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山田養蜂場の個人情報流出の件から「顧客対応」について考えた

個人情報流出の件が話題になっています。

今回のような大規模な個人情報流出の場合、関係者が夜も眠れないような日々を過ごされているのかと想像します。

また、今回の個人情報の流出を受けて、さまざまな担当者が「自社は大丈夫なのか?」という上長もしくはクライアントの指令を受け、顧客システムのセキュリティの見直し、コールセンターへ問い合わせ内容の確認などに動いているかとも思います。深夜まで作業している方も多くいらっしゃるでしょう。大変お疲れ様です。

今回のnoteは「顧客の個人情報をどのように漏洩させないようにするかの対策」を論じたいわけでもなく、NTT西日本やその子会社を責め立てたいわけでもありません。

今回ある種、被害者の1社であった山田養蜂場の対応から、企業の顧客対応のあり方を考察していきたいと思います。

ご存知ない方も多いかと思うので自己紹介をします。
執筆者の石田健太(いしけん)です。私は通販のメーカーもしくは支援で顧客対応の戦略立案・実行を経験してきました。コールセンターシステムの刷新や、危機対応も複数社で経験しております。今年2023年4月からフリーランスとして、D2C各社の支援に携わっています。

ちなみに執筆者は山田養蜂場とは全くの無関係です。

今回の発生の経緯

今回の経緯は下記の読売新聞オンラインの情報がわかりやすく書かれている印象でした。

要点をまとめますと以下です。

  • NTT西日本の子会社から約900万件の個人情報が流出した問題で、流出した個人情報のうち約400万件が通販メーカーの「山田養蜂場」のものだった。

  • 山田養蜂場によると、昨年1~3月、同社の顧客4人から「山田養蜂場と無関係の会社から勧誘の電話があった」と連絡があった。社内調査を行ったが、原因が確認できず、昨年3月に県警に相談した

  • 県警が調べた結果、同社から流出した形跡が確認できず、同社がコールセンター業務の一部を委託していたNTT西日本のグループ会社から流出した可能性が浮上し、発覚に至った。

注目したいのは「山田養蜂場の対応力」

個人的に感じたのが「山田養蜂場すごいなー」という印象でした。顧客4人から電話が不正利用されているのでは?と問い合わせがあって警察に相談し、それが今回の事件発覚に繋がったわけです。

山田養蜂場は通販企業(今風に言うとD2C企業)に分類されると思いますが、D2C企業は「ダイレクトに顧客接点を持つ」という性質上、購入者の一定割合が必ずメールないし電話などで企業になんらかの問い合わせをします。何百万人も会員がいる会社なら、一日の問い合わせは数百〜数千件はあってもおかしくないです。

そうなると購入者数人の問い合わせとなると、月間の問い合わせ総数に対して(場合によっては)0.1%以下の割合になる可能性があります。

問い合わせ数も多いとは言えないので「必ずしもウチの会社から情報漏洩しているとは言えないのでは?たまたまかな?」と思って片付けてもおかしくないわけです。

実際、顧客情報の流出は日々どこかで起きていますから、例えば追求していった結果、自社と全く関係のない企業が原因だったとなるケースも大いに想定されます。顧客の思い違いだったりすることもあります。さらに、「情報が流出したかどうかの確認」にあたっては可能性がある関係各所すべてに確認しなければならないため、膨大な労力が発生します。実際今回のケースでも社内調査してもわからなかったため、最終的に警察にまで相談しているわけです。

顧客対応の担当者目線で考えると
「顧客情報が流出していない証明をせよ」というオーダーがあったら
きっと天を仰ぎたくなる

正直調査が必要なイレギュラーな問い合わせは、数百万会員規模になるとほぼ毎日発生することでしょう。その中にはお客さんの勘違いとか、思い込みもたくさんあります。よく聞いたら他社の商品の話だったなんてケースも。

