてなるべく具体的な内容を公開しておりますので、民泊を始めコロナの影響をうけている方は是非参考にしてみてください。

1. コロナ終息までの累積赤字額予測

コロナの影響が始まってからすでに甚大な被害がでていますが、それよりも気になるのはコロナ終息までいったいどれくらいの累積赤字が出るのかです。
そこで、現実的な線とワーストケースの両方で考えてみます。

まず民泊運営におけるワーストケースとはコロナ終息まで全く宿泊客が入らなかった場合です。(過去1年間の国籍別宿泊者数で外国人宿泊者の割合が98%であった私の運営物件では十分ありえることです。)
ただし宿泊客がいないからといってこれまでかかってきた費用すべてがこれからもかかるわけではありません。宿泊客がいないからこそ圧縮できる費用があります

具体的に見ていきます。(借り上げ物件9部屋分の実際の月額費用です *端数は四捨五入)

◆家賃 ¥1,700,000→ ¥1,700,000
固定費。家賃減額交渉も選択肢としてありますが、ここでは考慮しません。あくまでも事業継続判断となった場合に検討すべき選択肢です。
光熱費 ¥140,000 → ¥60,000
誰も泊まっていなければ理論値は0です。
◆通信費 ¥40,000 → ¥40,000
固定費なので変動なし。
備品・消耗品 ¥60,000 → ¥0
誰も泊まっていないので0です。
清掃費 ¥400,000 → ¥0
清掃もなくなるので0です。
メッセージ代行 ¥140,000 → ¥0
本来固定費ですが、依頼の必要がなくなるので0です。
◆マンスリー賃貸広告 ¥50,000 → ¥50,000
全く宿泊客がいない前提であれば本来0ですが、マンスリー賃貸需要は宿泊需要よりもあると見込んで残しました。(私は民泊新法による180日/年規制の残りの半年をマンスリーで運営しています。)
◆本人確認サービス ¥20,000 → ¥20,000
マンスリー賃貸のために残しておきます。
合計 ¥2,550,000 → ¥1,870,000

画像5

これで約27%の費用が圧縮ができます。私は終息まであと14ヶ月ほどかかる予想(理由は後述します)をしているので、ワーストケースでの必要経費では
元々の費用ベース → 約3,600万円
圧縮した費用ベース → 約2,600万円
約1,000万円の差が出てくるため、ワーストケースではまず費用圧縮を考慮すべきです。
ワーストケースでは売上0として計算しているため、累積赤字予測は圧縮後の費用と同額、およそ2,600万円となります。これだけの現金を手元資金や給付金、融資などで確保することができれば終息までの運営は盤石と判断できます。

しかし、すでにコロナの影響を大きくうけており、圧縮後とはいえ14ヶ月分(圧縮前の金額換算で10.5ヶ月分)の費用を用意するのはなかなか難しいものがあります。

そこで次に現実的な赤字予測を立ててみます。
本来上記の2,600万円の現金が用意できても、ワーストケースが現実となってしまえばそれは盤石どころか倒産ギリギリです。それでも盤石と表現したのは上記があくまでも宿泊客が0であった場合の累積赤字だからです。現実には宿泊客は0ではありません。単価を下げれば宿泊客が見込めますし、私がマンスリー賃貸広告は続ける判断をしたように、マンスリー賃貸需要は宿泊需要ほど落ち込んでいません

実際に私が受けたマンスリー賃貸(以下マンスリー)のお問い合わせを例に理由を挙げます。

・海外赴任中だったがコロナの影響で急遽帰国を言い渡されたため、一時帰国中の滞在先が必要
・高齢の家族と同居しているが、仕事で外出するため感染させてしまわないか心配。終息までの滞在先を探している
・新居に転居予定だったが、コロナの影響で中国からのトイレや水回りの納品が遅れており、完成までの仮住まいが必要
テレワーク拠点として

このような背景でコロナ特需とも言える需要があるため、マンスリー需要は宿泊需要よりも落ち込みが比較的少なくすんでいます。

これらをふまえた上で、実際の売上はどれくらい上がりそうか予測を立ててみます。
ここで忘れては行けないのが、先程の圧縮費用です。
宿泊客は単価を下げれば0ではないとはいえ、宿泊客を受け入れればせっかく圧縮した費用が結局かかってくることになりかねません。
宿泊客を受け入れることでかかる費用が、受け入れによって上がる売上よりも大きければ、かえって赤字が膨らみ本末転倒です。

