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性についての研究_アンドレ・ブルトン著_野崎歓訳

【8冊目】
性についての研究
アンドレ・ブルトン著
野崎歓訳
【感想】
・ヨーロッパに対する知識は全くないが、フランスは、その立地から、ヨーロッパ各国の文化を集めた場所だろう。あれほど各国がその特色を持っているヨーロッパ地域文化が集まる場所では、あのように文化(=感覚)が発達するものなのだろう。そして、その理解と発達のためにも言語化や表現(=芸術)することが必要なのだろう。(文化という意味では、音楽は東ヨーロッパの方が盛んだが何故か?)
・感覚を表現するという手法を取るこの国においては、語彙が豊富なのだろうと思ったが、言葉は無限に作れるとのことで、確定的な資料は見当たらなかった。
  因みに頻出上位語1,000語を覚えた人の日常会話理解率
   フランス語・英語・スペイン語…約80%
   中国語・朝鮮語…73%
   ロシア語…67%
   日本語…60%
   ※福岡国際大学紀要掲載データ(2011年)による
・文学系の人たちの議論は、ほぼ聞いたことがないが、この本にあるフランス文学家シュリアリストの議論の方法は非常に面白かった。対面でその場で聞くと全く違うものなのだろうが、この本を読んでみても、何かその議論の場に居合わせるような感覚があった。
・議論の方法は、問いに対し、各人の感じていることを述べ合うというものであり、そこにある構造を説明することは一切なかった。その回答はとても端的で、どこか自動筆記を思わせるような感じがした。ただ、理性と感覚を分離できていないだろうと考えられる回答も多かった。文化はそのようにしながら発展していくものなのだろうと思うが。
・議論は、下記のような手法を取っているように感じられた 各人の意見を聞く→各々が自分の感覚との相違を感じる→自らの感覚をより鮮明なものにする
・立地的条件から、各人の意見を聞くという手法がとられるとすれば、そのために議論を行うことが発達することは自然の流れだろう。とすれば、物事を断言することや自分の意見を言うということもまた受け入れられて当然な文化になるのだろう。
・シュルリアリズムは第一次世界大戦中に始まったとのことだが、戦時中にこそこのような、人間の体や人間存在を扱った芸術(?)が始まったのだろう。そして、その内容は根源的な問いを扱い、その作品も超前衛的なものである。と言ってもそこには過激さがあるようには感じられず、むしろ純粋さがあるように感じられる。
・生と死という問題は、科学が発達すればするほどに議論の遡上に上がってくるべき内容だが、その議論が活発化する機会(=問題意識や関心を持つ人)は少なくなっていくだろう。そのような中で、どのようにして意識が成熟していくのだろうかと考えたとき、その[一つの解]は、この議論のように、特定の人たちが集まって議論をするという、非共同体で行われていくこととなるだろう。そのような中で、共同体が自分の生活の根幹と密接に関わっている日本社会は大きく変遷しなければ社会意識は発展できないだろう。日本全国各地で、共同体による意識の発展が試みられており、その成果に注目したい。成功する地域とそうでない地域差が鮮明になった後、日本国共同体はどのような方向に進むのか。

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