今回の山田養蜂場のように数件の問い合わせに対して追求をしていたということは、(場合によっては数ヶ月かかるような)難易度の高い問題解決を日常的に処理していることが想像できます。事件が発覚したのは、そうした日々の現場の方の労力のおかげなわけです。賞賛にあたります。

普通、情報漏洩が発覚した場合、調査を行なっていた顧客対応の担当者にとっては「さらに自分たちの仕事を増やす結果」にもなるわけです。自分たちで問題を突き止めて「よかった、終わり」ではなく、関係機関への報告、顧客も含めた対外告知をして、さらにはテレビや新聞報道までされ、問題発覚前よりも問い合わせ量が膨大に増えるということに。

それを想像するだけで「この問題、一旦追求やめておこう」と思う担当者がいても人間心理としてはおかしくないですよね。(もちろんそうあるべきではないですが)
今回問題として明るみになったというのは、山田養蜂場が「顧客への誠実さを優先した」ということに他なりません。

CS担当者は「利他の精神で動いている」

今回のように顧客に向き合ってイレギュラーケースをいかに解決していったところで、一般的な企業では、事業のKPIとしては組み込まれているわけではないでしょうから、正直担当者の給料も上がらないと思います。

※「電話の応答率」や「メールの返信スピード」の評価はあると思いますが、1件1件丁寧に対応していることをうまく評価する仕組み作りは難易度高いですし。

それなのに顧客のために自らの仕事を増やすというのは「利他の精神」でしかないでしょう。顧客対応をしている皆さんって「お客さんに真摯に向き合って良いブランドを作っていこう」という想いだけで自らを奮い立たせ、時に仕事を増やすことも厭わない、とても誠実な方々だったりするんですよね。(そんな方々が日々顧客の心無い言葉も浴びながらクレーム対応をしていたり。それが仕事ではありますが敬意を払いたい)

今回のように企業自体も被害者の場合は
「あなたのとこも大変ね」とお客さんから声をかけてもらえることもある。コールセンターで働く人はたったその一言でも救われるものです

顧客対応の現場に今必要なこと

さて、ここからが本題です。顧客の情報をお預かりさせていただいている企業は、今回のようにいつ事故がおきるとも限らないです。危機は予告なしでやってきます。そのために備えておくことは重要です。

では備えは何かというと、セキュリティ面の見直しなど「危機の予防」と、コールセンターの問い合わせへの感度を上げる「危機が起きた時の対応」を見直す2種類のアプローチがあると思います。いずれも重要ですが今回は後者のみの話をしましょう。

こういった不定期で発生するイレギュラーケースを対応するためには「調査に当てられる人的余力」を常に確保することが重要です。このためのアプローチは2つです。

顧客対応コストを上げてリソースを確保
顧客対応コストを上げずに(むしろ削減しながら)リソースを確保

前者は想像できますよね。コールセンターの人件費を増やせばいいわけです。ただし、実際問題、企業は利益構造が決まっており、粗利の中でコールセンターの費用を捻出していくということになります。

これまで以上に対策をしようとは思っても、経営陣としても利益の関係でそう簡単に意思決定はしにくいでしょう。実際コールセンターはコストセンターと揶揄され、本音では削れれば削れるだけありがたいと思う経営陣も多いでしょう。

では後者の「顧客対応コストを上げずに(むしろ削減しながら)リソースを確保」なんてことが実現可能なのでしょうか?

CSコストは「システム」が鍵

解説のために「化粧品を定期通販で販売している企業」を例に、実際に問いあわせとしてあるだろう典型的な問い合わせをいくつか並べ、縦軸は頻度横軸は顧客のニーズの表出具合(潜在的なのか、顕在的なのか)で分類してみました。
顧客が「なんとなく」感じているものは「潜在的」、明らかに第三者でも確認できるものは「顕在的」なものとしています。

