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どんなガチャでも大当たり

この文章は、マイナビとnoteで開催する「#あの選択をしたから」の参考作品として主催者の依頼により書いたものです。

世界中の感動時間を増やそう!コマ撮りアニメーターの篠原健太です。

今回は「あの選択をしたから」というテーマで僕自身の経験を交えながら書かせていただきます。

会社員アニメーターからYouTuberに

僕は小学3年生くらいからアニメーターになりたいと思い始めました。そして24歳でコマ撮りアニメーションを制作する会社で働くことができました。アニメーターになるという夢を叶えたのです。

小学校6年生の頃の文集

会社では未経験から働き始め、約2年間のアシスタント時期を過ごした後、コマ撮りアニメーターとしてプロデビューしました。そしてデビューから3年目で国際賞「NY ADC Young Guns 17」をいただくことができました。

2019年 NY ADC Young Guns 17の表彰式の様子
篠原健太

このような経験と実績を積むことができたのは会社のおかげでしかありません。僕は生涯ずっと感謝し続けるでしょう。

しかしその会社を30歳の頃に退職しました。そしてYouTubeチャンネルを始めることにしたのです。もし退職せずそのまま勤めていれば大きなプロジェクトに携わることができ、コマ撮りアニメーターとしてさらに面白い仕事ができたでしょう。恵まれた環境である会社を辞めて、YouTubeを始める…僕にとっては大きな選択でした。

知り合いからは「会社に残ればコマ撮りアニメーターとしてキャリアを積めるのになぜやめちゃうの?」と驚かれました。ごもっともです。

しかし、僕はコマ撮りアニメーターとしての成長だけではなく、もっとあらゆる成長も求めていました。そして何より、コマ撮りアニメーションで世界中を楽しませたい…!その選択肢が他にあるのではないかと思ったのです。

人生は選択の繰り返し

「あの選択をしたから」というテーマについて考えている時、僕がいつも大事にしていることを思い出しました。それは決断についてです。

目の前に選択肢があると迷います。特に進学や就職、結婚など人生の岐路に大きく関わる選択肢ほど深刻になってしまいます。そして真剣に努力をしている限り迷いはなくなりません。

しかし誤解を恐れずに言うと僕は進路なんてどれを選んでも良いと思っています。もちろん、僕も環境を大きく変えるような選択の時は真剣に考えますし、とても迷います。しかし、未来のことは誰にも分からないわけですから、ある程度考えたらとりあえず自分が良いなと思う道を選んで飛び込むことにしています。自分で決断ができなかったらとりあえずおみくじで決めることもあるくらいで、とにかくどれでも選んだら飛び込むのです。

そして決断した後は選んだ道がどれであろうと「この選択が正解なんだ!絶対に!」と思い込むように心がけています。それで僕は幸せですし、選択に失敗したと思ったことはありません。

この決断の大切さは僕の職業である【コマ撮りアニメーター】の経験から身につきました。

僕はコマ撮りアニメーター

僕の職業はコマ撮りアニメーターです。アニメコンテンツがたくさん作られている日本ですから、アニメーターという職業のことは多くの人が知っているのではと思います。しかし、【コマ撮り】のアニメーターはあまり知られていないかもしれません。

コマ撮りアニメーターの作業風景

コマ撮りアニメーターについて少し書かせていただきます。まずコマ撮りとはストップモーションとも呼ばれています。物を手で少し動かしては写真を撮り、また少し動かしては写真を撮り、また動かしては撮り…そうやって続けて撮った写真をパラパラ漫画のように送って映像にすると物が自ら動き、生きているように見えるのです。1秒間の映像を作るのにはだいたい12枚〜24枚の写真を撮ったりしています。物を少しずつ動かし、命を吹き込んでいく作業をするのがコマ撮りアニメーターです。

コマ撮り映像
一コマ一コマ手で動かしていく

コマ撮り手法はなかなかシビアなところがあります。例えば一コマ撮ってしまうと、もうポーズの修正ができません。今この瞬間にしか存在しないコマを撮っているわけです。もし修正をしたくなった場合は、何時間も掛けて撮ったテイクを捨て、初めから全て撮り直しをすることになってしまいます。しかし、仕事では撮り直すほどの時間のゆとりがないことも多いです。そのため撮影現場はミスの許されない独特の緊張感があります。

