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【ジーンライフ】遺伝子検査をやってみた

遺伝子、それは人類に残された未踏のロマンだ。
それはあらゆる生命の根幹を為す設計図であり、型や組み合わせの違いによって個体が今後どのように成長していくか、どんな姿かたちになるのかを決定づける運命の螺旋だ。

子が親に似るのは遺伝の影響であることは誰でも知っているだろう。遺伝子は親から子へと受け継がれ、何世代も先の未来へと脈々と繋がっていくことから、進化生物学者リチャード・ドーキンスは「生物それぞれの個体は遺伝子が悠久の時間を旅するための乗り物にすぎない」と言った。
人間の場合、同一の両親からでも遺伝子の組み合わせは膨大な数にのぼり、その数はなんと約7兆通りにもなるという。
遺伝子の違いによって個性が生まれ、多様化したことで厳しい適者生存の理に淘汰されることなく生き残り、数を増やして人類はここまで繁栄してきた。

生まれつきの気質や個性が遺伝子の影響であるならば、遺伝子を解析できれば自分の適性や疾患リスク、祖先のルーツなどもわかるということだ。近年の技術革新や自己分析の需要もあって、遺伝子研究に取り組む企業の中には個人向けの遺伝子検査サービスを行っているところもあると知り、こないだ僕もやってみた。

今回、僕が選んだのはジーンライフ社の遺伝子検査キットとして販売されているGenesis2.0 PlusとHaplo3.0とMyself2.0の3つだ。
主にがんや生活習慣病リスクなど健康に関するジーニアスと、祖先のルーツがわかるハプロと、性格や個性がわかるマイセルフである。お値段は割引セールを利用して合計3万円ほど。
だいたいどこも同じ仕組みだと思うが、送られてきた検査キットに自分の唾液を入れて再郵送して数週間待つと解析結果がアプリで配信されて見られるようになる。検体を送ってからというもの、結果が出るのを今か今かと楽しみにしながら待っていた。

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検体を送ってから2〜3週間、解析結果が届いた。全部で400を超える項目に一つずつ目を通した。
がんや生活習慣病などの疾患リスクについては、気をつけようという感想以外は出てこない。現段階で特に疾患はなく、健康診断でも問題ないので心当たりはなにもないのだが、遺伝リスクがあるとはよく聞くのでリスク高の疾患については特に注意していこうと思う。
祖先のルーツに関しては父と母の祖先はアフリカから全く別のルートを辿って日本列島にやってきたのだとわかり、なにか感慨深いものがある。今この世に存在している自分の運命というのは、奇跡としか言いようがないほど天文学的な確率の連続によって起こっている。頭ではわかっていたが、ルーツを知ると実感が強まる。
性格や個性についてだが、現段階の自分と比較するとあまり当てにならないなと思うことが多かった。
例えば音程に関する能力について、僕は全体の約2.8%しかいない高い遺伝子型を持っていたのだが、「お前より音痴な奴みたことないんだけど」と周りに言われるくらいの音痴だ。
性格面では、外向性が高くて規則正しく、不確実なことを恐れやすく新規探究性が低い、倫理観が高くて神経質でセンシティブな傾向だという結果がでた。
……なんというか、あんまり好きじゃないタイプの人間性なんだが。全く心当たりがないと言い切ることもできないが、なりたい自分像からはかけ離れている。MBTI的に言うと、INTPの自分とは真逆のExFJっぽいんだよね。

送られてきた解析結果はこんな感じ

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それぞれの項目について遺伝率がどの程度なのかも研究が進められていると思うが、性格についてはやはり環境要因が大きいのではないだろうか。