画像4

私の場合宿泊客を受け入れないことで月額約68万円の圧縮ができることになるため、売上はそれ以上上がらないと宿泊客を受け入れる意味がありません

680,000円(圧縮できる費用) ÷ 9部屋 = 約75,000円/部屋
75,000円 ÷ (30日*稼働率70%) =  約3,500円/泊

稼働率が70%ある場合でも、宿泊単価3,500円を超えてこないと宿泊客を受け入れるコストメリットがない計算です。
これは実績値から見るとかなりシビアで、特にコロナの影響が顕著となった3月中旬以降では、宿泊単価を3,000~5,000円に設定して稼働が50%程しかありませんでした。(なおご参考までに、コロナ影響前の12月の平均宿泊単価は実績値で約17,000円、稼働率95%でした。)

したがって宿泊客受け入れでは費用圧縮メリットのほうが大きいため、宿泊客ではなく前述のマンスリー需要を取り込むことで赤字幅の縮小ができないか考えてみます。

マンスリーのメリットは滞在期間が1ヶ月~と宿泊客と比較し長期となるため、引き続き費用圧縮メリットを享受できる点にあります。(この点があるため宿泊単価が圧縮費用分よりも高く取れる場合でも、マンスリーも比較検討すべきです。)

ゲスト滞在中は清掃が入らないため、清掃費も備品代も滞在中はかかりません。メッセージ代行も同じゲストが長期で滞在するのであれば代行依頼しなくとも自分1人で十分に対応できます

こう考えると、宿泊単価を相当に高く設定できる場合を除いては、マンスリーをメインで受け入れ、(費用圧縮メリットを超える宿泊単価を取れる場合は)マンスリーの受け入れのできない1ヶ月未満の端数を短期の宿泊客で埋めることが現実的に取り得る最善策となります。この場合も宿泊客の受け入れは最低宿泊日数の設定などでなるべく長期の宿泊客を優先的に受け入れることが赤字幅の縮小において重要です。

ここまでわかればあとはマンスリーの売上予測を立てるのみです。
ここでも私の直近の実績値を参考に見ていきます。

平時マンスリー月額賃料平均 19.7万円/部屋

このままの価格で入ったマンスリーの予約は9部屋中1部屋のみでした。
そこで価格調整をし、現在は下記のような価格設定としました。

コロナ特別割 月額賃料平均 15.2万円/部屋

結果直近で9部屋中8部屋が埋まりました。
金額にして約23%割引きです。

これは1泊あたりに換算すると平均約5,000円/泊となり、宿泊客を取りに行くよりも圧倒的にコスパが良いことがわかります。それでも決して赤字を免れるほどの売上ではなく、最終的に現実的な赤字予測は下記のようになりました。

圧縮後費用 1,870,000円 - 152,000円/平均月額賃料 × 9部屋 × マンスリー稼働率78% = 月間赤字 約800,000円

*埋まった部屋数で見ると稼働率89%にも見えますが、うまるまでの空室期間もあるため、稼働率78%で計算しました。(大体平均2ヶ月の滞在者が見つかるまで間に1週間空室がでる計算です)

また実際にはマンスリーで稼働しても全く稼働しないときと同様の費用圧縮は見込めません。清掃費や備品代も少なくなりますがかかります。光熱費も通常通りかかります。それらを補正するとおよそ月100万円程度の赤字、終息まで14ヶ月間で合計1,400万円の累積赤字現実的な累積赤字予測です。

画像5

以上のことから、コロナ終息まで大体1,400万円~最大で2,700万円の累積赤字となる予測となります。
給付金や融資などをうけることで手元資金を1,400万円に増やせると、心もとないがギリギリコロナ禍を乗り越えられるかどうか、2,700万円用意できれば結構安心できるという結果です。

2. 撤退にかかる費用

コロナ終息までの累積赤字に耐える十分な現金を用意できそうにない場合、残されたオプションは撤退のみです。ところが、撤退もタダというわけには行きません
家具家電の処分や、退去時のルームクリーニングや修繕費解約の予告期間までの家賃、場合によっては契約期間完了前の解約による違約金もかかります。

また、コロナ終息まで耐えうる十分な現金を用意できた場合でも、撤退判断としたほうが良い場合もあります。要点を先にお伝えすると、撤退費用と次項の再参入時の費用の合計が、先程計算した累積赤字よりも小さい場合は一旦撤退し、コロナ終息後再度参入したほうがリスクも小さく、終息後の手元現金も多く残ることとなります。
そのため、仮に現金が十分にあっても一度撤退にかかる費用は見積もってみるべきです。