同じアニメーションの分野である作画の2DアニメーションやCGアニメーションでは、ラフな設計から取り掛かり、繰り返しチェックをしながら調整を重ね、段々と動きのクオリティを高めていくことができるようです。しかし、コマ撮りアニメーションではシャッターを切った瞬間に出来上がりのほとんどが決まってしまいます。

まさにコマ撮りアニメーターは選択の繰り返しなのです。なにしろ1秒間の映像を作るために12回〜24回もポーズを即決しなければならないのです。

コマ撮りアニメーターは失敗の許されない環境の中、素晴らしい演技を生み出し続けなければなりません。ぐずぐずと迷っていてはスケジュールに間に合わなくなってしまいますし、深刻になってしまうとストレスでメンタルが病んでしまいます。より良いコマ撮りアニメーションを作るためには気持ちを上手に切り替える術が必要でした。

僕がコマ撮りアニメーターとしてプロになった頃、仕事のストレスで手の皮膚が荒れたり、抜け毛が増えたりしていました。まだ作業にも慣れていませんでしたから頭がオーバーヒートし鼻血が出ることもありました。

困った僕は、コマ撮りアニメーターの先輩の働き方をよく観察してみることにしてみました。分かったことは、皆さん決断するのが上手かったのです。どのような状況でも決断して後に気持ちを引きづらないというか、軽やかにハプニングを乗り越えているように見えました。僕も見習うことにしたのです。

例えば、思いもよらないアクシデントが起きて計画していた方向ではない選択になったとき「大丈夫。これでむしろ素晴らしいアニメーションになるはずだ。」と確信するのです。そして新たな決断をします。また、人形が自分の思うように動かなかったときも「思ってたのとは違うけど人形が動きたい方向が他にあるはずなんだ!」と確信し、決断して軌道を修正します。周りに振り回されるのではなく、決断することで自分で自分の心をコントロールしていく感じです。「選択を間違えたかも」と不安になったとしても、「いや、後々これが良い結果を生むんだ!そう変えていけば良んだ!」と素早く気持ちを切り替えます。

このようにすることで、ほとんどのことは上手く行くことがわかりました。

ちなみにアニメーションとは不思議なもので、アニメーターの心がキャラクターに移ってしまうようです。僕の経験則でしかありませんが、アニメーターが「これで良かったのかな?」と不安な気持ちでアニメートすると、動きが小さく、なんだかパッとしないキャラクターになるようです。撮影するその瞬間、アニメーターの気持ちがとても大切なのです。逆に、技術が拙くても自信を持ってアニメートするとき、動きに力が出てくるのでキャラクターが活き活きしてくるようです。

選択を正解にする

会社を辞めてYouTubeを始めたことが良かったのかどうかは僕にはわかりません。といいますか、はじめに書いたように選択はどれでも良いのです。決断したからにはこの選択を自分の力で正解にするのです。

今ではYouTubeチャンネル登録者数が165万人を超えました。そしてたくさんのお仕事のオファーをいただけるようにもなり、少人数ながらスタッフも増え、新しいチャレンジができるようになってきました。また、以前はアニメーターだけしかスキルがなかった自分がディレクションやマネージメントも学べることになりました。

それはあの時あの選択をしたからであり、その選択を自分の決断で正解にしていこうと行動しているからだと思います。

どんなガチャでも大当たり

過去を振り返り「あの時、別の選択をしておけば良かった…」と後悔してしまうこともあるかもしれません。しかし、後悔する時間はもったいないです。人生にA/Bテストができれば良いのですがなかなか難しいでしょう。誰にも未来はわかりません。

だから僕は決断して飛び込む。そしてその選択を自分の力で正解にする。

どんな環境であろうと自分を幸せにできればそれが正解になると思うのです。

近年、自分が選択できないことで人生が決められてしまうことを表現するときに〇〇ガチャという言葉が使われるようになりました。就職においては配属ガチャとか上司ガチャとか…。

ガチャでハズレを引いたと思ったら後悔するかもしれません。しかし、それがハズレだと誰が決めるのでしょうか。どんな環境になろうとも明るい未来を描けたらどんなに素晴らしいことか。いやきっとそれは大当たりでしょう。僕はそう確信し、決断していきたいです。

偉そうなことを書いてしまいましたが、半分は自分に言い聞かせるつもりで書いていました。僕もまだまだ道半ば。世界の感動時間を増やすため頑張ります。

人生の大事な選択に迷ったり、後悔したときにこの記事のことを思い出していただけたら幸いです!

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篠𠩤健太ストップモーションアニメーター
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