君の柔らかく優しい翼が留まる場所で、すべての人間は兄弟となる。
皆さんこんにちは、高島健一郎です。
10/21上演のシン・リーディング・コンサート「カフカの手紙〜ウィーンの恋〜」Note連載第5回目。
今回は番外編として僕が最近読んだ本やアート作品をご紹介しながら、それらの作品から何を感じ、自身の活動にどう刺激を受けたかお話ししたいと思います。
まずは村上春樹さんの「海辺のカフカ」。
この作品は2002年に書かれた小説で、世界中で翻訳され海外でも人気があります。
タイトルのカフカはもちろんフランツ・カフカから引用されていて、主人公の少年の名前は田村カフカ。
村上春樹さんはカフカから大きな影響を受けていて、この作品はカフカへのオマージュだと自身で仰っています。
読んでみた印象としては、なるほどカフカの文体を思わせる不思議な言い回しや描写が随所に出てきて異世界へと引き込まれます。
なによりストーリーがとても面白い。
上下巻で800ページ近くあるんですが3日で読み終わりました。
この後どうなるんだろう?と展開が気になって読んでいてワクワクするし、カフカの作品に比べると圧倒的に読みやすい。
ストーリーの面白さにカフカ的な文体がミックスされてとても面白いエンターテインメント作品になっている、という印象です。
一方でカフカの作品はストーリー自体に面白さはあまりありません。
この後どうなるんだろう?というワクワクよりも、これは一体何を意味しているんだろう?とかなぜこの人はこうゆう行動を取るんだろう?と考えながら読んでいくので、決して読みやすいわけではなく時間もかかります。
しかしある瞬間や描写に、人々が感じているこの世界の生きづらさの正体や僕らの心の奥底にある潜在意識のようなものが見えてくるから面白いんです。
海辺のカフカで印象的だった場面をひとつご紹介します。
クラシック音楽にまったく興味もなく聴いたこともなかったホシノ青年が、ナカタさんという不思議なおじさんに出会ったことによって見える世界が変わったと言うシーン。
- 以下引用 -
「なんていうのかね、いろんな景色の見え方がずいぶん違ってきたみたいだ。これまでなんということもなくへろっと見てきたものが、違う見え方がするんだよ。それまでちっとも面白いと思わなかった音楽が、なんていうのかね、ずしっと心に沁みるんだ。で、そういう気持ちを誰か、同じようなことがわかるやつと話せたらいいなとか思っちまうんだ。そいうのはさ、これまでの俺にはなかったことだ。」
僕も20歳を超えてからクラシック音楽の世界へと入ったのでよくわかるんですが、本当にちょっとしたきっかけで僕らの見ている世界は変わるし、それによって人生が大きく変化したり豊かになる可能性って無限にあると思うんです。
そういった誰かの世界を少し広げられるような「ちょっとしたきっかけ」を作る活動を僕も音楽を通してやっていけたらいいなと思います。
もう一つご紹介したいのは麻布台ヒルズにあるチームラボ デジタルアートミュージアムでの体験です。
姉が森ビルでアートに携わっている関係で行ってみたのですが、僕にとって色んな新しい発見がありました。
こちらも海外での人気が非常に高くて、たくさんの外国人観光客の方が来場していました。平日にも関わらず入場チケットはほぼ完売。
色々と見所はあるんですが、僕が特に新たな体験として面白いと思ったのが「非対称宇宙」という作品。
光を使ったアート作品で、ライブ会場などでの照明を使った演出を想像していただけるとイメージしやすいと思うんですが、光がこちらにむかって来るように感じたり、逆にその光の中に吸い込まれるような感覚になります。
自分が宇宙空間にいるような感覚になり、今まで見たことのない世界の中に没入していくようでした。
僕にとってまさに先程書いた「自分に見えている世界が少し広がる」ような体験だったので、とても良い刺激を受けました。
チームラボ代表の猪子寿之さんが、「カメラのレンズを通してしまうと鑑賞者は受動的に対象を見てしまうから、実際に自分の目で作品を見て能動的にアートを体験して欲しい」とインタビューで仰っていて、これは音楽における録音とライブに通じるお話でとても面白かった。
コロナ禍になってすべての舞台がキャンセルされたとき、僕はこのまま生の音楽を届けることが出来なくなってしまうかもしれないと思いました。
たとえコロナ禍が落ち着いても、人々が劇場やコンサート会場に足を運ばずに家で録音を聴くことに慣れてしまったら、もうわざわざライブ会場に来てくれなくなるんじゃないかと思ったんです。
でもそれは杞憂でした。
むしろYouTubeでの発信を通して多くの方が僕のコンサートに来てくれるようになった。
やっぱり人間は能動的に音楽を体験して「その場」にいたいんだと思えました。
これはある意味ではカフカが感じていた孤独の救いになり得るんじゃないかとも思います。
人間は他者と共存しないと生きていけない。
その他者との関わり方を「よりよくする力」を芸術は持っていると信じています。
ウィーンでオペレッタを観劇した後、知らないお客さん同士が笑顔になって帰っていく光景を見た時、なんて素敵な世界なんだろうと思いました。
そこには人種とか、言葉とか、そうゆうものを超えた人間の感覚的な共感があって、舞台が人を結びつける力を実感しました。
Deine Zauber binden wieder, was die Mode streng geteilt
;Alle Menschen werden Brüder, wo dein sanfter Flügel weilt.
時流によって強く分断されたものが、君の魔法によって再び結ばれる。
君の柔らかく優しい翼が留まる場所で、すべての人間は兄弟となる。
ベートーヴェン第九・第四楽章のこのシラーの詩を実感できる瞬間が少しでも増えることを願って、自分にできることを探していきたい。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
高島健一郎
【公演概要】
シン・リーディング・コンサート 「カフカの手紙 ~ウィーンの恋~」
高島健一郎(脚本・翻訳・歌) / 藤川有樹(ピアノ) / 狩野翔(リーディング・声優)
公演日 2024年10月21日 (月)
開場 / 開演 18:30 / 19:00
会場名 すみだトリフォニーホール小ホール
住所 〒130-0013 東京都墨田区錦糸1丁目2−3
席種 全席指定
料金 前売:¥6,200(税込) 当日:¥6,500(税込)
チケット受付URL
https://eplus.jp/kafka24/