画像10

それでは実際に私の運営物件9部屋にかかる撤退費用を見ていきます。

家具家電の処分 9部屋合計31万円
私が過去に依頼した業者だと30㎡まで3万円、40㎡まで4万円でした。
ルームクリーニングや修繕費 9部屋合計90万円
入居期間や部屋のサイズによっても変わってきますが、各部屋の契約書に記載のクリーニング費用を参考に見積もります。都内の物件であればだいたい契約書にハウスクリーニングやルームクリーニングといった項目の記載があります。他エアコン1台あたり1~2万円、その他にクロスやフローリングの張り替えがダメージに応じて必要になる場合があります。敷金がある場合はそこから引かれるため、持ち出しの現金は比較的少なく済みます。
解約予告期間までの累計赤字 合計220万円
私の契約している部屋の場合2~3ヶ月必要でした。平均して2.2ヶ月でしたので、その間の赤字を計算します。前項からマンスリー運営で月100万円の赤字という計算だったので、解約までの赤字は合計220万円となります。
違約金 4部屋合計約80万円
契約期間満了前の解約に違約金の設定がある場合があります。これも契約書に記載があるので確認してみましょう。私の契約している部屋では4部屋が1年未満の解約でそれぞれ家賃1ヶ月分の違約金がかかります。
【全部合わせて約421万円

なんと撤退する場合でも合計421万円もの費用がかかる計算です。

画像6

すでにコロナの影響を受けて本来稼ぎどきの3、4月の売り上げが立たず、手元資金が減っている中でこの金額は決して安くありません。撤退費用を安くするための施策を打つべきです。
そこで私が試した施策とその結果をご紹介します。

スクリーンショット 2020-04-17 18.01.00

事業売却
借り上げ物件の賃借権を家具家電等とともに別の方に引き継ぐ方法です。これができれば、現状引き渡しとしてルームクリーニングや修繕費、家具家電の処分代を浮かせ更に譲渡金も得ることができるかもしれません。私はTranbiに掲載し、18件の問い合わせを上場企業、非上場企業、個人の方からいただきましたが、残念ながらどれも成約には至りませんでした。考えられる原因は2点:そもそもの譲渡金額が高い(1000万円での設定でした。)、交渉をすすめている間でも日に日にコロナの状況が悪化し、買い手心理が冷え込んだ。売却を検討する際は撤退費用の圧縮程度の金額で考え、なおかつ交渉には相応の期間がかかる前提で挑むことをおすすめします。
違約金の免除交渉
本来契約に定められている貸主の権利なので、支払うべきものです。ただしそもそも撤退にかかる費用に十分な資金が手元にない場合、借主の方にお願いする形で相談してみるのも手です。決して「免除すべき」といった態度では連絡しないようにしましょう。私は残念ながらこれも断られてしまいました。
家具家電の譲り渡し
民泊許可物件として貸し出している物件ではその後も民泊として運用される可能性が高いです。そこで、撤退にあたり不要となった家具家電の無償での譲り渡しを貸主の方に相談してみました。結果3件は引き受けてもらえることになりました。(他6件はまだ貸主の方の返事待ちです。)これによって家具家電の処分費用の圧縮ができました。

結果圧縮できたのはわずか12万円(返事待ちの貸主の方からの返答によっては最大31万円)で、撤退にはおよそ400万円がかかることがわかりました。

予告期間にかかる累積赤字の220万円が特に撤退費用の重しになっているため、なるべく早く方針を固めたほうが良さそうです。
とは言え給付金や融資の結果はすぐには出ないため、撤退費用と合わせて再参入時の費用を見積もることで結論が出せないか見てみます。

3. 終息後の再参入にかかる費用

コロナ終息までの運営資金を十分に確保できるかわからない状況では、なるべく早く撤退か事業継続か判断する必要があります。そこで一旦資金の心配は忘れて、資金が十分にある場合でも撤退の判断となるのかどうかを見ていきます。

つまり、撤退後再参入すべきか、あるいはそのまま事業継続とすべきかです。

先に述べたとおり基本は

撤退費用 + 再参入費用 < 終息までの累積赤字 → 撤退&終息後再参入
撤退費用 + 再参入費用 > 終息までの累積赤字 → 事業継続

上記のような判断となります。

ここで参考に私の借り上げている9部屋の参入時の初期費用を見てみましょう。

再参入時費用
礼金・保証金・仲介手数料合計(平均2.4ヶ月)4,080,000円 + 準備期間家賃(平均1ヶ月)1,700,000円 + 家具家電(9部屋合計)3,000,000円 = 合計8,780,000円

再参入にかかる費用は約878万円でした。
撤退にかかる費用が約400万円ですので合計が約1,278万円事業継続のギリギリラインである1,400万円よりも安く済むことがわかりました。

