
スウェーデンのサッカーをまとめてみた
前学期にとっていた授業で、Scandinavian Culture and Societyという、スカンディナビア、北欧の文化について学ぶ授業をとってました。
その中で、スポーツについても触れる授業があり、その時の文献の一つにあった論文、『Glocal Culture, Sporting Decline? Globalization and Football in Scandinavia』が面白くて、サッカー好きの僕としてはnoteに残しておきたいなと思い、日本語でもまとめてみました。
色々と見てみると、スウェーデンならではの移民に関することなど、サッカーの発展には国の色が反映されているなあと思います。国内のサッカーリーグは、大国ヨーロッパの他の国々と比べると競争力としては劣りますが、それでも独特の魅力があると感じました。
スウェーデンのサッカー文化を、歴史とともに振り返ります🖊️
スウェーデンサッカーの歴史をざっくりと
1800年代後半〜1904年:サッカーの誕生と広まり
スウェーデンでサッカーが広まったのは19世紀後半。イギリスの影響を受けて国内で人気が高まり、1904年にはスウェーデンサッカー協会が設立。そして、国内リーグ「Allsvenskan(アルスヴェンスカン)」が発足します。現在のスウェーデンのトップサッカーリーグです。
この頃は完全にアマチュアスポーツで、地域のクラブが地元と密接に結びついて成長していきます。
1958年:W杯準優勝🥈
1958年、スウェーデンはワールドカップで準優勝!東京五輪が開催される1965年の7年前です。これはスウェーデンでの母国開催だったそうです!
決勝戦でペレ率いるブラジル🇧🇷と戦い敗れましましたが、堂々の2位に。今のスウェーデンのサッカーの印象からすると意外ですが、この時期はリーグの人気も非常に、高く、スタジアムは連日熱狂的なファンで埋まっていたらしいです。

1969年:プレミアリーグの影響がすごい
1969年からスウェーデンのテレビでイギリス🇬🇧のプレミアリーグの試合が中継されるようになりました。これが当時のスウェーデンサッカーに与えた影響はかなり大きかったそう。(プレミアリーグは今世界で最も人気のあるリーグ、今は日本代表の遠藤航選手のいるリバプール、三笘選手のブライトンなどの強豪のチームが集まってます)
プレミアリーグを観るファンが増え、スウェーデン国内のリーグの観客数は減少。
数字で見ても、スウェーデン国内の観客数は1970年代に平均10,000人以上に達していましたが、プレミアリーグの人気に影響され、地元クラブへの関心がやや分散してしまうことになります。
それでも、プレミアリーグの影響で応援文化が発展し、サポーターグループが活発になったというポジティブな面もあったそうです。
1995年:「ボスマン判決」とスター選手の流出
1995年に「ボスマン判決」が施行され、EU内の選手が自由に移籍できるようになります。この影響でスウェーデンのスター選手たちが次々とヨーロッパのビッグクラブへいってしまいます。
プレミアリーグにはスウェーデン人選手もどんどん進出し、国内リーグの競争力は低下。実際、1998年時点でプレミアリーグには
🇳🇴ノルウェー人22人
🇩🇰デンマーク人15人
🇸🇪スウェーデン人14人
の多くの北欧の選手がプレーしていました。(人口の多くない国からプレミアリーグでこれまでの数の選手が活躍しているのは物凄いことだと思います。ちなみに、2025年現在、日本🇯🇵からは、三笘選手、遠藤選手、冨安選手、菅原選手、鎌田選手の5人がプレミアでプレーしています!)
1990年代のプレミアリーグへのこうした選手流出によって、スウェーデン国内リーグ「Allsvenskan」の競争力は低下し、UEFAランキングでも1995年の14位から2010年には28位にまで下がります。
2000年代:イブラヒモビッチの台頭と地域密着のサッカー文化
この時代になると、スウェーデンから世界的スターが誕生します!
その代表が ズラタン・イブラヒモビッチ 。
バルカン系移民家庭出身であり、スウェーデンサッカー界の象徴的存在となる人物です。
イブラヒモビッチは、ACミランやバルセロナ、PSGなど数々のビッグクラブで活躍します。
僕自身も小さい頃にたくさんのスーパーゴール集を見てた時に見た、この豪快な長距離オーバーヘッドのゴールを今でも覚えてます。
スウェーデンサッカーの魅力とは?
