![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/26764890/rectangle_large_type_2_7a117332ea0df16883f708d5d70bee55.jpg?width=1200)
アクアリウム6
半袖のTシャツを着た、季節外れの
天才は、先ほどの発言などもう忘れたかのように
歩いている。 平坦で広い土地には似つかわしくない。
家路はいつも、寂しいものだ。
力亜も僕もそれとなく無言で歩いて帰るのが
最近の常だ。秋はそういう季節なんだ。
大きな塀が、視界をさえぎり始める頃に
力亜は右に曲がる。そう、その塀こそが
力亜の家を囲む物なのだ。
豪邸
漫画やテレビの中でしか聞かない言葉。
触れたことのない世界の物は、無いことに等しいが
彼にとっては日常なのである。なぜなら自分の家だから。
力亜の両親は、葬儀社を経営している。
伝統産業というのは、暗黙の了解があり
古い縄張り意識とでも言うのだろうか、他府県に参入しづらいもの
らしい。地場の互助界という組織が、力を握り
外部からの、新規参入から葬儀会社の組合を守っている格好になっている。
しかしながら、西上家一族はそれを、戦略的経営で
突破して、なんと隣県の互助界ごと買収するという
豪奢なことをやってのけた。
今や全国でも、片手の指に収まるほど、大きな会社になっている。
噛み砕いて言えば、大金持ちなのである。
力亜は、そんな自分の境遇を鼻にかけるでもなく
瓢瓢と暮らしている。彼の興味はお金ではないらしい。
もっとも、うなるほどお金のある家だから、当然かもしれないけれど。
僕が力亜と友達として付き合えるのも
彼の性格に起因していることが多いし
力亜は何故か、僕をやたらと好いてくれているのだ。
天才で変人の金持ちに好かれるのも悪くない。
繊細なカーブを描く力亜の顎を
横から眺めていると、急にこちらを向いた。
少しドキリとした僕の目を見て、力亜は相好を崩した。
「じゃ、来週の日曜日ね。」とまた意味不明の手の動き
「え?何?」
「だからこれだよこれ。おっぱい揉みたいだろ?」
「本気で言ってるの?」
「本気だよ。神が我々に与えた、すばらしい感触だよ。
それがさっき、俺の手の中で美しく表現されたんだ。
それを確かめるんだよ。」
「わかった、わかった。」と言いながらまったく分からない僕は
不安になるばかりだ。
「よし。じゃ、日曜日。裕ちゃん家に迎えに行くからさ。」
「う、うん」
「じゃあね。また明日。」
「じゃ、じゃあね。」
金持ちだからなあ・・・。お金で雇った女の子でも呼んで
よからぬ事でもするのだろうか?僕も興味がないといえば嘘になるけど。
不意に知香子の、胸の谷間を思い出して
いやらしい気持ちになってしまった。
いかんいかん。
頭を振りながら家路を急いだ。