「三つ子の魂百まで」と諺にあるが、逆に考えれば性格面に関しては三歳までの環境要因による影響が生まれ持った気質よりも重要になるのだろう。生まれた時から犬と一緒に育てられた猛獣が、犬のように穏やかで従順に人馴れしてる動画とかよく見るし。
さて、ここで気になるのは、果たして生まれつきの傾向通りな性格で振る舞うことが幸福に繋がるのかどうかだ。先天的な気質のままに振る舞うことと気質を抑圧しながら生活することが同様の外的レスポンスを得るのであれば、前者になる方が圧倒的にストレスが少なく充実した日々を送れるだろう。アニマルウェルフェアでは動物福祉の精神の根底にこの基準があり、「動物は生まれてから死ぬまでその動物本来の行動をとることができ、幸せでなければならない」としている。
しかし高度に文明化した現代社会で本能のままに生きることが現代人には不可能であるように、社会倫理の中で好ましくない気質や価値基準から外れた能力を持っていても、それをいかんなく発揮しようとすれば社会はたちまち牙をむくだろう。合戦で勇名を馳せた将軍の気質は現代では近所で有名なキレるおじさんになるかもしれないし、飢饉と貧困をやり過ごした物静かで忍耐強い性格は現代では暴力の嵐をやり過ごす根暗ないじめられっ子が受け継いでいるかもしれない。持っている才能を発揮しようとか、自分らしく生きていこうとか世間ではよく言われるが、それが世間の逆風にさらされず受け入れられるのは現代社会の価値観と自分本来の気質が上手く適合している場合に限るのだ。それでも自分らしく振る舞うことは、本当に幸せと呼べるのだろうか?

野生動物のように自分を縛ることなく好きに生きられる方が幸福度が高い気もするが、各人が自我を押し殺してでもルールを準拠して安心安全な環境を作り上げ、条件を揃えて文明を向上していく道を選んだ先人たちのおかげで今日の平和がある。日常生活の中でどれほどストレスがあっても、社会問題がどれほど噴出しても、平和の恩恵を忘れてはいけないよね。
しかしどんなに文明が高度化しても幸せになるのは難しいのだから、そもそも人間は幸せになるために生まれてないのだと僕は思う。遺伝子解析の中でも不安を感じやすいとかストレスを受けやすいとか、幸せを遠ざける気質を持った遺伝子型が存在するわけで、適者生存の厳しい自然淘汰を潜り抜けた人類の多様な生存能力は、幸福さえも捨て去って手に入れた特徴だってあるはずだ。

僕が優生思想に否定的なのは、遺伝子と表現形質の関連は複雑で、表に現れた個性から安易な優劣はつけられないからだ。
もしかしたら歌の上手さと膵臓がんのリスク高は同じ遺伝子による影響かもしれない。誰もが素晴らしいと思う能力や倫理観と関連する遺伝子型の持ち主は特定のウイルスに罹ると重症化しやすいとか、表面上の関連性が見えない点と点が予期せずして同一の遺伝子による影響で繋がっているのかもしれない。
また、天然痘に強い耐性を持つ遺伝子は今の時代に不要かもしれないが、また再び天然痘に類似したウイルスが現れて世界中で猛威を振るうとなれば生存可能性を大幅に高める特別な才能になるだろう。
時代が個性の要不要を決めて、文化が遺伝子よりも色濃く人類の優劣を審判する時代にあって、僕は現代に否定された人の個性もちゃんと肯定したい。
もちろん感情としては僕も人の好き嫌いがあるけれど(むしろ激しい)、メタ的に考えれば価値観に正誤や優劣があるわけもなく、自分と合わない価値観を価値の乏しいものだと考えたいのも感情でしかない。今の時代で評価される能力を盲信せず、自分の長所にばかり重きを置かず、根底のところでは人間も動物も、勝者も敗者も金持ちも貧乏人も犯罪者も被害者も、等しく平等な存在だと思いたい。そこの寛容と慈悲を失えば人として生まれた意味がなくなる…… と、言いたくなる感情をメタ認知して、思想とは無関係に生命は産まれてくるのだと言おう。
……こういうのって考え出すとメタ認知の坩堝だよね。

無能も悪徳も不幸体質も、なんでもあるから人間は魅力的なのだし世界は素晴らしいのだと改めて思う。
遺伝子多様性は、画一化した現代の価値観なんて人の一面に過ぎないのだという事実を物語っているのだと思う。

ps.今までの意見を全部覆すこと言うけど、ハゲやすいとか計算遅いとか座高が高めだとかの遺伝子の持ち主だって書いてあったのは、ほんの少し嫌だったりもしちゃう(笑)

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遠藤健太郎 Kentaro Endo
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