① 「51%ルール」でクラブはサポーターのもの
スウェーデンでは「51%ルール」があり、クラブの過半数の議決権をサポーターが持っています。
これには、以下のような目的があって、
短期的な利益ではなく、地域コミュニティのための運営を行う
外資系オーナーによる勝手なクラブ変更を防ぐ
クラブの伝統やアイデンティティを守る
このルールのおかげで、投資家や企業がクラブを完全に支配することはできず、地元のファンがチームを支える文化が維持されてます。
例えば、実際に他の海外リーグでは、外資のオーナーがクラブを買収し、クラブ名やエンブレム、チームカラーを変更したり、オーナーが撤退したことで経営が悪化し、クラブが存続の危機に陥るケースもあります。ただ、スウェーデンではそれができない。
この、サポーターがクラブ運営に関与できる仕組みがうまく機能して、例えば、ハンマルビーIFというチームは2015年に平均観客数が25,000人を超えてます。これは調べてみると、日本のサッカーのJ1リーグの多くのチームよりも多い数字です!これも単なる人気クラブだからではなく、ファンがクラブの運営に関わることで生まれた「地元愛」が影響していると書かれてました。
② 多文化なサッカーの成長
スウェーデンのサッカーは移民との関わりが深いです。
例えば、先ほど紹介したズラタン・イブラヒモビッチは、バルカン系移民の子として生まれています。また、クルド人移民によって設立された 「ダルクルドFF 」のようなクラブもあります。
移民のバックグラウンドを持つ選手が増え、サッカーが異なる文化をつなぐ役割を果たしているのがスウェーデンの色を表していると感じます。
③ 商業化よりも地域愛
スウェーデンのサッカーは、資本主義的な「お金で強くなる」路線ではなく、地元の人々が支える「サッカー文化」を大事にしているそうです。
特に、若手育成と地域活動に力を入れていて、クラブは地元の子どもたちにサッカーを教えるプログラムを運営している。多くのプロクラブがサッカースクールを持っていて、サッカーを「みんなのもの」として成長させています。
まとめ
ヨーロッパの強豪リーグに強さは劣りますが、「多文化化」と「ローカルな文化」の両面において、独自の進化を遂げてきたのが面白いと思いました。
スウェーデンの人口が日本の10分の1以下ということを考えると、小さな国の中で、多くの有名なサッカー選手をこれまで出してきて、W杯にもヨーロッパの国々の中から予選を勝ち抜いて出場したりと、サッカーに深い歴史がある国だと感じます。
地域に愛着のある、応援するスポーツチームがあるだけで、そのまちには一体感が生まれると思うので、このようなチームやスタジアムの拠点の存在はとても大切だと思います。
"It seems reasonable to suggest that football became trendy partly because the game provided collective replacements for the disintegration of traditional social ties of family, class, religion and even nationality that had taken place as a consequence of the de-industrialization of many towns."
(サッカーがトレンドとなった背景には、多くの町で進行した脱工業化の影響により、家族、階級、宗教、さらには国家といった伝統的な社会的つながりが崩壊していく中で、サッカーがそれに代わる“新たな共同体”を提供する役割を果たしたという側面があると考えるのは妥当だろう。)
“Glocal culture, sporting decline? Globalization and football in Scandinavia”. Sport in Society
ただ一方で、
多くの能力のある国内の選手が海外に移籍していること
デンマークやノルウェーの方が高い給与を支給でき、観客動員数がスウェーデンを上回っている、
「51%ルール」や高税率の影響で、スウェーデンのクラブは他国と比べて競争力を持ちにくい
など、選手の流出や商業化の制限で様々な課題にも直面しています。
この、地元を大切にしていく中での、「クラブがどう稼ぐか」と「地域にどう貢献するか」の統合が重要になってくると思いました。
最後に
スウェーデンのサッカーについて、少しは興味持ってもらえましたでしょうか。
実際、その国のスポーツの歴史を見てみると、その国独特の文化や価値観が反映されてみて面白いと思います!
僕は日本の大学にいたときに、スポーツジャーナリズムについての授業をとっていましたが、経済や歴史など、普通に習うと少し退屈に感じてしまうことも、スポーツというレンズを通して眺めることで、楽しく学べたのを思い出しました。
今スウェーデンの国内サッカーリーグ「Allsvenskan」はオフシーズンですが、3月末からまた始まるので、絶対に観に行ってこようと思います!
他にも、授業のことを日本語で振り返りながら書いたけど、途中で終わって下書きに埋もっている、、といったnoteがたくさんあるので、これから復活させていきたいです。。
最後まで読んでいただきありがとうございました:)