今回のケースで行くと左下の「イレギュラー」かつ「顧客の潜在的な」要望に対して調査をかけ、事件が発覚しました。一方で問い合わせの量として多いのは圧倒的に右上です。

コスト削減のポイントとしては、この繰り返し定期的に発生する顧客の顕在的なニーズを「システム処理に任せること」です。この右上は「処理の正確さ」が重要で、かつ日々の問い合わせの増減(揺らぎ)も吸収しながら迅速に処理していく体制が求められます。

「それって人でやるよりシステムに任せた方が良くないですか?」という話です。人間は処理する時間も決まっていれば、ミスもするし、シフトもあるので、いきなり人数を増加させることもできません。それに(一般的に)システムよりもコストもかかります。

ならばシステムに任せましょう。具体的にはオンラインのマイページで顧客自身が自由に操作できる機能であったり、チャットボットの導入などです。

〇〇したいという「顕在的なニーズ」であれば、なんらかのナビゲーションやサイト内の検索性を持たせれば顧客自身でも操作可能です。ですから、「人的なサポートが必要な複雑さ」や「人間ならではの付加価値」が必要とされない場合はシステム処理をすべきというのが私の意見です。

もちろん定期の解約抑止のために「マイページのユーザリティを上げて顧客に任せる」と売上が下がりそうなので、コールセンターでなければならないという話もありえますし、システムがダメダメで結果的に電話でシステムの説明が必要なシーンもあるとは思います。高齢者が多い場合はシステム解決が難しいこともあります。ただ理想論でいくとイケイケなシステムを入れれば、コストも処理スピードも圧倒的に効率が良くなると思います。

では顧客対応において人間は何をすべきか

DXの流れもあり、システムができる仕事をいかに人間が頑張っても、処理のスピード、正確さで勝てるはずもありません。システムと同じ土俵で戦っても報酬や給料は(よほどのことがないと)上がりません。ではシステムがこれまでの人間の仕事を代替した場合、残されたCSの現場の皆さんは何をすべきでしょうか。

私は人間には「人間にしかできない仕事」をしてもらうのが理想だと考えます。

では何かというと、繰り返しの単純作業ではない人間の「潜在的な考え」を引き出して行う処理過去にないイレギュラーケースの問題解決です。

実際右下の「顕在化したイレギュラー課題」に関しては、人的に対応している企業も多いとは思います。しかしこの対応だけで手一杯になって、他にリソースが割けない状況に陥っている場合、問題です

「顧客の課題解決を行うことで売上向上につながる」左上のゾーンと「トラブルになる前のヒントとなる」左下のゾーンにしっかり時間をかけていくことが持続的な売上向上もしくは、大きなリスクの低減につながります。

例えば化粧品企業の場合、前者は顧客のカウンセリング相談室を設けて、電話口でオペレーターが顧客の状態に合った商品を提案するなどです。ここでクロスセルやアップセルを行うことができます。
後者の場合は、山田養蜂場のように大きな問題になりうる事象を徹底調査していくことなどです。

繰り返し単純作業の時間を削減し、人間にしかできない部分に人的リソースをかけていくことで、企業はCSコストは増加させずに、トラブルが大ごとになる前に処理しながらも、売上向上につながることができます。

システム活用が人間の仕事の可能性を広げる

「単純な繰り返し作業はシステムに任せて、もっと人間にしかできない付加価値の高い仕事を」

これが山田養蜂場のニュースを通して私が感じたことです。山田養蜂場がシステム面でめちゃくちゃ優れていたから今回のような調査に時間をかけられたかは定かではないですが、一つの仮説として私自身が考えたことでした。

山田養蜂場は左下の調査に時間を割ける環境だったからこそ問題を突き止められた

ここまで読んでいただいた方は顧客対応について関心を持っている方だと思います。今回の件を通じて「顧客対応」に関して、さらに社内で議論を深めてみるのはいかがでしょうか。

顧客対応の理解をさらに深めたい方に、おすすめの書籍を紹介します。下記の本はコールセンターでの顧客対応の全体理解に役立つ本です。

興味があればぜひご一読ください。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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