『チャイルド★プラネット』と大江健三郎
『チャイルド★プラネット』が大江健三郎の『芽むしり仔撃ち』のプロットに似ている、との指摘を何人かから受けました。私、大江の小説を実は一冊もまともには読んでないのです。今回、ネットで『芽むしり仔撃ち』の粗筋を読み、なるほど、こんな話だったのか、と初めて知りました。
ただし大江健三郎の小説のタイトルは好きです。『芽むしり仔撃ち』は、音で聴くだけだと何だか分からない、しかし印象に残るいいタイトルだと思います。タイトルからは、全然違う内容を想像していました。
『チャイルド★プラネット』に影響を与えた小説はドイツの児童文学者、ヘンリー・ウィンターヘルトが1937年にスイスで出版した児童文学の傑作『子どもだけの町』です。私が少年期に読んだ本の中で一番面白い小説でした。二番目は江戸川乱歩全集です。
『子どもだけの町』は、ドイツの国境沿いの田舎町、ティンペティルが舞台です。ティンペティルの子供たちが余りに悪さばかりするので、お灸を据えてやろうと大人たちが話し合い、ある日示し合わせて、子供たちが寝ている夜中に大人全員が町を抜け出して、森の中に隠れるのです。
町の大人は、ほんの1日だけのつもりで、目を覚ました子供たちに、大人が一人も居なくなった町がどんなに不便か、思い知らせようとしたのです。ところが森で道に迷い、知らずにポーランドとの国境を越えてしまって、ポーランド軍に全員が捕まって町に帰れなくなってしまうという設定です。
目覚めた子供たちは町から大人がいなくなったことに仰天し、いつまで経っても帰らないのを見て、子供の中でリーダーを決め、町の不良少年団と戦ったり、発電所を稼働させて市電を動かしたり、歯医者の娘が親の道具で虫歯の子供の歯を抜いたりするという、非常に面白いお話でした。
これに『蝿の王』や『漂流教室』のテイストを加えて作ったのが『チャイルド★プラネット』のプロットです。
『蝿の王』は暗黒版『十五少年漂流記』(無人島で少年同士が殺しあう)で、『漂流教室』は人類が滅びた未来に学校ごとタイムスリップした子供たちが殺しあうお話です。私の場合、子どもだけの町ができる設定を考えて、米軍基地から「大人だけを殺すウィルス」が流出する設定を思いつきました。
つまり、『チャイルド★プラネット』の話の骨格は『子どもだけの町』『十五少年漂流記』『蝿の王』『漂流教室』などから影響を受けていますが、この作品の独自アイデアと呼べるのが「18歳以上を殺す細菌兵器」の設定で、そこから全てのストーリーが出ています。
人間の創作である以上、何かの影響を受けることは避けられません。しかし、先行作品に何らかの「新しい部分」を付け加えることが創作行為なのであり、先行作品の「まんま」だと、剽窃・盗作と呼ばれる危険があります。