梨農家にとっての種苗法改正

今日、倉庫を片付けているとこんなものを見つけました。

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昨年購入した梨の苗木についていたタグです。農研機構は国の機関で、そこが育成者権を持つ甘太(かんた)という品種です。左のPVPのマークはPlant Variety Protectionの略で、登録品種ですよ、という目印だそうです。今は業界団体独自のものだそうですが、種苗法が改正されたら登録品種には何らかの形でこのような表示がされるのでしょう。ちなみに苗木の価格は私が頼んだ苗木屋さんでは一本3000円。一般品種の幸水が1300円なんで高めです。

さて私はこれからこの甘太の作付を増やす予定です。購入した苗をある程度育ててから穂木を取り、苗用の台木を用意すればどんどん増やせるわけですが、種苗法改正後はそれが育成者権者(甘太の場合は農研機構)の許可なくは出来なくなります。

それは困るだろ、と思われるかも知れませんが、実はあまり困らないのです。

なぜなら大多数の梨農家では苗木作りでの自家増殖をせず苗木を業者から購入しているのです。自分で台木を種から育てたり、台木を買ってきて接木するのは手間がかかるからでしょう。農業でも分業化は進んでいるのです。

もちろん台木の種類にこだわりを持ち自家増殖される方もおられますが、そのような方でも経営面での影響は少ないと思います。

先程苗木の価格を出しましたが、登録品種で3000円程度です。実がなり始めればあっという間に回収できまし、そのあとは20年以上使えます。自分で苗木を作ることが有料になっても購入価格を上回ることはないでしょうから利益を圧迫するようなことはないでしょう。

苗木をつくるより早く実をならす自家増殖の方法もあります。高接ぎと言う技術です。これは今ある成木に接木します。この技術を使う農家さんは結構おられます。当然これも改正後は登録品種では権利者の許可が必要になりますが、同じ理由で問題にはなりません。

梨だけでなく桃やリンゴなども同じような状況でしょう。接木でなく挿し木で増やすブドウは自家増殖する農家さんは多そうですが、業者のカタログでは登録品種のシャインマスカットで苗木一本3000円でした。シャインマスカット一房の価格を考えれば回収は容易です。

以上の点からごく僅かコストが増えますが、利益を圧迫するほどではありません。だから果樹農家は大して反対していない、と言うより話題にすらなっていない現状です。優良品種が海外流出し、将来の輸出に支障をきたすことのほうが余程問題です。

許諾申請が面倒ですが、これは制度設計の問題ですし、優良品種の海外流出を防ぐための手間だと考えるべきです。

新品種の育成が利益を生むのであれば新規参入も増え、様々な品種が生まれるのではないでしょうか。とうぜん登録品種が増えます。それは農家にとっても選択肢が増える喜ばしいことなのではないでしょうか。

反対される方をみていると、どうも今の農業の実態を知らないが為に誤解が生じている部分があるかと思います。色々と調べ、考えてもらえる良い機会ですから改めて意見を書いてみました。