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飛行機に乗り遅れそうになった話

寝坊した…!
寝起きのぼんやりとした頭と、目覚ましをかけた時間と現実の時間との乖離でアラートを鳴らす頭が焦点を結ぶのに少し時間がかかった。旅行当日の朝、時刻は5時50分。

5:50 トラブルは寝坊から始まった

数秒間呆然とした後、自宅を出なければならない時間を確認し、まだ40分あることに安堵した。致命的な寝坊ではない。

今日から旅行に出発するため、朝4時に目覚ましをかけていた。とはいえ、出発は6時半。妻は準備に時間がかかるというので、かなり早めに目覚ましをセットしていたのだった。僕自身はもうほとんど荷造りを終えていたし、特にやることはない。家でゆっくり朝食を摂ることは難しいものの、大事に至ることはないだろう。
むしろ、そこまで早起きする必要もないのに、徒に目覚ましを早くセットしておかげで、鳴ったときに止めてしまったのがいけないのだ。旅慣れていない僕らは、前夜も遅くまで荷造りをしていたのだった。
慌ただしくも多少の余裕をもって出発準備をしている中、AIスピーカーClovaから本当のトラブルを告げるアナウンスが流れた。

6:20 運転見合わせの通知

「京王線は、府中駅で発生した人身事故のため、運転を見合わせています」

なんだって…!
羽田空港に行くために、調布駅のバスターミナルから出発するリムジンバスを予約していた。自宅のある府中駅から調布駅までは電車だ。まだ人身事故が発生してから時間が経っていないようで、運転再開見込みは立っていない。この時点で、調布まではもう電車で行けないことが確定した。
しかしまだ手はある。調布駅までタクシーで行けばいいのだ。もし電車が止まっていることを知らないまま駅まで行っていたら、無駄に時間を費やしてしまうところだった。いち早く情報を伝えてくれたAIスピーカーに感謝しながら、当初の予定通り6時半に家を出て、自宅近くでタクシーを拾うことができた。
運転手に行き先を告げると、「何時までに着けばよいですか?」と訊いてきた。僕らが急いでいることを分かってくれているのだ。バスが7時10分発だから7時5分までに着きたいと告げると、運転手はそれなら大丈夫だと言った。
スムーズな運転のおかげで、6時55分、調布駅到着。間に合った。運転手にお礼を言ってタクシーを降りる。少し時間に余裕ができたので、調布駅でトイレを借りて用を足し、同じく駅の構内にある売店でおにぎりを買うことにした。

7:07 まさかの忘れ物

バス出発の3分前、無事バスに到着。キャリーバッグを係員に預け、スマホのチケットを見せてまさに今バスに乗り込もうとしたその時、妻が声を上げた。

「あれ、わたし、バッグがない…!」

どうやら、スマホや財布が入ったショルダーバッグを調布駅のトイレに置き忘れてきたらしい。なんてこった。
バスは定時運行が基本。今から取りに行っても、出発までには戻ってこられないだろう。万事休す。それでも、妻は走り出した。とにかく行ってくる、と言い残して。その場に残された僕は、かつてない妻の本気の走りを見送った。
係員は、一度積んだキャリーバッグをバスのトランクルームから降ろし、運転手に事情を説明。運転手は無表情。きっと僕が運転手でもそうだろう。でも、少しだけ待ってくれるようだ。
係員に、どのくらい待てるものなのかと尋ねると、「20分にディズニー行きがあるので」という。そのバスが入ってくるまではなんとかなるということなのだろうか。バスがやってくるのが出発の5分前だとすると、それまでせいぜい5分というところ。
このバスに乗れるかどうかで、この先の行動も変わってくる。それでも僕は待つ以外にできることはない。やきもきする僕をよそに、係員は割と呑気な感じで話しかけてくる。

係「どちらまで行かれるんですか?」
僕「石垣島です」
係「おお、いいですね~」
僕「……、乗れたらね…」
係「向こうは暖かい感じなんですか?」
僕「20℃~23℃くらいみたいですよ」
係「いいですね~」
僕「まあ、乗れたらね…」

7:10 バスの出発時刻

身も蓋もない会話をしていると、7時10分、バスの出発時間ジャストに妻からLINE。「あった!待っててもらえないかなっ」
お願いしてみると返信し、運転手に事情を説明。荷物を駅で回収し、今こちらに向かっていると告げると、相変わらず無表情のまま「なるべくお急ぎください」との返答。そう言うしかないよね。定時運行のバスにとっては、出発時間を過ぎてその場に留まることは簡単に許容できることではない。
僕自身が時間に正確な方でもあるし、時間通りに出発できないことはそれ自体がストレスだ。
このバスに乗れなかったら、電車が動くのを待って電車で羽田を目指すほかない。動いてさえいれば間に合うだろうが、ダイヤが乱れていたら飛行機に乗れるかどうかは分からない。
7時12分、遠くに妻の姿が見える。速さは歩いているのと大差ないが、走るファイティングポーズは感じ取れた。運転手に、姿が見えたのでもう来ますと伝えると、やはり無表情のまま「なるべくお急ぎください」。
なんだこれ、もしかしてコントなのか?

7:13 バス出発

7時13分、真冬の早朝に大汗をかきながら妻が息を切らして到着。これを無事と呼んでよいかは分からないが、それでも3分遅れでバスは出発した。
車内は、少ないながらも他にも乗客が乗っている。もし僕らのせいで万一にでも空港への到着が遅れたら申し訳ないと恐縮しながら乗車時間を過ごした。
羽田空港の到着予定時刻は9時ちょうど。静かな車内に、バスのエンジン音だけが流れる。
果たして、到着時間はどうか?
到着は、なんと…!

8:05 羽田空港到着

8時5分、予定時刻より1時間も早く、羽田空港第2ビルに到着!ウエーイw
結果だけ見れば、出発の3分遅れなどなんでもなかった。到着時間があまりに早過ぎたので、まずはタリーズで一息。
飛行機にも無事搭乗し、石垣島に向けて出発できました。行ってきます。

読み返してみたら、飛行機に乗り遅れそうになったというより、バスに乗り遅れそうになった話だった。

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