以上のことから私のケースにおいては、資金が潤沢にある場合でも事業継続よりも撤退のほうがリスクも少なく、終息後に再参入したほうが手持ち資金も多くなるため、給付金や融資の結果を待たずに借り上げ物件からは撤退という判断になりました。(運営代行や保有物件の運営は継続となります。)

なお、余談となりますが前述の判断基準には例外があります。
物件の希少性や収益性が著しく高い場合です。

物件の希少性や収益性が高い場合はいまがチャンスと考えている事業者が空室となり次第すぐに借りる事になり、終息する頃には借り直しができなくなる可能性が高いためです。
ここまで資金さえあればコロナ終息後簡単に借り直しができる前提で考えてきましたが、物件拡充や新規参入を考えている人にとってはその物件を「いつ借りるのが一番コスパが良いか」だけでなく初期費用に終息までの赤字も含めた「累計費用」をどれくらいで回収できるか、で借り上げ判断をします。
例えば私のコロナ前の物件拡充の判断基準は「2年で初期費用の回収ができるか」でしたが収益性の高い物件においては2ヶ月半で回収できる物件もありました。残りの1年と9ヶ月半の見込み利益をコロナ終息までの費用に当てると考えれば、今すぐ借りるという判断にもなり得ます。

よって、すでにコロナ禍を乗り越えられる資金が十分にあり、なおかつ希少性や収益性の高い物件を借りている場合は、[撤退費用 + 再参入費用 < 終息までの累積赤字]であってもあえて借り続ける判断をしたほうが良い場合もあります。

4. 給付金や融資制度

今回私は撤退判断となりましたが、前述の初期費用2.5ヶ月回収の部屋など、あえて借り続ける判断とすべき部屋もありました。それにも関わらず、借り上げ物件一律で撤退判断となったのは、融資制度の利用条件が厳しかったためです。

結論から述べます。融資がすぐに必要な方は信用保証協会の「新型コロナウイルス感染症対策緊急融資(感染症対応)」も検討してください。
実績を含まない「減少見込み」だけで利用できる新型コロナウイルス関連の融資制度は私の知る限りこれだけです。(しかも申込みから2週間と3日で融資が実行されました。

スクリーンショット 2020-04-17 00.57.18

私がコロナの影響をうけ始めて最初に参考にした経産省のパンフレットにはなぜか載っていません。このパンフレットにのっているのは全て直近の1ヶ月かそれよりも前の月の実績値による昨対比売上減少が融資条件となっています。

私の場合昨年末に運営物件数の拡充を図ったために、大幅な赤字でも売上絶対値では昨対比マイナスとなるまでに相当期間を要し、なかなか融資申込みができず撤退判断をせざるを得ませんでした。(パンフレットの融資制度ではいずれも昨年度からの既存物件における売上減少幅は考慮してくれませんでした。)

5. コロナ終息までどれくらいかかるのか


最後に、「コロナ終息までの累積赤字額予測」ではコロナ終息まであと14ヶ月として計算しましたが、どうしてあと14ヶ月と考えたのかご紹介します。

私が参考にしたのはイギリスで免疫学者・医師として活躍されている小野昌弘さんのこちらの記事です。

内容をまとめると以下のとおりです。

コロナ終息には、「集団免疫の成立」もしくは「ワクチンの完成」が必要
・集団免疫の成立には人口の6割以上の人数が感染する必要がある
社会隔離策(ロックダウン等)をとらないと医療崩壊し被害が甚大になる
・社会隔離策をとっても、隔離策を終了すれば再度感染爆発する(集団免疫が成立していないため)
・医療崩壊しないペースで社会隔離策と解除を繰り返す必要があり、これによって集団免疫が成立するのには2年以上かかる
・ワクチンの完成には18ヶ月以上かかる

よって集団免疫成立よりもワクチン完成のほうが早く、コロナ終息までには18ヶ月かかると考えました。(新型コロナウイルスの流行が2019年12月からであったため残り14ヶ月の計算です。)

なお、ハーバード大の最新の研究でも集団免疫と感染爆発の繰り返しについて同様の結論が出ています。


以上が私が借り上げによる民泊からの撤退という判断に至った経緯とその5つの要素の説明です。最後まで読んでいただきありがとうございました!
ご紹介した数字や私の状況が少しでもみなさんのご判断に役立てば幸いです。一緒にコロナ禍を乗り越えて行きましょう!

役に立った! または 面白い! 興味深い!と思っていただけたなら、是非「スキ」「フォロー」をお願いします。次の記事の励みになります!

情報発信用のinstagramアカウントも作りました。よかったらこちらもフォローお願いします!民泊の撤退や継続、新規参入のご相談も乗ります。お気軽にメッセージください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?