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ポークチャップ
10月に入ってから急に空が高くなったような気がする。
気温も一気に下がり、仕事中に汗ばむことも少なくなった。
日課の散歩に出れば、金木犀の甘い香りに気づき、秋の訪れを実感する。俺はこの香りを嗅ぐ度に、胸がキュウとなり、昔のぼんやりとした記憶が蘇る。
幼稚園の遠足の帰り、母の運転する車に揺られながら、まどろんだ黄昏時。
夕暮れ時まで当時の友だちと校庭で遊んだ小学生の頃。
部活が終わった後、友達と駄弁りながらダラダラ過ごした西日のまぶしい放課後。
テスト勉強を言い訳に暗くなるまで友だちと居座った、土曜日の喫茶店。
それ以外にも恥ずかしいあれやこれやを思い出し、一人でうっすらと赤面しながら歩いていると、ふとケチャップ味のものが食べたくなった。
オムライスしかり、ハンバーグしかり、コロッケしかり、ケチャップはいつだって子供の頃を思い出す味だ。
俺のばあちゃんのカレーは、これでもかという程ケチャップが入っていたが、これがとんでもなく美味かった。子供の頃、俺はお母さんの作るカレーが好きだったが、たまにばあちゃんの作るカレーも甘酸っぱくて好きだった。
ケチャップ味というと真っ先に思い浮かぶのがオムライスだが、以前記事にした通り、俺は上手に作ることができない。そこでもう一つの案を採用することにした。
俺は家に帰り、豚ロースの厚切りを冷蔵庫から取り出して、筋を切って小麦粉を両面に振った。ソースはケチャップ・ソース・赤ワイン・はちみつを1:1:1:1で混ぜる。
熱したフライパンにオリーブオイルをひき、中火で熱して豚ロースを焼く。片面にたっぷりと塩コショウをして、火が通ったらひっくり返す。
両面こんがりと焼けたらソースを回し入れ、豚肉によく絡めて熱し、アルコール分を飛ばす。
皿にキャベツの千切りを盛り、その上に豚ロースを並べてソースをかける。彩りを良くするために乾燥バジルを振りかけておく。
付け合わせは麦ご飯。皿に盛り付けて「ライス」にする。あとはインスタントのしじみスープ。たまに手を抜くことが、自炊を長く続けるコツだ。
ポークチャップ。味付けはケチャップが主体なので、ケチャップ味を食べたいときにもってこいのレシピだ。
ナイフとフォークを使い、一口いただく。甘酸っぱいケチャップの香りと豚肉のうまみが一体となり、口内を幸福が満たす。
幼い頃に食べたことがないのに、どこか懐かしさを感じる。ケチャップ味ってのはいつだって、男の子の思い出の味だな。
腹がいっぱいになって部屋の窓を開けたら、また金木犀の香りが風に乗ってやってきた。多分、来年も再来年も俺はこの香りを感じる度に、胸がキュウと締め付けられるのだと思う。
俺にとっての郷愁の香りは、ケチャップと金木犀だ。