出身地の「東京一極集中」 ―地方創生の正体①―
〇 人口分布の偏りは(やはり)深刻な問題
【書籍情報】
地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか
山下 祐介,金井 利之 (著) 2015年 ちくま新書1150
いわゆる「増田レポート」が世間に衝撃を与え、第二次安倍政権が「地方創生」を提唱したのが2014年。この本は翌年10月に刊行されました。
タイトルの通り、国の「地方創生」政策に批判的な内容で、2名の著者が地方自治の本質的なあり方について議論しています。2011年の東日本大震災による原発事故の対応を、国―自治体(県と市町村)―住民の統治の問題点・実例として挙げている点も面白いです。
国策の病理が地方消滅を招く。中央‐地方の統治構造を、気鋭の社会学者と行政学者が徹底考察。(筑摩書房HPより)
政策自体については、
国はアイデアを持たず、責任を地方に押し付ける。結局地方は国から補助金をもらうための施策を提案し、自治体同士の競争で疲弊し、地方が損をする。
と私は受け取りました。
実はこの本を2016年にも一度読んだのですが、最近読み返すと新たな気づきがあり、考えが巡りました。
国の為政者は結局東京育ち
「東京育ちによる地域政策」という項では、官僚や政治家の出身地が東京に集中している現状を取り上げています。
地方圏から大都市圏に出てきて二世代・三世代になると、「田舎」「故郷」という概念が消えていきます。つまり、大都市圏と地方圏を結ぶ第一世代という紐帯が消えるわけです。(本文より)
為政者が地方とのつながりを持たない故に、地方の現状に即したアイデアが出ない。第一世代、つまり高度経済成長期以降に、地方に新産業都市を創出した頃の方がマシだったとのこと。
政治家の出身地といえば、先の自民党総裁選(2020年9月)では、3候補者の出身と選挙区が頻繁に比較されました。
・菅氏 秋田県出身 神奈川県選出
・岸田氏 東京都出身 広島県選出
・石破氏 東京都出身 鳥取県選出(育ちは殆ど鳥取県)
(安倍前首相 東京都出身 山口県選出)
これらの出身地と選挙区のギャップについて、ポジティブ・ネガティブの両方に捉える報道がありましたね。
選挙区は後天的に変えられても、人の出身地はすぐに変えられません。選挙区が地方であれば、少なくとも選挙区内の現状には目を向ける機会が生じる(はず)だろうし。批判してもしょうがないことをメディアは取り上げるな、と思ったものです。
もちろん、将来的には地方出身・地方選出で「地方のアイデア」を出せる人材が増えることが望ましいことは間違いありません。
「出生地分布」という観点
人口問題として人口分布が扱われるときは、現時点の定住人口の分布に注目しがちです。しかし出身地の分布という視点も非常に興味深く、そして人口問題の深刻さをより浮き彫りにします。
国立社会保障人口問題研究所は3月発刊の「人口問題研究」で、人口移動が出生率に与える影響は限定的で「東京圏の転入超過が止まれば出生率が上昇するといった短絡的な想定は慎むべきだ」とした。(日本経済新聞 2020/9/22)
残念ながら、引用された報告の該当する箇所は見つかりませんでしたが、同報告から「出生地分布変化」という視点を学びました。
東京圏の人口は、世代を重ねるごとに定着度が上昇する(転出モビリティが低下する)傾向が報告されています。
一刻も早く手を打たないと
人口分布は、年齢構成・空間的分布のいずれにおいても、施策の効果は数十年経たないと現れない問題であることは想像できます。しかし、世代を重ねることでモビリティがより低下するのであれば、人口問題解決の難しさは一気に深まります。毎日毎日「東京出生の人口」は増えているからです。東京一極集中是正は「今やろう」アクションであることを改めて認識しました。
私は今まで「移住しないと意味がない」と考えていました。つまり、観光などで一時的に地方を訪れる人が増えても、地方に定住し働く人口を増やさないと、根本的な人口問題の解決に至らないということです。
しかし「出生地分布変化」の傾向から、東京圏出生の人に、まずは地方との繋がりを持たせるのは大きな意味を感じました。最近よく話題に上る、いわゆる「関係人口」といったところでしょうか。
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